「息子は道に立っていただけで殺された」イスラエルでアラブ系住民への差別表面化 停戦後もくすぶる火種

2021年5月23日 22時09分
射殺されたムーサさん=遺族提供

射殺されたムーサさん=遺族提供

 【カイロ=蜘手美鶴】イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム主義組織ハマスによる攻撃の応酬を受け、アラブ系住民が多いイスラエルの都市で、ガザ支援を表明したアラブ系住民とユダヤ系住民の対立が顕在化している。イスラエル市民権を持つアラブ系住民はこれまで、パレスチナ人とイスラエルの衝突とは距離を置いてきた。双方が合意した停戦は23日で3日目に入ったが、住民同士の対立はイスラエル内の新たな火種になりかねず、社会分断に発展する恐れもある。
 「息子はただ道に立っていただけで殺された。犯人が捕まるまで声を上げ続ける」。中部ロッドで12日、次男ムーサさん(31)を極右ユダヤ人に射殺されたアラブ系住民アブドルマリク・ムーサさん(61)が、本紙の電話取材に怒りを爆発させた。犯人は拘束後に釈放され、イスラエルへの不信感が募る。
 ロッドでは射殺事件後、アラブ系住民らがユダヤ教の礼拝所に放火するなど暴動に発展。商都テルアビブ近郊では極右ユダヤ人がアラブ系住民の男性を殴るなど暴力の連鎖が続き、アラブ系住民の怒りに火が付いた。怒りはガザ空爆への抗議活動として現れ、パレスチナ自治区の住民と同時にストライキを行うなど、アラブ系住民が自治区に寄り添う姿が鮮明になっている。
 イスラエルは人口の7割超をユダヤ人、2割をアラブ系住民が占め、アラブ系住民は1948年のイスラエル建国時も土地にとどまるなどし、後にイスラエル市民権を得た。法的権利はユダヤ人とほぼ同様のため、アラブ系住民の多くは自治区とイスラエルの対立に積極的に関わってこなかった。
 今回のようなアラブ系住民の抗議活動は異例で、イスラエル社会に衝撃を与えると同時に、ユダヤ系市民の反発も招いている。抗議活動に参加したアラブ系住民を解雇したり、市民権剝奪を求める声も上がっており、社会分断の火種になりかねない。
 パレスチナ問題に詳しいエジプト人評論家アシュラフ・アブホール氏は「アラブ系住民の動きはイスラエルの政権側には脅威に映ったはずだ。停戦合意はしたものの、今後アラブ系住民への差別が激化する恐れがある」と懸念を示している。

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