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2023年8月18日

他者からの目線 意識しない選択を 又吉直樹さん(お笑い芸人)インタビュー

 

 お笑い芸人や小説家として幅広く活躍し、「東大吉本対話」で副学長と対談するなど東大との関わりも深い又吉直樹さん。

 

 著書『火花』(文藝春秋)において、「生きている限り、バッドエンドはない。僕達はまだ途中だ。」 という人の心を揺さぶる「言葉」を生み出す又吉さんに、学ぶことや人生について話を聞き、受験生が、どのように学び、生きていくかのメッセージをもらった。(構成・松本雄大、取材・石橋咲、清水央太郎、松本雄大、撮影・園田寛志郎)

 

━━2021年に行われた「笑う東大、学ぶ吉本プロジェクト」の特別講義「東大吉本対話」で東大に来た感想はありますか

 

 それ以前にも何度か本郷キャンパスには来ているのですが、緑が多くて図書館など立派な建物が多いですね。「東大吉本対話」では副学長と「言葉」についてお話ししたのですが、言葉そのものに対するイメージが広がっていくような感覚を味わえました。私も舞台で人前に立って話をするのですが、研究者は言葉に対してまた異なる接し方をしているのが興味深かったです。この時ほど 「言葉」というテーマに向き合って話せたことはないので、東大には面白い先生がいらっしゃるのだなと思いました。

 

━━創作をする際に何かを「学ぶ」という行為が必要になると思います。学ぶ上で意識していることはありますか

 

 小説や映画、エッセイなどいろんなものを見て、それを表面上で記憶して、自分の作品に生かすことはあまりないです。明らかに影響を受けたことが分かってしまうと自分の作品にはなりきっていないと思うので。自分の創作に役立てる上では、自分の中に完全に吸収するというか、自分なりの解釈、自分なりの感じ方を意識するようにしています。 意図的にそうしてはいますが、あまりにも自分の実人生に引きつけ過ぎてしまうことがあるので、正しい鑑賞の仕方かどうかは分からないです。

 

━━ エッセイ『月と散文』の中で自分が良いと思うものを評価することを「泥を飾る」と書かれています。世間の評価にとらわれずに好きなものを好きでいるためにはどうすればいいですか

 

 僕も人に勧められていろいろな作品に触れる機会は多いので、そうやって自分の好きなものを広げていくのは良いとは思うのですが、その影響を受け過ぎて、本当に自分の好きなものが分からなくなるともったいないと思うので、自分への戒めみたいな感じで書きました。

 

 例えば雑誌って、みんながちょっと憧れるぐらいの実現可能なことが書かれているんですよ。頑張れば買えるものが載っていたり、頑張れば行けるお店があったりして。それこそデートプランみたいなものが書かれているわけですよね。どこで遊んで、夜景を見て、最後このお店行って、みたいな。それを見たときに、 僕がひねくれているからなのか、しんどそうだと思うんですよね。もうちょっとゆっくり起きて、お昼は好きなもの食べて、散歩して、喫茶店行って、本屋さんでも行って、本買って、また喫茶店行って、お互い読みたい本を読んで、ご飯食べて帰ったらいいんちゃうんって。でも雑誌に僕のデートプランを載せたら、それこそ、何がおもろいねんじゃないですか。みんながちょっと憧れるデートプランっていうのは、 僕は正直しんどいって感じるわけですよね。相手がそれを求めているなら努力としてやってみて、たまにはいいかもなって思えたら自分の経験にもなるし良いとは思うんですけど。

 

 大多数の人が良いと言うものにばかり触れるようになったときに、本当に自分が好きなものが見えなくなっていくのが怖いなと思うんです。大々的に発信する必要はないし、みんなの価値観を揺るがしてやろうみたいな思いもないのですが、自分が好きなものをどこかの誰かが酷評していたとしても、自分が良いと思ったものは良いし、誰もが絶賛するものであっても、自分にはよく分からなかったというその価値観を大事にしたいです。

 

『月と散文』書影
又吉直樹『月と散文』 (KADOKAWA) 税込み1760円

 

━━ 文章や音楽など全ての活動ができるから芸人を目指したそうですが、自分の可能性を狭めない選択をすることはとても大事なことだと思います。受験や就職など人生の分岐点にいる読者にアドバイスをお願いします

 

 僕は東大生や東大を目指す方にアドバイスをしにくい理由があって、 10代で背負ってるものの大きさが全然違うことなんです。「東大に入ったのに」という他者からの目線があるじゃないですか。僕の場合は何かができると思われていない。だからこそ好きなことを突き詰められるお笑い芸人になろうと思えたのですが、僕も皆さんと同じ立場だったら、東大に入るまでに努力した時間を無駄にしない選択をすると思います。掛けてきたコストを有効に使うことはずるいことではないですし。でも、それを無視できたら選択肢は一気に広がるのではないでしょうか。

 

又吉直樹さんの顔写真
又吉直樹(またよし・なおき) お笑い芸人/80年大阪府寝屋川市生まれ。吉本興業所属後、コンビ「ピース」を結成。 15年には著書『火花』(文藝春秋)で第153回芥川龍之介賞受賞。最新刊にエッセイ集『月と散文』 (KADOKAWA)がある。

 

※本文は書籍『東大を選ぶ2024 東大未来』より「又吉直樹さんインタビュー」から一部抜粋しました。書籍では「もし東大に入るとしたらどんな研究がしたいか」や「受験生へのメッセージ」などを含むインタビューの全文が掲載されている他、「藤井輝夫さん(東大総長)インタビュー」や特別企画「くまモンがつなげる 研究と行政」、「東大教員からの勉強法アドバイス」などさまざまな企画を収録しています。

 

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『東大を選ぶ2024 東大未来』表紙

 

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