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1089ブログ

【国宝 東寺展】仏像曼荼羅の歩き方

こんにちは。彫刻担当の西木です。
特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」にはさまざまな見どころがありますが、やはり最後の展示室に展示されている東寺講堂の仏像群は欠かせません。

21体で構成される仏像群から、本展では史上最多である15体をお借りし、会場に講堂を再現しました。

 

会場風景

ところで、東寺講堂の仏像群は「立体曼荼羅」ともいいますが、古くは「羯磨(かつま)曼荼羅」と呼ばれました。
「羯磨」とは、本来「行為」を意味することばですが、そこから派生して仏の「動作」や「活動」、また「供養」といった、さまざまな意味が生まれました。
空海はその著作で何度も言及し、
「羯磨曼荼羅は、金属や木、土でつくる」(『即身成仏義』など)
と説明しているため、「立体曼荼羅」と言い換えて間違いありません。

そして、「曼荼羅」とは「仏を規則的に配置した図」のことですから、講堂の仏像群はまさに立体曼荼羅の代表といってよいでしょう。

本展で最大のポイントのひとつは、この立体曼荼羅を満喫できる点にあります。

もちろん、本尊の大日如来坐像や不動明王坐像など未出品の仏像もありますし、講堂の厳粛な雰囲気はやはり現地に行かなければ体感できません。

 

東寺講堂の様子

しかし!

お寺では、仏像はすべて高い須弥壇(しゅみだん)に整然と安置されるため、1体1体の仏像をじっくりご覧いただくのが難しいのも事実です。
会場では、仏像を360度からご覧いただけるように展示しているため、普段は決して見られない横顔や後ろ姿、台座まで見ることができます。

といっても、何となく通り過ぎてしまう方もおられると思います。

そこで、「見逃し厳禁!仏像曼荼羅の鑑賞ポイント」をいくつかご紹介します。


ポイント①
ハリのある菩薩の背中


    
国宝 金剛法菩薩坐像
平安時代・承和6年(839) 東寺蔵


いきなり背中で恐縮ですが、正面から拝しても肩幅が広く、ウエストの引き締まった菩薩たちは、背中もきちんと背筋が表わされており、弾力すら感じさせます。
プロポーションは、空海が中国から持ち帰ったであろうインド風の濃厚な下図に拠ったと思いますが、みずみずしい肉体や、写実的な衣のひだは、奈良時代の伝統を受け継ぐ官営工房の職人が手がけたからこその表現。


ポイント②
降三世明王の第4の顔


   
国宝 降三世明王立像
平安時代・承和6年(839) 東寺蔵 


降三世明王立像は、正面から見ても、顔が3つ、腕が8本という人間ばなれした姿ですが、
じつは後ろからみるともう一つ顔が!



光背から顔をのぞかせます。

明王という仏の種類は、インドの神さまの特徴を採用して生まれたと考えられますが、インドでは東西南北の四方に顔を向けるブラフマー神(梵天)のような神さまがいます。その特徴を取り入れたのでしょう。
降三世明王といえば、足元にシヴァ神夫婦を踏みつけることで有名なように、ヒンドゥー教をしのぐ力を持つことをアピールするために考え出されました。

 

シヴァ神夫婦については、ぜひ丸山研究員のブログをご参照ください。

ところが、さきほど述べた顔や手足が多い点や、青黒い身色、額に第三眼をもつところなど、結局はインドの神さまのような姿になってしまったのです。


ポイント③
大威徳明王の水牛のお尻


    
国宝 大威徳明王騎牛像
平安時代・承和6年(839) 東寺蔵 


大威徳明王坐像は、足が6本あるため、ひときわ異彩を放つ明王ですが、ぜひ乗り物にもご注目ください。
立派な体格の水牛がうずくまっております。

 

大威徳明王の脚が3本見えます。6本脚が衝撃的なためか、日本では六足尊とも呼ばれました。

水牛は、インドでは悪魔の使いと考えられ、神々に退治される役で知られます(コブ牛はシヴァ神の使いとされますので、対照的ですね)。また、死神であるヤマ神(閻魔天)の乗り物でもあります。
一方、大威徳明王はそのヤマ神を倒すために生み出された仏で、大威徳明王のサンスクリット語名はなんと「ヤマーンタカ(ヤマを倒すもの)」です。
降三世明王もそうでしたが、密教では倒したい相手の特徴を取り入れることがよくあり、大威徳明王も、ヤマ神の乗り物である水牛に座ります。

それはともかく、見てください、この水牛のプリッとしたお尻!

 


尻尾もくるっと丸まって愛らしいですね。
いつもは五大明王のなかでも向かって左奥にいるため、今こそ水牛を愛でるチャンスです。


いささかマニアックな視点になってしまいましたが、これもあくまでごく一部。
ぜひみなさんでご自分のイチオシポイントを見つけてください。

そして、仏像をご覧になる際には、ぜひ目の前の仏像だけでなく、視線を少し周りにめぐらせてください。
そうすると、自分が「仏像曼荼羅のなかにいる」ことに気づかれるはず。

空海は曼荼羅の説明のなかで「曼荼羅の仏は整然と森の木のように並び」(『性霊集』)と書いています。

そう、今なら「仏像曼荼羅の森」に入ることができるのです。
こんな機会、もう二度とないかもしれません。

62日間限りの曼荼羅体験、ぜひお見逃しなく!!



また、本館14室では特集「密教彫刻の世界」を6月23日(日)まで開催しております。
トーハクが誇る密教彫刻の数々を、ご寄託品も含めて大公開!
特別展「国宝 東寺」を見終わったら、本館にもぜひお立ち寄りください。

今後1089ブログでも取り上げる予定なので、あわせてご覧いただければ幸いです。

カテゴリ:研究員のイチオシ2019年度の特別展

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posted by 西木政統 at 2019年05月08日 (水)