1. 国立劇場おきなわで沖縄を代表する伝統芸能「組踊」を鑑賞!

達人指南

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国立劇場おきなわで沖縄を代表する伝統芸能「組踊」を鑑賞!

  世界的にも高く評価されている沖縄の伝統芸能「組踊」ですが、沖縄以外の人にとっては馴染みが薄い。そこで、沖縄伝統芸能の精髄とも称される組踊の魅力を達人・嘉数道彦さんの案内で徹底ガイド。

組踊の代表的な作品「執心鐘入」の一場面

  組踊とは、せりふを中心に音楽と踊りで構成された沖縄の伝統的な歌舞劇。形式は能や歌舞伎に近いですが、せりふに昔の沖縄の言葉、音楽に琉球音楽、舞踊に琉球舞踊を用いるのが特徴です。
 1972年に国の重要無形文化財に指定され、2010年にはユネスコの無形文化遺産である「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」にも記載され、その価値が国内外で広く認められました。2004年、浦添市に組踊の振興を目的にした国立劇場おきなわが開場。伝統を守りながらも、新作の上演や鑑賞教室などを通じて若い世代への組踊の普及に取り組んでいます。坂東玉三郎出演による新作組踊「聞得大君誕生」が世間の注目を浴びたことは記憶に新しいですね。

取材日/2014年10月1日 取材者/黒田史夫


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嘉数道彦さん
(かかず みちひこ)
嘉数 道彦さん

組踊の達人
  1979年那覇市生まれ。沖縄県立芸術大学大学院音楽芸術研究科修士課程修了。宮城流能里乃会教師。4歳で初代・宮城能造に師事し琉球舞踊を学ぶ。組踊の立方として舞台に立つかたわら、新作組踊作品の創作、脚本、演出も手がけます。2013年、国立劇場おきなわ芸術監督兼企画制作課長に抜擢されます。現代の組踊を裏と表から支える若き達人です。

まずは組踊の歴史を知る

戦後、名護で行われた村踊り。(写真/那覇市歴史博物館所蔵)

  18世紀初頭、中国からの使節・冊封使をもてなすため、踊奉行の玉城朝薫(たまぐすくちょうくん/1684~1734)により創始されたのが組踊です。朝薫は、琉球古来の故事をもとに、能や歌舞伎などの洗練された芸能を取り入れて組踊を作り上げ、1719年に「二童敵討(にどうてきうち)」「執心鐘入(しゅうしんかねいり)」の2作品が上演されました。
 朝薫は後に「銘苅子」(めかるし)「女物狂(おんなものぐるい)」「孝行之巻(こうこうのまき)」を書き、これらは合わせて「朝薫の五番」と称され、現在でも人気の演目となっています。その後、多くの組踊作者が登場し、現在までに70余りの組踊が伝えられていいます。
 もともと宮廷芸能として発展した組踊ですが、1879年の琉球処分により役者や楽器奏者として組踊を支えてきた士族たちが職を失うことになります。野へ下った彼らは那覇の街の芝居小屋に活路を見出し、一般庶民の娯楽に形を変えて組踊は継承されました。同時期に県内各地域に伝播した組踊が、地域の村踊りとして今も残っているのも興味深いです。近年では新作組踊と呼ばれる自由なテーマ、作風の組踊も多く上演され、組踊の普及に一役買っています。

組踊の魅力とは何か?

国立劇場おきなわのステージに立つ達人・嘉数道彦さん

  幼少の頃から沖縄の伝統芸能に慣れ親しんできた達人・嘉数道彦さん。「それほど関心がなかった」という組踊の魅力に目覚めたのは遅く、琉球舞踊の研究のために進学した沖縄県立芸術大学でのことです。授業で組踊を学び、発表会の舞台に立ったとき、なんともいえぬ心地よい感覚を得た瞬間があったといいます。いわく「自分の気持ちと体、音楽と客席とがフィットした」瞬間。以来、組踊の様式を理解し、一つ一つの所作の意味を知るにつれ、沖縄独自の深遠な演劇の世界にのめり込んでいきました。立方(役者)のせりふと所作、地謡(奏者)の奏でる琉球音楽が三位一体となって紡ぎだす空間が組踊の最大の魅力だといいます。
 また、「組踊には、琉球の誇りが詰まっている」と達人。組踊は中国からの使節・冊封使をもてなすためのもの。ですが、あえて迎合せず、言葉も音楽も琉球のものを用いました。そこに、当時の人たちの気概を感じると話します。

組踊をより楽しむため、鑑賞のポイント・約束事を学ぶ

舞台を彩る紅型の衣装。朝薫の五番のひとつ「銘苅子」の一場面

  衣装や小道具に注目するのも、鑑賞のポイントのひとつ。色鮮やかな紅型の衣装や、琉球漆器などの伝統工芸品が使われています。また、生演奏の音楽にも耳を澄ましてみよう。
 さらに、いくつかの約束事を理解するだけで、組踊の楽しみ方が違ってきます。組踊は通常、大きな紅型幕をバックに上演されます。途中、セットが変わったり、照明が落ちたりすることで場面転換を図ったり、時間の経過を表すことはないです。立方が舞台上でくるっと回るのは場面転換の合図になっていたり、相手に手をかざすだけで抱き合っていることを表現していたりします。大げさな感情表現はなく、音楽で役者の心情を表現するのです。
 外交戦略的な側面が強かった当時の時代背景を理解したうえで、組踊を鑑賞するのもポイントだ。忠孝の精神をテーマにした作品が多いのは中国の価値観に合わせてのことです。すべてハッピーエンドなのには、「これだけ情け深く、庶民にまで気配りが行き届いた国家運営をしているのだ」という中国へのアピールなのです。

組踊の約束事を知りたい人は以下のウェブサイトがおすすめ。
文化デジタルライブラリー 公式ホームページはこちら

今、新作組踊が面白い

新作組踊の人気作品「組踊版スイミー」の一場面

  近年、新作組踊や現代版組踊と呼ばれる作品が多く発表されています。一口に新作組踊といっても、分かりやすい言葉や現代音楽を駆使したものから、伝統にのっとった新しい組踊作品という意味での新作まで、その定義は様々です。
 自身も新作を手掛ける達人は、新作を「古典への入り口」ととらえています。「若い世代が劇場に足を運ばない現実を見て組踊の将来を危惧した」ことが、達人の新作創りのきっかけになりました。現代人が理屈抜きに楽しめる新作が入り口となって、古典作品に興味を持ってもらうことを切望しています。ただ、間口を広げるあまり組踊の様式から逸脱してしまうのは問題です。「伝統的な組踊の様式性を守りつつ、どこまで初心者に近づいていけるかが重要」と常に葛藤しています。
 「組踊版スイミー」は達人による代表的な新作組踊。誰もが知っている絵本のストーリーを組踊の様式にあてはめた作品。グルクンやミーバイといった沖縄ならではのキャラクターも登場し、組踊の入門編として好評を得ています。

組踊を見るなら国立劇場おきなわへ

昔の沖縄の民家をモチーフにした外観は建築家・高松伸のデザイン

  2004年に完成した国立劇場おきなわ。張出し舞台と花道を兼ね備えた可動式舞台をもつ大劇場は、世界で唯一の組踊専用劇場です。1年を通じて組踊や琉球舞踊、音楽、沖縄芝居、民俗芸能などの公演、各種発表会が開催されています。館内には無料で入場できる資料展示室や図書閲覧室を併設。沖縄伝統芸能に関する歴史的資料が豊富にそろっています。
 2008年からは組踊鑑賞教室をスタート。組踊の歴史や約束事を学びながら観劇できる鑑賞教室は、組踊の入り口として人気。生徒のための組踊鑑賞教室は学校の課外授業などにも多く利用されています。
 また、国立劇場おきなわは定期的に研修生を受け入れ、組踊伝承者の養成にも力を入れています。まさに組踊の総本山のような存在なのです。


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達人・嘉数道彦氏が選ぶ おすすめ組踊3選

組踊初心者のための、おすすめ入門作品3選

  まずは、初心者でも楽しめる入門編に適した作品を3つ紹介します。

  • スイミーの一場面
  • 万歳敵討の一場面
  • 女物狂の一場面
おすすめポイント
  「わかりやすく共感しやすいテーマ」というポイントで選びました。「組踊版スイミー」は組踊の入門編として作った新作組踊。誰もが知っているストーリーなので、子どもから大人まで楽しめる安心感があります。古典作品を鑑賞する前に、新作作品で組踊の雰囲気を味わってみるのもいいでしょう。「万歳敵討」と「女物狂」は古典に分類されますが、300年前の作品でも十分現代に通じるストーリーです。テンポが良く、程よい長さで、場面展開もあるので、約束事がわからなくてもそれなりに楽しめます。人生経験を重ねた人ほど感情移入しやすいのが組踊の良さ。いきなり古典に挑戦してみるのもいいですね。

これを見ておけば間違いなし!おすすめ組踊定番作品3選

  ここでは定番にして組踊の精髄ともいえる3作品を紹介。入門編として紹介した「万歳敵討」「女物狂」と合わせて見れば、あなたも組踊マニア!

  • 執心鐘入の一場面
  • 二童敵討の一場面
  • 花売の縁の一場面
おすすめポイント
  上演回数の多さ、人気の高さから選んだ定番の3選。「執心鐘入」と「二童敵討」は、1719年に初めて上演された組踊作品であり、「朝薫の五番」にも含まれる作品なので外せないところです。特に「執心鐘入」はザ・組踊ともいえる定番中の定番。「花売の縁」は戦後初めて上演された組踊作品としても知られています。沖縄および沖縄芸能復興のシンボル的作品。

番外編 各地域に伝わる村踊り3選

  番外編として、沖縄各地域に伝わる村踊りを3つ紹介。

  • 伊江島の村踊りの風景。写真は東江前区の「久志の若按司」
  • 多良間の八月踊りで演じられる組踊「多田名組」の一場面
  • この京太郎は沖縄でも泡瀬と宜野座区にのみ伝わるもの。
おすすめポイント
  琉球処分により下野した士族たちが伝えた組踊が、村踊りとして県内各地に残っています。地域の人々により豊年祭などで演じられる村踊りは、劇場で観るのとはひと味違う組踊です。その違いを楽しんでもらいたいです。

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国立劇場おきなわの交通アクセス・施設情報

  那覇市と浦添市の境に位置する国立劇場おきなわは、レンタカーでもバスでもアクセス便利。

那覇空港からの交通アクセス

  レンタカーの場合:国道58号を北に約20分。勢理客(じっちゃく)交差点を左折して約500メートル先、右側。那覇市と浦添市の境にある安謝高架橋にのらず、側道に入るのがポイント。
バスの場合:23, 26, 120, もしくは99番のバスにて勢理客下車。約30分。勢理客バス停から徒歩で約10分。

施設情報

  【住所】
浦添市勢理客4-14-1
【電話番号】
098-871-3350(10時~17時30分)
【URL】
http://www.nt-okinawa.or.jp/
【備考】
車いす入場可
無料駐車場有(209台)
クレジットカード使用可

達人が答える組踊のQ&A

Q 組踊はどこで見られるの?
A 伝統的な組踊なら国立劇場おきなわまで。
Q 組踊の開催日や演目などはどこで調べるの?
A 国立劇場おきなわのHPに掲載されています。
http://www.nt-okinawa.or.jp/
Q 組踊の所要時間はどれくらい?
A 通常は2時間以内。演目によっては、4時間に及ぶものもです。
Q 初めてでも大丈夫?沖縄の言葉がわからなくても大丈夫?
A ステージ両脇には標準語の字幕が出るので初めてでも安心です。ステージガイド「華風」(400円)も鑑賞時の助けになります。
Q 鑑賞時の服装は?
A ドレスコードがあるわけではないですが、観客の7割は女性。皆、おしゃれして鑑賞に来るので、あまりカジュアルすぎると浮いてしまうかもしれません。なかにはジャージやサンダル履きで観に来る強者もいるとか。
Q 料金はどれくらい?割引制度はある?
A 大人3100円、大学生2000円。高校生以下(3歳以上)1000円。
障害者割引:2割引き
友の会は入会金1000円、年会費1000円でチケット2割引。他にもチケットの先行発売、ポイントカード、他の国立劇場の割引特典等がありお得。全席指定席なので字幕が見たい人は真ん中より後ろの席、全体を見たい人には2階席がおすすめです。
Q なぜ役者は男だけなの?
A もともと士族男性が演じていた組踊。国立劇場おきなわでは、なるべく伝統に忠実に、ということで古典作品は原則男性演者のみとなっています。
Q 組踊をやってみたいのですが?
A 国立劇場おきなわの研修所や県立芸大の組踊コースなどがありますが、琉球舞踊の基礎がない人には難しいです。まずは劇場に足を運び、好きな役者を見つけたら、その人の研究所に入門して琉球舞踊を学ぶのが近道です。
Q 幼児も入場することはできる?
A 年齢による入場制限はしていませんが、大きな声で泣いたり声をあげたりするような場合は、客席から退席するようお願いしています。大劇場の2階の客席後方には、ガラスで仕切られた観覧室があるので、心配な場合はそちらの利用をすすめています。
Q 飲食はできる?
A 客席内での飲食はできません。公演があるときはカフェが開いており、サンドウィッチやコーヒーなどが食べられます。また、自動販売機もあるので飲み物の購入可能だが共通ロビーや休憩所での利用をお願いしています。
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