映画「あまろっく」 下町家族の悲喜こもごも…江口のりこ、笑福亭鶴瓶、中条あやみの掛け合いは見もの

[ 2024年4月24日 12:00 ]

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 【映画コラム・CINEMA INFINITY】「あまろっく」(公開中)

 家族の物語が好きだ。好きだからそこ適当なお涙ちょうだいのドラマは興ざめする。本作はどうか。兵庫・尼崎市が舞台のベタな人情劇で筋書きも想定内ではある。ただ、随所にグサグサ刺さる言葉があり、結局のところグッときた。

 まず気になるのはタイトルだが、兵庫・尼崎閘門(こうもん)の通称が“尼ロック”。国交省によると、同市内の海抜ゼロメートル地帯の治水や高潮対策と臨海部の船舶利用を両立させるため、1955年に建設。前後の扉を開閉することで水位調整を行い、船舶が運航できるという。

 尼崎市民を長く苦しめた水害から守るヒーロー「尼ロック」に自身を例え、家の中で“不動の定位置”をとるのが主人公・優子の父、竜太郎だ。きまってテレビ前に寝そべり、お菓子片手に阪神戦。手伝いを求められても「わが家の尼ロックやから」と微動だにせず。経営する町工場でも従業員をおだてて働かせ、自分は近所で油を売る。

 それでも周囲に愛されている父のモットーは「人生に起こることは何でも楽しまな」。記者には刺さったが、娘にとってはかんに障る言葉のようだ。能天気でいい加減な父を反面教師に、優子は京大を卒業し、東京の大手企業で質実剛健のエリート社員に。だが他人にも厳しく、協調性のない態度でリストラされ、39歳で尼崎の実家に戻ってきた。

 父との同居復活でニート同然の生活を送る中、急展開が。母の他界から20年近く経ち、父が20歳の美女・早希と再婚!複雑な家庭に育った早希は家族団らんを夢見て“年上の娘”優子にも世話を焼く。縁談まで持ってくる早希にペースを乱され優子はイライラ。だが、ある悲劇を機に家族や人生を見つめ直すことになる。

 化粧っ気がなく、つっけんどんな物言い、常に不機嫌そうな優子を演じるのは江口のりこ。“素”かと思うほど自然な演技で、まさに当たり役だ。父ら周囲のお気楽な言動に鋭くつっこむ掛け合いは見もの!何度も笑わされる。お調子者の愛すべき父を演じる笑福亭鶴瓶も“イメージまんま”で、無理がない。早希役の中条あやみが尼崎の雰囲気にハマるか心配だったが、さすがは大阪人。兵庫県民・江口や大阪出身・鶴瓶との会話の“間”も絶妙で、憎めないキャラを好演した。

 中村和宏監督は1973年、尼崎生まれ。記者も「あま」ではないが大阪市内の下町に育った同年代として、優子の幼少期の暮らしぶりや阪神大震災など劇中で描かれる風景にいちいち心が反応し、記憶を呼び起こされた。

 こう書いてしまうと、関西圏以外の異世代は食指が動きづらいかもしれないが、やはり「家族」は普遍のテーマ。生きていれば孤独に苦しむ時もあれば、身内との関係性に悩む時もあり、重要な選択を迫られる瞬間もある。生きるヒントと言えば大げさだが、迷える時にちょっと心を落ち着かせられる言葉を劇中に見つけられるはずだ。

 ちなみに、本作は今月12日に亡くなった佐川満男さんの遺作となった。工場のベテラン職人としていぶし銀の存在感と愛きょうを発揮。佐川さんの最後の名演を味わってほしい。(萩原 可奈)

 ☆「新宿ピカデリー」「大阪ステーションシティシネマ」ほかで公開中。

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