NHK中條誠子アナ 大先輩の加賀美幸子さんが開いた「放送の扉」

[ 2023年5月2日 09:00 ]

大先輩の加賀美幸子さんについて語った中條誠子アナウンサー
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 【牧 元一の孤人焦点】NHKラジオ第2「アナウンサー百年百話」(水曜後10・00)の今月の特集「女性アナウンサーが開いた放送の扉」の司会を担当する中條誠子アナ(49)がインタビューに応じ、初回(3日放送)と第2回(10日放送)にゲスト出演する大先輩の加賀美幸子さん(82)について語った。

 「加賀美さんはこの仕事を60年続けています。そして今も『この仕事をこうしたい、ああしたい』という思いにあふれています。目指してきた『出過ぎず』『足りな過ぎず』『胸に届く』という表現を実行するためには、よく勉強し、周りのことを把握し、自分の肉体表現を磨かないといけない。一つでもさぼれば、バランスが崩れてしまう。それを若い時からずっとやり続けて来て、今の声がある。御年82歳ですが、声の張りに説得力があり、その声に仕事に対する誠実さが表れています」

 加賀美さんは1963年にNHKに入局。当時は現在のように女性アナがキャスターとして活躍する時代ではなく、女性アナが初めて午後7時のニュースに男性アナと並んで登場したのは79年だった。加賀美さんは翌80年から午後7時のニュースに出演した。

 「当時のニュースデスクに取材すると、当時は男性の記者が自分の書いた原稿を女性に読まれると格下扱いされたような心持ちになるという風潮があったようです。海外のニュース番組で男女が並んで対等に伝えているのを見た何人かの有志が、海外と同じ方向に進もうと試みても固定概念の壁が厚く、なかなか進めなかったそうです。番組では、その頃のことを加賀美さんに質問しましたが、ご苦労に関してはうかがえませんでした。そこは加賀美さんの美学なのだと思います。『男女の違いではない。問題はそのアナウンサーがどう伝えるかということ。見ている人にちゃんと伝われば認めてもらえる。私はそうのようにやって来た』とおっしゃっていました」

 加賀美さんは79年から80年にかけて「NHK特集 激動の記録」を担当。女性アナが長時間のドキュメンタリー番組の語りを務めるのは初めてだった。

 「『激動の記録』は編集がなく一発撮りでした。1本目が79分、その後は49分でしたが、加賀美さんの声は79分の最初から最後まで音圧が下がりません。これは凄いことですが、加賀美さんは『命がけと言うと大げさになるが本当に真剣にやっていた』とおっしゃっていました。そのように真剣に番組に臨む姿勢が、微動だにしない、堂々とした感じ、力強さにつながっていると思いました」

 加賀美さんの活躍の場は報道系だけではなかった。79年からバラエティー番組「テレビファソラシド」の司会を務め、企画・構成・出演の永六輔さんやタモリらと共演。NHKの女性アナがバラエティーでアドリブを求められるのは初めてだった。

 「永六輔さんから『笑いに乗るな』とアドバイスされたそうです。タモリさんが何かふっかけてきても、それに乗らない姿勢を貫くことで、真面目なNHKアナウンサーとのギャップが生まれて面白さが出る。この番組で加賀美さんはワンクッションの大切さに気づいたそうです。ワンクッションとは息づかいだとおっしゃっていました。その人の人間性やおかしさは息づかいとセットになって初めて人の胸に届く。そういうやりとりの柔らかさが加賀美さんに加わり、だから、加賀美さんはずっと愛され続けているのだと思いました」

 特集名の通り、1970年代末から80年代初めにかけて加賀美さんが「放送の扉」を開いたと感じる。それは、加賀美さんでなければなしえなかったことかもしれないし、誰かがなしえたとしてももっと時間を要していたかもしれない。

 「加賀美さんは『時代の風が吹いた。私はそこに乗った』とおっしゃっていました。印象的だったのは、私が『当時は重いニュースは男性アナウンサー、トピックス的なものは女性アナウンサーでしたね?』と尋ねた時、『重い、軽いはない。どれも大事。情報は全て真剣に伝える』とおっしゃっていたことです。私は、加賀美さんの力強さの源は、ご自身の中に偏見がなかったことだと思います。偏見がなかったから、時代の風が吹いていない時でも他人のせいにすることなく、黙々と自分のスキルを磨き続けたのではないでしょうか」

 加賀美さんは「女性」として「扉」を開いたわけではなかった。性別に関係なく、自分がやるべきことに誠実に取り組んで、その結果として扉は開かれた。四十数年後の現在も変わらない、仕事の真理にも思える。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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