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窪田空穂記念館30周年 歌人・研究者らの思い後世に

近代日本文学史に大きな足跡を残した空穂を紹介する館内展示

 東筑摩郡和田村(現松本市和田)出身の歌人で国文学者の窪田空穂(1877~1967)をしのび、業績をたたえる、松本市和田の窪田空穂記念館が今月、30周年を迎えた。顕彰を願う市民や門下らの後押しを受けて誕生し、短歌関連資料の収集展示や調査研究、向かいの生家を使った文化事業などを展開してきた。創立期から運営を支えた歌人や研究者が近年相次いで亡くなる中、関係者は先人の思いとともに、施設が継承されるよう願っている。

 空穂の没後20年事業が行われた昭和62(1987)年に設立の機運が高まったのが始まり。キッセイ薬品工業名誉会長の故・神澤邦雄氏らが立ち上げた顕彰会や門下らでつくる空穂会、地元住民らによる市への陳情や多額の寄付、資料寄贈などを経て平成5(1993)年6月に開館した。
 明治8(1875)年築の生家に向き合う形で建てられた記念館は市内出身の建築家、故・柳澤孝彦氏が設計。生家の本棟造りや北アルプス、和田の集落や自然に調和する。館内では空穂の作品や遺品、空穂系短歌結社の刊行物などを常設展示し、生家を活用した文化講座や短歌講座、子供向け伝統講座も広く展開してきた。
 一方、市立博物館の分館施設として予算や人手は潤沢ではない。創立当時より情熱を持って施設を支えた記念館運営委員の歌人、来嶋靖生さん(享年91)と篠弘さん(同89)、歴史学者の上條宏之さん(同87)も昨年末以降相次ぎ亡くなった。同館は「遺志を継ぎ、与えられた条件の下でできうる限りのことをしたい」と今秋に向けて30年の歩みの展示を企画する。
 一帯では今後中部縦貫道の建設工事が本格化し、かつて空穂が眺めた環境も将来変わる可能性がある。栗田正和館長は「時代が変わっても、多くの願いや思いによって記念館が生まれた重みを忘れず施設が継承されるように」と話している。