■11月2日 拳銃立てこもり犯が86歳とは驚くほかなかった。自宅アパートに火をつけ10分後に病院で発砲し、さらにバイクを飛ばして郵便局に人質をとってたてこもった。31日に埼玉県の戸田、蕨両市で起きた一連の事件で逮捕された鈴木常雄容疑者の大胆な犯行は、せいぜい万引か窃盗といった高齢者の犯罪の概念をひっくり返した感じだ。
郵便局の入り口で、懐から拳銃を取り出して引き金に指をかけ威嚇する様子は夕方のテレビニュースが正面から捉えていた。専門家が「かつて大量に密輸され暴力団に流れたロシアのトカレフだろう」と分析したほど拳銃もハッキリ映っていた。見たこともないような衝撃的映像だった。
郵便局は過去に局員とバイク同士の物損事故が起き、話をするために押しかけたとか。局内で作業していた職員によると「カウンターを飛び越え内側に入ってきた」。身体年齢は若いようだが、さすがに大捕物の末に確保された後はどっと疲れが出たのか後部座席でぐったり。ただのジイさんでしかなかった。
いくらなんでも普通に暮らす高齢者が突然懐から拳銃を取り出すことなどありえないが、鈴木容疑者は元暴力団員という報道もあり足を洗っても拳銃だけは隠していたのかもしれない。元がついても反社会的勢力に厳しい目を向ける世間から孤立し、突然自暴自棄になって二度と帰らぬ覚悟で自宅に火をつけ拳銃を…。そんなストーリーも考えられる。
銃規制の厳しさは世界一といわれる日本だが、現実に闇から闇へと渡った拳銃を目の当たりにするとゾッとする。日本でもまだまだある所にはあるものだとも思う。銃に関する「安全神話」をブチ抜いた86歳の拳銃でもあった。(今村忠)