名建築

町のシンボルとなる
全天候型のドーム施設

金武 きん町多目的屋内運動場施設

金武町多目的屋内運動場施設

外観。RC造の上に金属と白い膜のコンビネーションの屋根が載る。三角形の金属屋根部分がデザインのポイント

有限会社創建設計事務所

建築部長

菊原 康昭 氏

 

金田 陽子 氏

町をあげて町民の健康増進に取り組む

沖縄本島中央部に位置する金武町。金武湾に注ぐ 億首 おくび 川上流には金武ダムがあり、マングローブの林に覆われ、カヤックの体験ツアーなども行われています。金武湾港海岸ギンバル地域の豊かな自然を生かし、「ウェルネスの里づくり」をテーマに整備が行われています。

金武町も町民の健康増進を目標に掲げており、この地区にはベースボールスタジアム、フットボールセンターが建てられ、またスポーツ関連の医療を行うクリニックも有するなど、スポーツに力を入れている地区です。

2023年1月、この地区のベースボールスタジアムの近くに、新たに「金武町多目的屋内運動場施設」が完成しました。

この施設は町民のための全天候型多目的ドームとして、フットサルやゲートボールなどを行うことが可能です。また金武町はプロ野球楽天イーグルスのキャンプ地になっており、屋内練習場としても利用され、さらに、スポーツ以外にも大小さまざまなイベントに使用することも視野に入れています。

施設内には、仕切りを設けて2つの部屋にすることも可能な多目的室を設け、会議やイベント、ダンスの練習などにも使えるようになっています。

県内のドーム施設を視察して設計を進行

金武町からは町の目玉になり、ウェルネスの里の入口に建つシンボル的な施設にしてほしいという希望がありました。そこで設計に際して、県内にあるいくつかの多目的ドーム施設を視察して、ドームの形状や施設内の設備を検討しました。

ドーム屋根は、膜屋根、金属屋根、その両方をコンビネーションしたものと多種ある中で、本施設は金属屋根・膜屋根の両方を使った形にすることに決定しました。

シンボル的な施設といっても奇抜で派手なデザインではなく、シンプルでも存在感のある建物にすることや、周辺のスポーツ施設との調和も考慮し、基本的な機能を満たしていくことがデザインにつながるという考え方で設計を進めました。

屋内運動場施設の面積は約3,000㎡。南北面が66m、東西面が57mの正方形に近い平面をしています。建物の正面入口は南面にあり、東西の面は、沖縄の強い日射しを遮るために窓の外側に跳ね出し部分を大きく取って縦ルーバーを設けています。

海から至近の距離に位置する。白い膜屋根は南北方向にかかり、東西面の屋根にはドーマーが設けられ入母屋風の形状になっている 

海から至近の距離に位置する。白い膜屋根は南北方向にかかり、東西面の屋根にはドーマーが設けられ入母屋風の形状になっている 

膜屋根と開口部からの光で明るい内部。鉄骨造の屋根架構。野球の内野練習やフットサル、ゲートボールなどができる広さ

膜屋根と開口部からの光で明るい内部。鉄骨造の屋根架構。野球の内野練習やフットサル、ゲートボールなどができる広さ

金属屋根の上に膜屋根、さらに金属屋根が載る。金属屋根部分に高所での作業用のメンテナンスパイプが設置されており、S造とRC造部分とはエキスパンションジョイントで納めている

金属屋根の上に膜屋根、さらに金属屋根が載る。金属屋根部分に高所での作業用のメンテナンスパイプが設置されており、S造とRC造部分とはエキスパンションジョイントで納めている

屋根端部の複雑な取り合い。軒天とドーマー部分にはサイディングハイシャドーを使用

屋根端部の複雑な取り合い。軒天とドーマー部分にはサイディングハイシャドーを使用

軒天と東西面の跳ね出し部分。金武町のシンボルカラーの濃紺に塗られたルーバーがアクセントになっている

軒天と東西面の跳ね出し部分。金武町のシンボルカラーの濃紺に塗られたルーバーがアクセントになっている

金属屋根と膜屋根のコンビネーション

ドーム屋根部分は、鉄骨の架構の上に金属屋根と膜屋根を配置しています。屋根は約3分の2が金属屋根、3分の1が光を透過する膜屋根の比率にし、効率的に光を採り入れるように考えました。

東西面(妻面)は開口部が多くあり光が十分に入りますが、南北面は開口が少ないため、膜屋根の面積を広げてそこから光を入れています。

「白い膜屋根部分に何かもうひと工夫したい」という町からの要望を受け、金属屋根で三角形のポイントを形成し、他のドーム屋根にはない特徴的な外観となりました。

ドーム屋根の形状は、雨仕舞いに配慮し、なめらかで谷樋が多く現れないような形にしたいと考え、防水性の高い三晃金属工業のR-T工法を採用しました。

また、この地域にはホテルがあり、客室からの眺めに配慮するため、反射を抑えた材質であるNSSC220Mダル仕上げを採用しました。

建物の四周をめぐる軒天には、リブ付きのサイディングハイシャドーを使用しています。

本施設屋根は通常屋根と異なり急勾配で、メンテナンス・点検を行うにも危険が伴うため、メンテナンスパイプの設置を提案いただき、配置することでメンテナンス時の安全性が向上すると期待しています。

3月から施設の本格的な利用が始まった「金武町多目的屋内運動場」が、長く町民の皆さんに愛される施設になるよう願います。

施工に携わって
三晃金属工業㈱ 九州支店沖縄営業所

金属屋根の上に膜屋根、さらにその上に金属屋根が配置された急勾配のアーチ多面体屋根で、膜屋根とR-T工法の金属屋根との取り合い、さらにエックスロン防水谷樋が重なり、複雑な納めになっています。

施工は、急勾配の屋根上で高所作業となるため、作業用足場を作る必要性がありました。

施工班と相談しながら特殊な屋根固定クランプ・スタンションを製作、設置後、ゴムハシゴ・ゴムシートを併用し、いかに安全に作業を進めるか、細心の注意を払いました。

沖縄は、年に数回大型台風が襲来し塩害も激しく、また紫外線による劣化が激しい地域です。金武町が特に雨の多い地域であることを考慮し、谷樋をエックスロン防水樋で施工し、ジョイント部分を帯シートで再度融着することで止水効果をアップさせました。

また屋根・谷樋、軒天のジョイント部分でアクセントになっているのが金属製パネルです。意匠性を上げるために笠木と軒天の間にボーダーパネルを施工しており、軒天の落下防止対策、補強材としての機能も果たしています。

他にも躯体梁との取り合い部にフェライト系ステンレスエキスパンションを施工し、意匠性および強度を上げた納まりとなっています。

複雑な屋根形状でしたが、施工班の協力のもと、強くて美しい屋根に仕上がりました。

屋根材の荷揚げ。いったん屋根材を水平に吊り上げてウインチで勾配を付けながら下げて設置 

屋根材の荷揚げ。いったん屋根材を水平に吊り上げてウインチで勾配を付けながら下げて設置 

棟部分の屋根葺き。座位で安全に作業できるように作業台を設置している 

棟部分の屋根葺き。座位で安全に作業できるように作業台を設置している 

膜屋根と金属屋根の納まり部分の溶接作業 

膜屋根と金属屋根の納まり部分の溶接作業 

膜屋根・金属屋根・軒先・谷樋の取り合い 

膜屋根・金属屋根・軒先・谷樋の取り合い 

妻側端部、ドーマー部分、下屋根の取り合い

妻側端部、ドーマー部分、下屋根の取り合い

建築概要

所在地 沖縄県国頭郡金武町字金武10890番地
事業主体 金武町
敷地面積 21,711.61㎡
建築面積 4,120.18㎡
延床面積 3,672.00㎡
構造規模 鉄筋コンクリート造、鉄骨造
屋根仕様 R-T工法/フェライト系ステンレス鋼板(NSSC220M) t=0.4mm 2,932㎡
軒天仕様 サイディングハイシャドー/カラーステンレス鋼板(SUS304 フッ素) t=0.6mm 695㎡
金属パネル 笠木パネル/フェライト系ステンレス鋼板(NSSC220M) t=1.0mm 245m
エキスパンション/フェライト系ステンレス鋼板(NSSC220M) t=1.0mm 228m
谷樋仕様 エックスロン防水樋/エックスロン鋼板 t=0.6mm 285m
設計 ㈲創建設計事務所
施工 ㈱ホカマ・㈲神仲組・㈲仲正組建設工事共同企業体
竣工 2023年1月