「借金減額」ネット誇大広告のワナ 弁護士の貧困ビジネスか、対策団体発足

多重債務者が「借金を減額」「国公認の救済制度」などをうたう弁護士らに相談し、逆に借金が増えるといった二次被害に遭っているとして、有志の法律専門家が被害対策全国会議を結成した。インターネット広告で大量に集客した上、高額な報酬を要求したり、無謀な返済計画を立てたりする悪質な事案が確認され、「詐欺的な広告による貧困ビジネスだ」と問題視している。

多重債務問題に取り組む弁護士らが昨春、全国の支援団体に調査。ネット広告を見て弁護士や司法書士に債務整理を依頼したのに借金が減らなかったり、新たに「ヤミ金融」に手を出して債務が増えたりしたといった相談が30件以上寄せられていることが判明した。

債務整理には、裁判所が関わる「破産」や、弁護士らが債権者と交渉し債務額を確定させる「任意整理」などがある。相談者の中には破産すべきケースでも、比較的手間がかからない任意整理が選択されていた。

任意整理で返済計画を立てる際、面談を通じ依頼者の収入や生活実態を詳細に把握する必要がある。実態に合わない返済計画は、返済のために新たな借金を招くためだ。

ただ、問題の事務所は「全国対応」を掲げ、ネットや電話の短いやりとりだけで完結。実態を把握しないまま機械的に返済計画を立てることで報酬を得る〝ビジネススタイル〟で、報酬の支払いが滞るとすぐに辞任するケースもあった。広告会社などに事務手続きを任せる弁護士法違反(非弁提携)も疑われる。

インターネット広告を通じて依頼した債務整理で、二次被害に遭ったという被害者の声を紹介する全国会議のメンバーら=2月27日、大阪市北区
インターネット広告を通じて依頼した債務整理で、二次被害に遭ったという被害者の声を紹介する全国会議のメンバーら=2月27日、大阪市北区

全国会議によると、そもそも債権者側が交渉で借金の減額に応じるケースはほとんどない。全国会議の植田勝博弁護士(大阪弁護士会)は「明らかに誇大広告だが、専門家への信頼感から多くの人は被害の認識すらない。まずは被害を掘り起こしたい」と話す。

全国会議では3日午前10時~午後5時に全国各地で電話相談会を開く。各地の連絡先は「大量広告事務所による債務整理二次被害対策全国会議」のホームページで公表している。

返済金半分は弁護士の懐に…解任後知った実態

大阪市の30代男性は十数年前から、生活費やギャンブルなどのために消費者金融で借金を重ねるようになった。返済に困り、2年ほど前に見つけたのが「借金を減額します」というネット広告。簡単な項目を入力する診断で「減額の可能性がある」との結果が出たため、わらにもすがる思いでサイトに記してある弁護士事務所に連絡した。

男性によると、広告とは違って「減額はできない」と言われたが、200万円ほどあった債務を任意整理するよう勧められ、5年間、毎月3万5千円を支払うことが決まった。その間、弁護士と話したのは最初の電話のみだった。

しかし、すぐに支払いに苦労するようになり、ヤミ金融に手を出した。借入先は気づくと13社に膨らんだ。過酷な取り立てで仕事を続けられなくなり、自殺も考えた。

弁護士を解任し、送られてきた明細で初めて、約2年間で返済のために支払った87万円の半分が、弁護士費用に充てられていたと知った。任意整理で弁護士が消費者金融側と確定させた金額は把握していなかったが、残った借金は自身が当初認識していた200万円より増えており、「どういうことか分からない」と戸惑う。

男性の被害相談を受けた新川(にいがわ)真一司法書士によると、最初に弁護士が十分な対応をしていれば「負のスパイラル」を抜け出す見通しは十分あった。男性は今、破産を考えており、「困ったときにすぐ見つかるのがネット広告だが、そこに頼るのが本当にいいのかよく考えてほしい」と声を絞り出した。(西山瑞穂)

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