2階級降格なら「白鵬理事長」は絶望的に 弟子の不祥事で元横綱に下る異例厳罰の背景

鬼筆のスポ魂

大相撲初場所7日目、レスリング東京五輪金メダリストの須崎優衣(左)と談笑する宮城野親方=1月20日、両国国技館(蔵賢斗撮影)
大相撲初場所7日目、レスリング東京五輪金メダリストの須崎優衣(左)と談笑する宮城野親方=1月20日、両国国技館(蔵賢斗撮影)

大相撲で史上最多の優勝45回を誇る実績は何の助けにもならなかった。弟子の幕内北青鵬(22)に悪質な暴力行為が発覚し、監督責任を問われることになった宮城野親方(38)=元横綱白鵬。2階級降格の処分が確定すれば、現役時代に一時代を築いた大横綱の立場は、日本相撲協会で最下位の平年寄にまで落ちる。将来的な「宮城野理事長」の実現は絶望的な状況になりそうだ。

日常的に暴力行為

日本相撲協会のコンプライアンス委員会(青沼隆之委員長=元名古屋高検検事長)は21日に東京・両国国技館で会合を開き、宮城野親方を現在の委員からの2階級降格と減俸の処分とする案をまとめた。弟子の北青鵬が日常的に後輩力士を殴るなどの暴力行為をしていたことが発覚。他の力士を殴ったり、火であぶったりしたとする行為が噂されている。

事態を重く見た相撲協会側は初場所中から関係者を事情聴取し、実態を把握。23日の臨時理事会で、宮城野親方の処分案とともに北青鵬に対する引退勧告案について協議する。北青鵬は引退を受け入れる方向だ。

大相撲初場所5日目、湘南乃海を下手投げで下す北青鵬。後輩力士への日常的な暴力行為が明らかになった=1月18日、両国国技館(萩原悠久人撮影)
大相撲初場所5日目、湘南乃海を下手投げで下す北青鵬。後輩力士への日常的な暴力行為が明らかになった=1月18日、両国国技館(萩原悠久人撮影)

北青鵬は1月の初場所で右ひざの負傷を理由に6日目から途中休場。宮城野親方は手術を受けさせる方向性を示していたが、同時期に暴力疑惑が浮上し、週刊誌にも報じられた。コンプライアンス委員会に出席した宮城野親方は弟子の暴力を把握していなかったと弁明したが、実情を知る関係者によると「親方は素行の悪い北青鵬の指導に困っていた」という。

理事選に意欲との情報も

宮城野親方はモンゴル出身。史上最多の幕内優勝45回を誇り、数々の大記録を樹立した。令和3年9月に引退し、4年7月に部屋を継承。NHK解説ではきめ細かな技術論を披露し、理論派としても知られている一方で、将来的に角界のトップである理事長の座を目指していると噂されていた。

一時期は1月の理事選に出馬する意欲をみなぎらせているという情報も流れたが、結局は不出馬。浅香山親方(51)=元大関魁皇=を理事に推す伊勢ケ浜一門の方針に従った。

相撲協会の理事は定員10人。角界の5つの一門(出羽海、二所ノ関、時津風、高砂、伊勢ケ浜)がそれぞれ理事を擁立し、2年に1度の理事選は一門による事前の調整で無投票に終わるのが慣例だ。しかし、宮城野親方は「白鵬の乱」を起こすのでは…とみる向きもあった。背景には横綱として土俵に長く君臨したのと同様に、いずれ理事長として角界に君臨する野望がある-と周囲が感じ取っていたからだ。理事候補は春場所(3月10日初日)後の評議員会で正式に新理事に就任し、理事長を互選。八角理事長(60)=元横綱北勝海=の続投が濃厚の情勢だ。

横綱らしからぬ立ち振る舞い

宮城野親方はじっくりと将来の夢に向かって足固めするつもりだったのだろうが、今回の厳罰が正式決定すれば理事長どころか理事の座も大きく遠のく。弟子の不祥事とはいえ、異例の2階級降格処分が〝内定〟した背景には、横綱時代に自身の取組に「物言い」を求めたり、優勝インタビューの後に万歳三唱を行ったり、張り手やかち上げなど横綱らしからぬ立ち振る舞いが度々、問題視されたこととの因果関係を指摘する関係者は多い。

平成29年の九州場所で、取組に物言いをつけたことについて日本相撲協会から厳重注意を受けた白鵬=平成29年11月23日、福岡国際センター
平成29年の九州場所で、取組に物言いをつけたことについて日本相撲協会から厳重注意を受けた白鵬=平成29年11月23日、福岡国際センター

23日の臨時理事会では、今後の宮城野部屋の運営方法についても話し合われる見込み。宮城野親方はコンプライアンス委員会終了後、無言を貫いた。栄光の裏にある影の部分が相撲人生に微妙に影響を及ぼし始めた-といえないだろうか。

植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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