「隣人X」で7年ぶり映画主演の上野樹里 「いま、充実して楽しい」

「良子を演じているとき、表に立つのは良子。役者は裏方」と語る上野樹里(石井健撮影)
「良子を演じているとき、表に立つのは良子。役者は裏方」と語る上野樹里(石井健撮影)

「隣人X-疑惑の彼女-」(熊澤尚人監督)は上野樹里(37)の7年ぶり主演映画。「惑星難民X」という「よそ者」に向ける警戒、偏見、差別をシリアスに、緊迫感に満ちて描くSFサスペンスだ。円熟期を迎え、「いま、充実していて楽しい」と笑う上野に話を聞いた。

撮影は昨秋。熊澤監督から上野に最初の脚本が送られてきたのは、その1年半から2年ほど前のことだったという。

原作は小説だが、「『隣人X』という題名がすごくひっかかった。隣人って、近しい人、親しい人のことだと思うんだけど、そこにXという異質な文字が入っている」と強く興味をもった。

熊澤監督とは「虹の女神 Rainbow Song」(平成18年)で顔を合わせていた。人づてに連絡をとり、「この脚本は、もっとおもしろくなる」。熊澤監督とともに2年近くかけて脚本開発に取り組んだ。

「8時間とか6時間とかの打ち合わせを何度かやった。私が演じる柏木良子という役にちゃんとおもしろい役割を与えることが大事。監督は私の意見も反映してくれて、確実によりおもしろいものへと変わっていった」

映画「隣人X -疑惑の彼女-」ⓒ2023映画「隣人X -疑惑の彼女-」製作委員会ⓒパリュスあや子/講談社
映画「隣人X -疑惑の彼女-」ⓒ2023映画「隣人X -疑惑の彼女-」製作委員会ⓒパリュスあや子/講談社

政府が惑星難民Xを受け入れ、Xは人間の姿をして日常に紛れ込んでいる。

ある週刊誌がXは危険な存在だと世論をあおる。Xの疑いがある良子の正体を暴こうと記者の笹憲太郎(林遣都)を近づかせるが、憲太郎は次第に良子に引かれていく。

「Xって、そもそも何だろう。人って、分からないものイコール怖いもの。そして、恐怖心こそ人を一番動かしやすい」

やがて記事が原因で、ある人物がマスコミに追われ、偏見に基づいた世間からの攻撃にさらされる。

上野は18年のフジテレビ系ドラマ「のだめカンタービレ」の主人公、野田恵を演じて脚光を浴びたが、その後、「何を演じても『のだめ』だ」と、いわれなき批判にさらされることになる。

「頑張っても、頑張ってもバッシングされて、罪でも犯したように肩身狭く生きて、他人の視線が怖い時代があった」と告白する。

だが、今年、その「のだめ」のミュージカル版に主演した。そして、「のだめ」と同じ頃に出会った熊澤監督と、この映画を作った。

「コロナ禍をへて、のだめちゃんで皆さんを元気づけ、一方、この映画で皆さんの生き方、物の見方を改めて見直してほしいというメッセージを発信する。その両方ができて、いまは充実して楽しいって感じです」

(石井健)

12月1日から全国公開。2時間。野村周平、ファン・ペイチャ、バカリズム、酒匂芳らが共演。

うえの・じゅり 昭和61年、兵庫県出身。平成15年、「ジョゼと虎と魚たち」で映画デビュー。初主演作「スウィングガールズ」で日本アカデミー賞など新人賞を総なめに。ドラマもNHK連続テレビ小説「てるてる家族」、大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」、フジテレビ系「監察医 朝顔」など多数。夫はミュージシャンの和田唱。

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