社説検証

日比首脳会談 対中抑止で連携をと産読 朝日は「軍事偏重」を懸念

会談前にフィリピンのマルコス大統領(右)と握手する岸田首相=3日、マニラ(共同)
会談前にフィリピンのマルコス大統領(右)と握手する岸田首相=3日、マニラ(共同)

岸田文雄首相がフィリピンを訪問し、マルコス大統領と会談した。両首脳は、自衛隊と比軍の相互往来をスムーズにする「円滑化協定(RAA)」の交渉入りなどで合意した。日本がRAAを締結しているのは「準同盟国」と位置付ける英国とオーストラリアだけだ。

東・南シナ海で軍事的威圧を強める中国をにらみ、日比両国が安全保障面での協力を進めることを産経と読売は歓迎した。朝日は対照的に「中国も包摂した国際秩序」を提唱するなど、中国への配慮をにじませた。

産経は「日本とフィリピンが『準同盟』級の関係に向けて歩を進めたことを歓迎したい」と主張(社説)の冒頭で、協力の意義を強調した。

フィリピンが中国と領有権を争う南シナ海は「日本にとって安保、通商の両面で極めて重要なシーレーン(海上交通路)」であり、台湾を挟む形で位置する日比両国は、「台湾有事とは無縁ではいられない」からだ。

このため、もし中国の軍事的威圧によってフィリピンが「『自由で開かれたインド太平洋』を追求する仲間から脱落」すれば、日本の安保・経済環境を悪化させるだけでなく「自由と民主主義を掲げる台湾の存立も脅かされる」と指摘した。

読売も「中国の強引な海洋進出を抑止するうえで、日本とフィリピンが安全保障面での協力を拡充させていく意義は大きい」と強調した。

尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺で中国海警局船が領海侵入を繰り返していることにも触れ、「中国が日本の主権を侵害している状況は看過できない」と批判した。

首脳会談では、日本が政府開発援助とは別枠で設けた「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を初適用し、比軍に沿岸監視レーダーを無償供与することでも合意した。

読売は「OSAは、『法の支配』など日本と価値観を共有する開発途上国などの軍を支援することで、地域の安定を確保する狙いがある」と解説、「日本と友好国との関係を強化する手段として活用していきたい」と期待を寄せた。

一方、朝日は「(日比両国が)力による一方的な現状変更に反対し、連携して対処することには意味がある」としつつ、「中国との対話を含めた、バランスの取れた外交努力が求められる」と論じた。

米国の動きに関しては警戒を示唆する。

米国が「豪州、韓国、インドなども視野に、地域の同盟国や友好国をつなぐ「『ネットワーク化』を進めている」のは、「(米)一国だけで中国に対抗するのは困難」とみているからだとの見方を示した。

そのうえで「地域の安定を損なうような敵対的な包囲網」とならぬよう、日比両国は「中国も包摂した国際秩序につなげる」よう訴えた。

しかし中国は、日米比などが共有する「法の支配」に基づく国際秩序に対抗し、覇権的な動きを強めている。

この現実を踏まえ、産経は「日米比3カ国が協力して対中抑止力を高めていくことは重要だ」と力説した。

岸田首相はフィリピンの後、マレーシアを訪問した。アンワル首相との会談では、海上保安機関の共同訓練など、海洋分野での協力強化で一致した。

日経は、フィリピンをはじめ東南アジア諸国連合(ASEAN)との安保上の関係強化の重要性を強調した。

日本の対ASEAN外交はこれまで経済協力が中心だったが、「いまの米中対立下で日本には安保支援の期待も強まる。地域の緊張を高めることは避けつつ、連携を着実に進めたい」と訴えた。

日本とASEANは今年、友好協力50周年を迎えた。12月には東京で特別首脳会議も開催される。フィリピンをはじめとするASEANと経済、安保両面で協力関係を深めていくことが、今ほど必要なときはない。(川瀬弘至)

■日比首脳会談をめぐる主な社説

【産経】

・準同盟級の関係構築急げ(5日付)

【朝日】

・地域の緊張高めぬよう(7日付)

【読売】

・中国抑止の利害が一致した(5日付)

【日経】

・日ASEANは安保協力を着実に進めよ(7日付)

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