増える「無縁墓」苦慮の自治体 納骨堂へ墓じまいも

谷中霊園の一角。長年放置された墓所の前には管理事務所が立てた「無縁看板」があった=19日午後、東京都台東区(白岩賢太撮影)
谷中霊園の一角。長年放置された墓所の前には管理事務所が立てた「無縁看板」があった=19日午後、東京都台東区(白岩賢太撮影)

管理する親族らがいなくなった「無縁墓」が各地で増え、自治体が対応に苦慮している。総務省が初めて全国調査したところ、公営墓地などに無縁墓を抱える自治体は6割に上り、解消に向けては多くの課題もある実態が明らかになった。多死社会が到来し、弔いに対する日本人の意識が変わりゆく中で、墓地行政の在り方も岐路に立っている。

荒廃した墓石

高台からスカイツリーを望む東京都台東区の都立谷中霊園。園内には幸田露伴の小説「五重塔」のモデルになった天王寺五重塔の跡もあり、渋沢栄一や鳩山一郎ら著名人の墓碑が各所にある。

園内をくまなく歩いていると、樹木や雑草がうっそうと生い茂り、誰も墓参していないのか、荒廃した墓石も目につく。「この墓所のご縁者様は下記番号をお控えのうえ霊園事務所にお立ち寄りください」。墓所の前にある立て札にはこう書かれてあった。

「無縁看板」と呼ばれ、管理料を5年以上滞納した墓に立てられる。公益財団法人東京都公園協会によると、谷中を含む都立8霊園で看板を立てられた墓所は約200カ所。担当者は「1年以内に連絡がなければ改葬することを官報に掲載し、その後都が撤去して更地にする」と話す。

総務省によると、墓地は全国に約87万区画あり、このうち自治体が管理する公営墓地は約3万区画。大半は個人や集落、宗教法人などが管理している。

同省が昨年3月から今年9月まで、1718市町村と東京都を対象に調査を実施したところ、公営墓地や納骨堂を運営していることが確認できた自治体は765市町村。このうち令和2年度末時点で無縁墓が1区画以上あると回答したのは58・2%に上った。

現地調査では、荒廃した墓石やブロック塀が倒れたり、区画周辺にゴミが不法投棄されたりしているケースが確認された。自治体の中には、区画の契約者に代わり、自前予算で樹木の伐採や墓石の倒壊を防ぐ防護柵を設置するなどした例もあったという。

一方、無縁墓は「管理料の滞納」をきっかけに自治体が初めて把握した事例が目立った。墓地管理料を徴収している432市町村のうち、滞納が発生しているのは55・1%で、2年度末時点の滞納総額は約4億4800万円に上った。

厚生労働省が所管する墓地埋葬法によれば、長期間放置された無縁墓は、戸籍謄本などを手掛かりに親族らがいないことの確認を尽くせば、遺骨を合葬墓などに移し、墓石を撤去することができる。

ところが、平成28年度~令和2年度の5年間に墓石撤去などに着手した自治体はわずか6・1%。今後、無縁墓の撤去を実施する意向と回答した割合も、22・1%にとどまった。

なぜ無縁墓の撤去が進まないのか。自治体からは現行法には改葬後の墓石の取り扱いに関する規定がなく、撤去した場合に損害賠償請求される恐れがあるとの指摘や、「縁故者らの連絡先が分からず同意を得るのが難しい」「撤去後の墓石の保管場所が確保できない」などの懸念もあった。

ただ、自治体の中には墓地使用許可の申請時に縁故者の連絡先を事前に把握したことで、区画の契約者が所在不明になった場合でも、その後の追跡調査で所在が確認できたケースもあった。

総務省は、無縁墓の発生を抑制する観点から、こうした事例を広く自治体間で共有し、墓石の取り扱いや保管期間、処分の考え方などの支援を行うよう厚労省に求めた。

増加する「墓じまい」

多死社会の進展で無縁墓は今後も増えることが懸念されるが、一方で「墓じまい」して遺骨を別の墓や納骨堂に移す改葬も増えている。

厚労省によると、令和3年度の改葬数は全国で11万8000件を超え、この10年で1・5倍も増えた。

『「墓じまい」で心の荷を下ろす』の著書がある宗教学者の島田裕巳さんは「家も墓も代々続いていくという考え方はもはや幻想。地方では管理できない遠方の墓を持て余し、墓じまいする人が多い」と指摘する。

島田さんによれば、日本では戦後、火葬が広く普及し、土葬では不要だった墓石を建てるブームが全国的に広がったという。「そもそもわが国ではお墓中心の供養ではなく、戦前までは仏壇供養が当たり前だった。増えすぎた墓を守る人もいなくなり、お墓はもう要らない、あえて弔わない『0(ゼロ)葬』の選択肢があってもいいのでは」と提唱する。(白岩賢太)

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