2006年11月9日付の産経新聞に掲載した連載「わたしの失敗」のアーカイブ記事です。肩書、年齢、名称などは掲載当時のまま。
「三都物語」や最新作「風の暦」。JR西日本のキャンペーン・ソングだ。旧国鉄時代の「いい日旅立ち」から立て続けに手掛けてきた。それだけに、旅をこよなく愛している。
「人間は一人で生きていけないことや、自分と向き合うことの大切さを旅は教えてくれる。海外へ行くと、日本の良さも改めて分かりますよ」。が、良いことばかりではない旅もある。
30歳。アリスの活動も成熟していたころ、ふらりと旅に出た。真冬。好きな映画の舞台をたずねるツアーだ。
まずはスペイン・マドリードへ。映画「ひまわり」で描かれた畑を見たかったのだ。「映画のひまわり畑はどこですか?」。ホテルで尋ねると、マラガという街の郊外だとか。期待に胸はふくらんだが、「あそこは素晴らしいですよ。夏になったらね」という現地の人の言葉にがくぜんとした。今は冬だ…。
次はモロッコ・カサブランカ。もちろん目的は映画「カサブランカ」の舞台。ハンフリー・ボガートのように、トレンチコートを持って写真を撮る夢があった。
思い描いていた景色は、霧にかすむローカルなカサブランカ空港。だが、「やたらと近代的な空港。それに外へ出ると晴天で暑いのです」。そういえば、ここはアフリカ。さすがにトレンチコートは不自然だ。汗だくでホテルへ着くとバーテンが一言。「あの映画はハリウッドのスタジオで撮ったのですよ」