2時間ドラマの帝王、覚悟の初舞台 船越英一郎「赤ひげ」明治座創業150周年記念公演

「役に挑める幸せだけを見つめながら頑張っていきたい」と話す船越英一郎(寺河内美奈撮影)
「役に挑める幸せだけを見つめながら頑張っていきたい」と話す船越英一郎(寺河内美奈撮影)

〝2時間ドラマの帝王〟が、芸歴41年で初めて、舞台に挑む。俳優の船越英一郎(63)が初主演する「赤ひげ」が28日から、明治座(東京都中央区)の創業150周年記念公演として上演される。「無謀な挑戦かもしれないが、必ず良い舞台をお届けしたい」と意気込む。

記念すべき初舞台に選んだのは、2時間ドラマの定番のサスペンスではなく、時代劇「赤ひげ」だった。「意外? そんなことないでしょ」と笑う。

同名のNHKBS時代劇には平成29年から主演している。初めての時代劇挑戦だった。古くは三船敏郎が演じ、黒澤明監督の映画にもなった名作。「あのときも冒険だった」と振り返る。還暦を迎えて、所属事務所の社長から「生まれ変わるつもりで舞台に挑戦しては」と言われたとき、うなずいた。「赤ひげは、自分の代表作と言ってもらえるようになった。他の人に演じてほしくない」

赤ひげに扮する船越英一郎
赤ひげに扮する船越英一郎

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ずっと舞台に立つのを避けていた。かつて脚本と演出を担う劇団「MAGAZINE(マガジン)」を率いていたことがあり、「小劇場から始めて、(商業演劇への)アンチテーゼ(反対命題)みたいなものを持っていた自分が、うかうかとお金をもらって大きな舞台に立つのは…」。

演劇や舞台は「エンターテインメントでありながら、世相を反映し、社会に良い影響を与えるものであってほしい」と願っている。その中で今回、赤ひげとして舞台に立つのは、「そういうメッセンジャー的な役割を果たす」覚悟ができたからでもある。

赤ひげは現代社会に問いを投げかける。切り捨てられて貧しさから選択を誤る人々や、コロナ禍に通じるえたいの知れないものへの恐怖、休む暇もない医師の働き方改革…。「例えば、鬱病とか。僕の周りにもいたので、その辺は人一倍敏感に感じる。今の赤ひげなら描かなければ」と話し、「その先にある、人間の営みの得難さを伝えられたら」と願う。

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初めての舞台主演は、テレビドラマとは何もかもが違う。まずセリフ。「僕にとって表現というのは、表している瞬間が全てで、出し切ったら全部忘れちゃうもの。排泄と一緒」というが、舞台は毎日続く。「何回セリフを覚え直ししなきゃならないんだ」

次に目線。ドラマでは、さりげなく目を細めるような演技も、カメラが拾ってくれる。でも舞台では後ろの客席から見えない。その代わり、ほかの俳優が話している場面でも、舞台にいる限り、観客の目が自身にも届く。「常日頃、一番の共演者はカメラだと意識して演じてきた。でも、今回はそれが客席の皆さんになるんだね」としみじみ。

本番に向けて稽古の真っ最中。「懸命にあがき、もがき、のたうち回る姿をみなさんに楽しんでもらいたい」。次回の舞台出演の予定について聞くと、「そんなのないよ、最初で最後だよ!」と笑った。

11月12日まで。脚本は堤泰之、演出は石丸さち子。問い合わせは明治座チケットセンター(03・3666・6666)。12月14~16日は大阪市天王寺区の新歌舞伎座で上演する。

(三宅令)

あらすじ 江戸の小石川養生所の医長、新出去定(にいで・きょじょう)こと通称「赤ひげ」は変わり者の名医。貧者を切り捨てようとする幕府に逆らい、市井の人々に寄り添う。自らをエリートと信じる若き医員見習の保本登(新木宏典)は反発するが、赤ひげの下で働き、同僚や患者と関わる中で、医術のあり方について考え…。

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