家庭の定番「シーチキン」、42年ぶりに魚種追加 ブリ採用の背景に漁獲量への「危機感」

ブリを原材料とした「シーチキン Every(エブリ)」(浅野英介撮影)
ブリを原材料とした「シーチキン Every(エブリ)」(浅野英介撮影)

10月10日は「缶詰の日」。缶詰の中でも、昭和の世代から一般家庭の料理で長年親しまれてきた「シーチキン」で、42年ぶりに新たな魚種が加わった。製造元の「はごろもフーズ」(本社・静岡市)が今年8月から販売を開始した「シーチキン every(エブリ)」(235円、税抜き)は、従来のビンナガマグロ、キハダマグロやカツオではなく、「ブリ」が原材料。新たな魚種を採用した背景には、マグロやカツオの不安定な漁獲量への危機感があるようだ。

年間消費量は3億缶

公益社団法人「日本缶詰びん詰レトルト食品協会」によると、明治10(1877)年に北海道で日本初の缶詰工場が誕生。同年10月10日に「さけの缶詰」が製造されたことに伴い、10月10日は缶詰の日に制定された。

はごろもフーズによると、シーチキンは昭和6年に販売された「ビンナガマグロ」の油漬缶詰に由来。当時の日本人はツナ缶を食べる習慣がなかったこともあり、米国へ輸出されていたという。商号変更前の「後藤缶詰所」時代に、同33年に国内での販売を開始するのに伴い、ビンナガマグロが鶏肉との食感に似ていることから「海(Sea)の鶏肉(Chicken)=シーチキン」と名付けて商標登録した。

その後もカツオを原材料とした「シーチキンかつお」(昭和51年、現在はシーチキンマイルド)、キハダマグロが原材料の「シーチキンL」(昭和56年)などを販売。現在では魚の形状、容器の違いなどによって缶詰では20種類以上のシリーズを販売している。同社によると、シーチキンの年間消費量は約3億缶に達するという。

天然の国内産を使用

缶詰の定番となったシーチキンだが、近年課題となっているのが、マグロやカツオの調達だという。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界でのマグロ・カツオの漁獲量(2018年)は約531万トンで、半分以上は太平洋中西部で漁獲されている。はごろもフーズは「海洋資源保護の観点から漁獲量が不安定であるのに対して世界的な需要は増加しており、需給バランスが悪化して原材料の調達が難しくなっている現状がある」と指摘。「安定的にお客さまに提供するため、新たな原材料を追加することを決めた」といい、平成30年ごろから開発に着手した。

今年8月から販売を開始した「シーチキンEvery」(はごろもフーズ提供)
今年8月から販売を開始した「シーチキンEvery」(はごろもフーズ提供)

今回販売を開始したシーチキンエブリで、原材料にブリを採用した理由について、同社は「(ブリが)全国的に食べられている人気の魚であることや、何よりシーチキンとしてお客様にお届けするのにふさわしい味だった」と指摘。九州・中国地区で春先に水揚げされる天然ブリを使用しており、「(ブリは)日本近海のみで漁獲されており、国内で水揚げされるブリは国内で消費されるため、世界的な需要の変動を受けにくい」と説明する。

ブリはカツオやマグロに比べ、生活習慣病の予防効果があるとされるドコサヘキサエン酸(DHA)などの含有量が多いのも特徴。ただ「(ブリは)血合い肉も多く、使用できる部分がマグロやカツオに比べると少ないため、製造面での苦労があった」(同社)という。

同社は「今後もシーチキンの原材料としてなり得る可能性のある魚種については研究を進めていきたい」としている。

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