「チベットは死を迎えようとしている」 中国の人権弾圧強化で支援訴え 亡命政府のペンパ・ツェリン首相インタビュー

チベット亡命政府のペンパ・ツェリン首相(森浩撮影)
チベット亡命政府のペンパ・ツェリン首相(森浩撮影)

インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府のペンパ・ツェリン首相が7日までに産経新聞の単独インタビューに応じた。中国・チベット自治区でチベット人への弾圧が激しさを増し、中国政府が監視目的でDNA情報の収集を強制的に進めていると批判。国際社会に対応と支援を求めた。チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(88)の後継問題では「すべてダライ・ラマの考え次第」との見方を示した。

ツェリン氏はチベット人居住地区があるインド南部出身。亡命政府議会議長などを経て、2021年5月に首相に就任した。

ツェリン氏は、現在のチベットの状況について、中国政府によるDNA情報の収集がここ2~3年で急速に進み、生体認証による監視目的で目の虹彩のデータも集めていると指摘。「政治活動で捕まった人物のDNA情報によって親族が特定され、容疑者として扱われるケースが増えた。その結果、デモなどの抗議活動の数は減少した」と述べた。

国連人権理事会の特別報告者は2月、中国政府がチベット人の子供約100万人を家族から引き離して寄宿学校に入れ、強制的に漢族に同化させていると指摘。ツェリン氏は「言語、文化、宗教、生活様式などの面でチベット人を中国人に変える目的がある。チベットの文化に対する攻撃で、文化的虐殺に近い」と中国政府を非難した。

チベットの実情についてはほとんど海外に伝わらず、通信の制限などで亡命政府もつかみづらくなっているという。中国は9月に入り外国の外交官をチベットに招待したが、ベネズエラなど中国に友好的な国に限られた。「チベットは徐々に死を迎えようとしている。ヘビに締め付けられるようなものだ」と国際社会に関心を呼びかけた。

チベット仏教には高僧が死後に生まれ変わる輪廻転生(りんねてんせい)の考えがあり、ダライ・ラマ14世も先代の没後に生まれたチベット人の子供から選出された。14世を分離主義者と呼んで敵視する中国政府は、14世が世を去れば選出作業に介入し、独自の「ダライ・ラマ15世」を擁立する可能性が高い。

14世の後継をめぐっては、亡命チベット人代表らの会議が19年、継承の方法に関する決定権は14世本人にあると決議した。ツェリン氏は14世が90歳を迎える2025年に何らかの決定を下す予定があると言及しつつ、「すべてはダライ・ラマの考え次第だ。ただ、間違いないことがある。チベット人は、中国ではなく彼の決定を尊重するということだ」と強調した。(インド北部ダラムサラ 森浩)

チベット亡命政府 1959年に中国軍に対しチベット人が蜂起したチベット動乱後、インドに亡命したダライ・ラマ14世が樹立した亡命チベット人機関。世界各地の亡命チベット人による選挙で選ばれた首相が指導的役割を担う。中国政府は「中国からのチベット分裂を図っている」と批判している。

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