話の肖像画

演歌歌手・大月みやこ<27> 着物に魅せられ着て、切って…60年

日本レコード大賞受賞の「白い海峡」を歌う
日本レコード大賞受賞の「白い海峡」を歌う

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《恋愛は不器用?! でも歌手人生への情熱は一途(いちず)。1000万円超もある〝魅せる〟着物への想(おも)い…》


仕事柄、和服を着ることが多い。季節感を大切にしてます。日本には四季がある。生地の素材、絵柄など時季に合ったものを選ぶようにしています。

着物って呉服屋さんに行って反物で見るものと、全くオリジナルで最初から書いて頼むものがある。反物でも自分に合うように工夫する。新しく作るのは、絵師の方に頼んで白地に柄を書いてもらう。これは出来上がるまで2カ月半くらいかかります。定期的に作っていました。技術代、刺繡(ししゅう)代、絞り代もかかります。名前のある作家さんですと、それなりにお高いんです。人間国宝になった方の作品ですね。そんなにたくさんはありませんが…。日本レコード大賞とかNHKの紅白歌合戦で着たものはそうですね。お高いですが、着物は日本の文化のひとつです。本物志向でいることでそれを感じることができる。

そんな高い着物でもステージでは〝切る〟ことがある。一瞬で着替える〝早変わり〟です。パッと分かるようにしないとショーにならない。最初は切ってました。これはもったいないなと思って、安いというか、似たような着物を探したこともありましたよ。でも着物は何とかなる(※着物は数本の直線で縫い合わされている。その部分の糸を抜けば衣装はバラバラになる)。だけど帯は切らないとだめです。着物より帯の方が高価なんですよね。

着物の数は、う~ん、分からないくらい多いです。500枚以上? そうですね。年月を重ねると次第に増える。人にあげたりしたし、古い物はダメになった。新宿コマ劇場の1カ月公演では着ていると大変なんです。汗で傷んで結局ダメにしたのもあります。昔は染め替えもしましたが、今は全くしていません。


《着物の管理は…》


自宅に衣装を保管する部屋が2つあり、どこに何があるか整理してます。春・夏・秋・冬の季節ごとに着物を分け、写真を撮ってノートに貼る。帯、帯揚げ、帯締め、草履も同じように写真を撮って、記号化して並べて貼る。タンスはA、B、C、D…で、引き出しの番号を書く。例えばAタンスの3番目の引き出しには何があるとか、ノートを出したら全部、すぐ分かる。それぞれ4、5冊あります。

以前は自分で着物の絵をノートに書いてファイルしていました。柄、色…。年月がたつと大変です。フィルム時代の写真も現像に時間がかかる。だから自分で書いて、書いて…。デジカメ時代になってからはすぐにプリントできる。パソコンのデータベースと同じですが、今も〝アナログ〟でファイルです。自宅にはお手伝いさんのおばちゃんが2人いる。外出先から「あの着物を出しておいて」と電話で頼むことがありますが、おばちゃんたちはパソコン、開けないから(笑)。


《60年間の〝大月メモ〟》


手帳のスケジュール欄には番組名だけでなく、着ていた着物もダブらないように必ずメモする。同じ着物は着られないですから。手帳にはスケジュール以外、思ったことも書きます。日記を書き始めたのは上京したころ(昭和39年)からです。当時使っていたのは銀行からもらった小さな手帳です。「3月20日 母と上京。キングレコードに挨拶に行ったが誰もいなかった。だまされたのかと思った」と書いてある。他にも「これからの生活がうまくいくように」とか。読み返したことはあります。初心に返るというか、改めて〝頑張らなきゃ〟という気になります。

手帳には毎年、書く。気づいたら60年続いてますが、先生方からいただいた作品のオリジナル楽譜も専用のフォルダーに全て保管してあります。700曲近くなる。私の歌手としての記念であり、一番の思い出です。手帳と同じで私の生きた証し、宝物です。(聞き手 清水満)

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