映画監督・斎藤工、「スイート・マイホーム」で〝理想〟に潜む恐ろしさ描く

「ラストシーンがいちばん怖い場面になっていたらいいなと思って撮った」と話す斎藤工(飯田英男撮影)
「ラストシーンがいちばん怖い場面になっていたらいいなと思って撮った」と話す斎藤工(飯田英男撮影)

本名の「齊藤工」名義で映画監督としても活躍する俳優の斎藤工(42)がメガホンを取ったホラー・ミステリー「スイート・マイホーム」。原作は、神津凛子の同名小説。窪田正孝(35)が演じる主人公がマイホームを建てたことをきっかけに、〝理想の家族〟が狂気に引き寄せられていく話だ。監督が作品について語った。

原作を読み、「理想という言葉がたくさん出てくるが、理想という言葉のどこか恐ろしさみたいなものがある気がした」。

さらに「決して安易に実写化してはいけない、人間の究極のタブーが詰まった箱のような作品」と評する。映画化にあたり、令和元年の冬頃に、監督のオファーを受けたという。

「僕よりもこういう作品を撮るのにたけている監督はいくらでもいらっしゃる。自分ではない」と、2度断った。ほどなくして始まった、新型コロナウイルス禍によるステイホーム。

「家にいることを、世界的に余儀なくされた。そんな中、家の中でDV(ドメスティックバイオレンス)などの事件も起きた。家は守られるべき聖域ではなく、むしろそこにいなくてはいけないことが地獄のような側面もあることに気づいた」と、作品を撮る意義を見いだしたという。

映画「スイート・マイホーム」©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛⼦/講談社
映画「スイート・マイホーム」©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛⼦/講談社

監督を引き受けるのに当たり、主演は窪田を条件にした。主人公の賢二は、家族思いで格好いいスポーツジムのインストラクターだが、実は妻に隠し事をしたり、陰の部分も抱えていたりする。

「主人公は決して褒められた人間ではないが、観客から嫌われてしまうと物語が成立しない。何か憎めない絶妙なラインが物語の生命線だと思ったので、窪田さんだったら、そう演じていただけると思った」

また、主人公が暮らすマイホームを設計した住宅会社社員を、奈緒(28)が好演している。「奈緒さんは引き算で演じていて、すごいレベルの人だと感心した。序盤で登場したときの役の印象の残し方が素晴らしかった。自然と僕らの意識からフェードアウトして、再び登場するときの助走になっていた」

一方、コロナ禍でクランクインが延びたことにより「作戦を練る時間が長かったので、『理想の愛』という花言葉の白いツバキを登場させるなど、さまざまなシーンに意味を持たせる仕掛けをしている。抜かりなくやり過ぎて、届いていない仕掛けもたくさんある」と苦笑する。

「音にしても、役者さんの表情にしても、映画館で見てもらうための映画としてこだわり抜いた作品なので、それを映画館でぜひ体験してほしい」

(水沼啓子)

1日から全国公開。1時間53分。

さいとう・たくみ 昭和56年生まれ。モデルとして活動後、平成13年に映画「時の香り~リメンバー・ミー~」で俳優デビューし、24年には短編映画「サクライロ」で監督デビュー。「団地」(28年)で高崎映画祭最優秀助演男優賞、「blank13」(29年)で上海国際映画祭アジア新人部門の最優秀監督賞などを受賞。

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