のどの渇きを癒やそうとして、自動販売機の前でイライラしたことはないだろうか。何度硬貨を入れても、返ってくるのは返却口からのチャリン、という音。犯人は新五百円硬貨だ。発行開始から2年近くたつにもかかわらず、対応する飲料自販機の割合は2~3割にとどまっている。メーカー側は流通量がまだ少ないことを理由としているが、来年7月には新紙幣の発行も控えており、今後どう対応していくのか注目される。
令和3年11月に発行が始まった新五百円硬貨の最大の特徴は、偽造防止のため導入された「バイカラークラッド」という特殊な構造だ。ニッケル黄銅の中心を円形にくりぬき、銅などを使って3層構造にした銀色の部品をはめ込んだ形になっている。
ただ、直径はこれまでの五百円硬貨と同じ26・5ミリ。重さは0・1グラムだけ増えた7・1グラムで、表裏のデザインもほぼ変わらない。それでも、自販機内部のセンサーは正規の硬貨ではないと判別する。
自販機メーカーなどでつくる日本自動販売システム機械工業会の担当者は「新硬貨に対応するには1台ずつセンサーを交換する作業が必要となり、手間もコストもかかる」と話す。実際、新硬貨の発行はもともと令和3年度上半期に予定されていたが、現金自動預払機(ATM)の改修が新型コロナウイルス禍の影響もあって遅れたため、延期された経緯がある。
五百円硬貨の今年3月末時点の流通量は、旧硬貨が約50億枚の一方、新硬貨は令和3年度に2億枚、4年度に3億6500万枚が発行されただけで1割程度だ。この流通量の少なさも飲料メーカーがセンサー交換に二の足を踏む原因となっており、同工業会によると、今年3月末時点で新硬貨に対応している自販機は2~3割にとどまっている。
一方で、自販機業界にとって大きな課題が1年後に迫っている。約20年ぶりとなる新紙幣の発行だ。
一万円札は渋沢栄一、五千円札は津田梅子、千円札は北里柴三郎の肖像画を用いた新紙幣の発行は、来年令和6年の7月前半に予定されている。傷みやすい紙幣は硬貨に比べ新旧の入れ替わりが速く、自販機も速やかな対応が必要になる。
同工業会は「新紙幣への対応は、硬貨より速い可能性はある」と予測。飲料メーカー側も「来年4月から対応を始め、その後も新紙幣が流通するスピードに合わせて対応していく」(アサヒグループジャパン)のように、市中への流通状況をみながら対応を進めていくようだ。
同時に新硬貨への対応も進みそうだが、紙幣を読み取るのは硬貨とは別のセンサーになる。新紙幣への対応とともに硬貨のセンサーも交換するかどうかは、飲料メーカーの判断次第という。