深層リポート

千葉発 マスコットキャラ「チーバくん」が支持されるワケ

チーバくんと作者の坂崎千春さん(左)=6月、千葉県市川市(前島沙紀撮影)
チーバくんと作者の坂崎千春さん(左)=6月、千葉県市川市(前島沙紀撮影)

自治体や地域おこしイベントなどのご当地マスコットキャラクター「ゆるキャラ」。全国に数多く存在するが、真っ赤で愛らしいフォルムの千葉県のマスコットキャラクター「チーバくん」は県民だけでなく国内外から支持を集めている。千葉県のPRに貢献するチーバくんの人気の秘密に迫った。

「千葉県の白地図を見ていて、これを動物にしてしまったら面白いかも、と思った」。こう回想するのは、同県市川市出身の絵本作家・イラストレーターの坂崎千春さん(55)。チーバくんの作者で、JR東日本のICカード「Suica(スイカ)のペンギン」など多数のキャラクターを手掛けたことでも知られる。チーバくんは、「横から見たときに千葉県の形をしている」という坂崎さんの着想から生まれたものだ。

横向いた姿が県の形

チーバくんは平成19年に誕生。坂崎さんは、千葉県の依頼を受けてキャラクターを決める公募に参加したが、当初はモチーフについて、千葉県の花である菜の花や、千葉県の代表的な特産品である落花生を考えていた。

だが、自身が動物を描くのが得意だと考えていたときに思いついたのがチーバくんだった。キャラクターは顔が正面を向いたものが一般的だが、横を向いた姿が千葉県の形をしているという〝発想の転換〟だった。「これは面白いな」と自信を深めた坂崎さんは、いくつかのアイデアを出せる中でチーバくん一本で応募し、見事に選ばれた。

ちばぎん総合研究所(千葉市)の観音寺拓也調査部副部長(44)も、チーバくんの特徴的なフォルムが人気の背景にあるとみる。「(地域の)特産品を掲げたキャラクターが多い中、押しつけ感がなく、見た瞬間に千葉県だとわかりやすい」と指摘する。

また、坂崎さんが「赤色のキャラクターは意外と(ほかには)なく、真っ赤にしたのもよかった」と話すように、赤一色のデザインも支持につながっている。日本とも近い中華圏では、赤は縁起の良い色として人気がある。実際、チーバくんは新型コロナウイルス禍の前、キャラクター文化のある台湾などでもイベントに出演して千葉県をPRしてきた。

チーバくんのデザインなどは、事前に手続きを済ませばだれでも利用できる。千葉県報道広報課によると、チーバくんの令和4年度のデザイン使用許諾件数は、有償が約500件、無償が約500件だった。営利目的で使われた場合は、デザイン使用料として売り上げの3%を千葉県が受け取る仕組みとなっている。

使用料収入は年間約1千万円で、ここ5年ほどはほぼ横ばいで推移。ただ、千葉県としては収入を得ることが目的ではなく、チーバくんを通じて千葉県という存在を身近に感じてもらえる効果が大きいと考えている。

フォロワー知事上回る

また千葉県は、交流サイト(SNS)も効果的に活用。チーバくんのツイッターのフォロワー数は7月15日時点で約29万5千人と、熊谷俊人知事(約28万9千人)を上回る。インスタグラムにはダンス動画などを投稿し、中国語のフェイスブックアカウントでの発信も続けている。

熊谷知事は7月13日の定例記者会見で、チーバくんについて「ここまで愛されている都道府県、行政のキャラクターは、あとはもう(熊本県の)『くまモン』ぐらしかないんじゃないかなと思うぐらい、県民の皆さんに老若男女問わず愛されているキャラクターだ」と認めた。今年は千葉県誕生150周年の節目に当たるが、知名度を生かして千葉県のPRにいそしむチーバくんに今後も注目したい。

チーバくん 平成22年に千葉県で開催された「ゆめ半島千葉国体」と「ゆめ半島千葉大会」のマスコットキャラクターとして19年1月に誕生。人気を集めたことで、23年1月に千葉県のマスコットキャラクターとなった。ホームページによると、「千葉県に住む不思議ないきもの」で、「好奇心旺盛でいろいろなことに挑戦するのが大好き」。横を向いた姿が千葉県の形をしている。

記者の独り言 大学時代に、千葉県出身の友人が県域をチーバくんの身体で表現したのを見て、「チーバくんって便利だ」と当時感じたのを覚えている。チーバくんは地図パズルなどで千葉県内の市町村の場所を覚えるのにも活用されており、県民が愛着を持つのもうなずける。昨年から千葉県民になった私も今では、県域をチーバくんで表せるようになった。そんな「不思議ないきもの」のチーバくんを、取材を始めるまで犬だと思っていたことはここだけの秘密にしておきたい。(前島沙紀)

会員限定記事会員サービス詳細