安倍氏銃撃1年

ボルトン元米大統領補佐官「国際社会リードした戦略家」

オンラインインタビューに応じるジョン・ボルトン元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)
オンラインインタビューに応じるジョン・ボルトン元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)

安倍晋三元首相は国際問題において非常に創造的な思想家であり、戦略家だった。世界での日本の位置付け、対米関係、北朝鮮や中国の脅威への対処を考えていた。日本、インド、オーストラリア、米国による協力枠組み「クアッド」を推進した功績は大きい。

安倍氏は憲法など日本が普通の国として歩み続けるために必要な考えを示した。もし首相を続けていたら、国際問題で指導的な役割を果たし続けていただろう。安倍氏が亡くなったことは日本、米国、そして全世界にとって大きな悲劇だ。

安倍氏が国際的に非常に有能だったのは、自身の頭の中にあるテーマや優先事項についてとても詳しかったからだ。他国の指導者たちと良い関係にあり、日本の立場を分かりやすく説明し、なぜ日本と組むことがその国の利益になるのか納得させることができた。静かなスタイルのリーダーシップだった。

他の首脳の多くは分かっていなかったが、安倍氏はトランプ大統領(当時)を良く理解し、どう付き合うか心得ていた。トランプ氏の発想も見抜いていた。

トランプ氏があれやこれやとしゃべるのを辛抱強く聞き、中国や北朝鮮など安倍氏が協議したい話題にいつも引き戻していた。

定期的に電話や対面で会談し、ゴルフもするなど安倍氏ほどトランプ氏と時間を共にした外国の首脳は他にいなかったと思う。なぜなら安倍氏は米国の大統領と直接、意思疎通を図ることが日本の国益に最も資すると考えたからだ。

私が大統領補佐官の間、安倍氏はトランプ氏と会談する際は必ず拉致問題を「北朝鮮に提起してほしい」と要請していた。実際、トランプ氏は金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(当時)と会談する度に拉致問題を提起した。

安倍氏と初めて会った2002年の官房副長官の時も拉致問題に取り組んでいた。トランプ氏に頼るだけでなく、独自の外交も進めていた。多くの政治家は、核となる信念が非常に表面的だが、安倍氏を20年にわたってみてきた中で、彼が拉致問題を見失うことは決してなかった。拉致被害者家族らに対する真摯(しんし)な思いは、安倍氏への称賛につながったと思う。

また、現在の岸田文雄首相が取り組む防衛費増額は、安倍氏の影響力が自民党内で続いていることの証拠だろう。北大西洋条約機構(NATO)のような集団的な防衛態勢が存在しないインド太平洋地域で、大きな安全保障協力体制を構築する努力を進め、台湾も加わる方法を見つけていくことは重要だ。

私が大統領補佐官に就任して間もなく、米南部フロリダ州のトランプ氏の私邸マールアラーゴで再会した安倍氏は、私を見てほほ笑み、握手を交わし、体を寄せて「あなたが戻ってきてくれてうれしい」と英語で語り掛けてくれた。彼は本当に偉大な人物だった。みなさんの記憶に安倍氏が残り続けることを願っている。(聞き手 坂本一之)

ジョン・ボルトン

1948年、米東部メリーランド州生まれ。エール大卒。息子ブッシュ政権で国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)、国連大使を歴任。トランプ政権で2018~19年に大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務め、米朝首脳会談にも同席した。

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