慌てるメイド、見守る客 発達障害の女性が輝くカフェ

発達障害メイド喫茶 発達障害当事者のメイド喫茶「スターブロッサム」を運営する花屋乃かやさん=大阪市浪速区(安元雄太撮影)
発達障害メイド喫茶 発達障害当事者のメイド喫茶「スターブロッサム」を運営する花屋乃かやさん=大阪市浪速区(安元雄太撮影)

人とコミュニケーションがうまく取れなかったり、物事や手順へのこだわりが強かったりするなどの特性がある発達障害。そんな特性を持つ女性たちが働くメイド喫茶が大阪・日本橋にある。代表で自身も当事者の花屋乃(かやの)かやさんは「障害と健常の境界をなくしたい」という思いでコロナ禍の最中、店を立ち上げた。発達障害とメイド喫茶。一見、とっぴな組み合わせは、発達障害の当事者が自分を否定せず活躍できる場所になっている。

ほとんどが当事者

「お帰りなさいませ!」。サブカルチャー街として知られる大阪・日本橋の喫茶店。黒や水色のワンピースにフリル付きの白いエプロン姿のメイドが客を出迎える。毎週水曜、この店を間借りして営業する「発達障害メイド喫茶 スターブロッサム」。ここで働くスタッフのほとんどは、発達障害の当事者だ。

「発達障害の特性を理解し『そういう人もいるよね』と思ってもらうためには、まずは知ってもらうことが必要だと思いました」。代表の花屋乃さんはそう話す。

大阪市出身の花屋乃さん。私生活では中学生の2人の子のシングルマザーだ。花屋乃かやは活動名で、店の運営の傍ら、メイドとしても店に立っている。自身も衝動的に行動してしまう注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持ち、生きづらさを抱えてきた。

空気を読んだり、人の気持ちを察したりするのが苦手。女子グループになじめず、中学時代はいじめにあった。「トイレまで追いかけられたり、手紙に『死ね』と書かれたり」と苦笑いする。

発達障害と診断されたのは成人後。「答えを得た安心感」はあったが、職場や私生活では曖昧な説明が理解できなかったり、表情から考え察したりするのは苦手なままだった。

「適応できない自分は社会にいてはいけない」。自殺も考えたとき、高校時代にメイド喫茶でのアルバイト経験を思い出した。年齢や性格も異なる女性たちが「メイド」というキャラクターになりきる。メイドを通じてなら、発達障害の特性を否定せず自分らしくいられると思った。「この場所でなら、生き直せる」

また、同じような苦悩を抱える人の力になりたいと思った。花屋乃さんは「受け皿があれば自分は孤独じゃないと思える」と話す。

接客する花屋乃かやさん=大阪市浪速区(安元雄太撮影)
接客する花屋乃かやさん=大阪市浪速区(安元雄太撮影)

自分たちの店を

新型コロナウイルスの感染拡大が続いていた令和3年7月、クラウドファンディング(CF)で資金を募り、開店にこぎつけた。今は発達障害に加え、精神障害の当事者、性的少数者(LGBT)の6人が働く。花屋乃さんはスタッフ同士が苦手なことをカバーし合える体制にしたり、細かく指示したりと特性があっても働きやすいように運営に工夫を凝らす。

注文が集中したときなど、時折、スタッフが慌ててしまって、接客がうまくいかなくなる場面もあるが、店の趣旨を知っている来店者たちは温かく見守っている。

交流サイト(SNS)で宣伝のかいもあり、今では全国からファンが訪れる。障害をオープンにすることで、「特性を分かって来てもらえるので働いていても安心感がある」と話す。

自分を否定し続けてきた当事者たちにとって、店は避難所であり、自信を取り戻せる場所だ。花屋乃さんは「仕事だから甘いことばかりじゃないけど、いい意味でこの場所を利用してやりたいことを見つけてもらえれば」と笑う。スタッフの1人は今春、社会福祉士の資格を取得した。

今は別の店の一角を間借りして営業しているが、次の目標は自分たちの単独で店を持つこと。「悩みを持ったお客さんも来てくれる。スタッフだけでなく、お客さんも次のステップにつなぐこともやっていきたい」と展望を語る。

「発達障害メイドカフェ スターブロッサム」でスタッフと話す花屋乃かやさん(中央)=大阪市浪速区 (小川恵理子撮影)
「発達障害メイドカフェ スターブロッサム」でスタッフと話す花屋乃かやさん(中央)=大阪市浪速区 (小川恵理子撮影)

女性の発達障害

女性の発達障害に詳しいお茶の水女子大の砂川芽吹助教によると、発達障害と診断された当事者は女性よりも男性の方が多いという。だがそれは、決して女性の当事者が少ないからではなく、発達障害と確認できず見過ごされているケースが多いのだという。

砂川助教は、女性は生きていくうえで母親、妻など複数の社会的役割を求められる機会が多い現状があると指摘。

「日本の社会では職場では気配りや協調性、家庭では家事や育児をそつなくこなすことが期待されがち。ただ、障害の特性と社会的役割がミスマッチしているために生きづらさを感じる要因になっている」とした上で次のように語った。

「女性ならではの困りごとは女性同士で共感しあえることも多い。ありのままの自分を認め合える場所が増えれば良いと思う」(小川恵理子)

発達障害「生きづらさ」を生きる 第1部(1) 「うちの子、なぜ…」母の苦悩

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