片岡仁左衛門渾身の「俊寛」、人間の複雑さ描く 7月に関西・歌舞伎を愛する会

絶海の孤島に流された俊寛を勤める片岡仁左衛門。平成4年に初めて演じて以来、俊寛像を磨き上げてきた=大阪市北区(南雲都撮影)
絶海の孤島に流された俊寛を勤める片岡仁左衛門。平成4年に初めて演じて以来、俊寛像を磨き上げてきた=大阪市北区(南雲都撮影)

東西の歌舞伎俳優がそろって、大阪の初夏を華やかに盛り上げる道頓堀・松竹座の「関西・歌舞伎を愛する会 七月大歌舞伎」。今年も、清艶な色気と精神性の高い演技で現代歌舞伎を代表する片岡仁左衛門が出演、近松門左衛門・作「俊寛(しゅんかん)」を勤める。平家打倒の陰謀が露見し、絶海の孤島に流された俊寛の壮絶な悲劇。仁左衛門は「初めて歌舞伎を見る方にもわかっていただけて心に残る内容。人間の複雑な心理を表現したい」と話している。

平家反逆の大罪で仲間の平判官康頼(へいはんがんやすより)、丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね)とともに鬼界(きかい)ヶ島に流された俊寛。孤独な日々の中でやつれ果てた彼らの前に都から赦免船がやってくる。都に帰れると喜ぶ3人だが、赦免状には俊寛の名前だけが書かれていない-。

史実をもとに、俊寛の苦悩や怒り、孤独、そして、崇高な自己犠牲の精神などが劇的展開の中に描かれた作品だ。仁左衛門は平成4年に初めて演じて以来、何度も演じ重ねながら俊寛像を深め、磨き上げてきた。

「俊寛」で、平家打倒の陰謀が露見し、鬼界ヶ島に流された俊寛(片岡仁左衛門)=平成13年7月、大阪市中央区の大阪松竹座ⓒ松竹
「俊寛」で、平家打倒の陰謀が露見し、鬼界ヶ島に流された俊寛(片岡仁左衛門)=平成13年7月、大阪市中央区の大阪松竹座ⓒ松竹

「この場だけ演じていると、俊寛は優しい温厚な人間に見えますが、実際は平清盛に対して謀反を起こすような強い人間であることを忘れずに演じている」という。

一緒に島に流された成経は島の海女(あま)、千鳥と恋仲になるが、悪逆な役人、瀬尾(せのお)は千鳥が赦免船に乗ることを許さない。俊寛は若い2人を一緒に都に行かせるため、瀬尾を殺し、自分が島に残る決意をする。

「瀬尾にとどめを刺すときも、その向こうに清盛がいる。自分はそういう思いで演じていますねえ」と仁左衛門。

「多分、近松が書いた時代は、人物の緻密な心理描写というより、もっと、おおざっぱな娯楽だったと思うんです。でも現代では、こういうふうに演じた方が、お客さまの心に強く訴えることができるのではないでしょうか」

俊寛を勤める片岡仁左衛門=大阪市北区(南雲都撮影)
俊寛を勤める片岡仁左衛門=大阪市北区(南雲都撮影)

仁左衛門はこれまでも、台本を深く読み込み、役の心理を掘り下げつつ、現代人にも分かりやすいという、仁左衛門型ともいうべき、さまざまな演出を作り上げてきた。「俊寛」でも、船を追いかけるとき、花道を海に見立て、すっぽん(せり)を使って、波の中にずぶずぶ入っていく姿を見せている。

「河内屋のおじさん(三代目実川延若)も、花道に行かれていたような気がします。俊寛の心境を考えると、波が来ても逃げたりせず、海の中まで船を追っていくという執着心を見せたい」

今回の座組では、孫で23歳の花形、片岡千之助が千鳥役で出演。近年は自身と同じ舞台に立たせることで学ぶ機会を増やしている。

「特に『俊寛』のような義太夫狂言は、糸(三味線)に乗ったせりふ回しなど幼い頃から学ぶ必要がある。甘えかもしれないけれど、歌舞伎の場合、若い人の成長の過程を楽しんでいただくという側面もあり、できるだけ場を与え、厳しく指導していきたい」と表情を引き締めた。(亀岡典子)

関西・歌舞伎を愛する会 七月大歌舞伎

7月3日から25日まで。チケットホン松竹(0570-000-489)。

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