混雑予想の葵祭、見物客の安全どう守る 4年ぶりの行列実施で雑踏事故など警戒

平成30年の葵祭。朝から照りつける強い日差しの中、京都御所での行列を見る観光客ら=平成30年5月15日、京都市上京区(寺口純平撮影)
平成30年の葵祭。朝から照りつける強い日差しの中、京都御所での行列を見る観光客ら=平成30年5月15日、京都市上京区(寺口純平撮影)

京都三大祭りの最初を飾る葵祭(15日)では、目玉行事の平安時代行列「路頭の儀」の4年ぶりの実施が決まり、多くの人出が予想される。そこで欠かせないのが見物客の安全確保。韓国・ソウルの梨泰院(イテウォン)では昨年10月、日本人2人を含む159人が死亡する雑踏事故が起きた。このため葵祭でも、警備態勢の強化に加え、古都で急増中の訪日外国人客(インバウンド)への対応が急務に。京都府警は日本語が分からない人の来訪も想定し、多言語翻訳が可能な拡声器も投入する。

平安装束を身にまとった約500人が京都御所から上賀茂神社までの約8キロを練り歩く路頭の儀には、例年約5万人が詰めかける。「過剰といわれるほどの警備態勢で事件事故を未然に防ぐ」。警戒にあたる京都府警幹部は力を込める。当日は現場に約450人の警察官を配置する。

念頭にあるのが昨年のハロウィーン直前、ソウルで起きた悲劇だ。自然発生的に集まった若者らが狭い路地で次々と転倒、命を落とした。現地警察や行政の対応の不備も明らかになっている。

府警幹部によると、雑踏警備の基本は、人流の一方通行化▽狭い場所での人流抑制▽広報活動-の3つ。特に葵祭のような行事では、警察官が見物客に「押さないでください」「ゆっくり動いてください」などとアナウンスする広報活動が鍵になる。「落ち着いて警察官の指示に従い、個々の判断で動かないことが被害を防ぐポイント」と府警幹部。観客の冷静な対応が不可欠と強調する。

府警の記録によると、これまでの葵祭で雑踏事故の発生はない。しかし不審物の発見や異臭発生などの突発的な事態が生じ、群衆がパニック状態に陥る懸念は払拭できない。

言語の壁も無視できないリスク要因だ。新型コロナウイルス禍が落ち着いた京都には現在、数多くのインバウンドが訪れている。日本語が理解できないインバウンドが無理な行動に走らないように、府警は今回、日本語を英中韓の3言語に翻訳できる拡声器の導入を決めた。

特定組織に属さず、単独テロを実行する「ローンオフェンダー」にも警戒を強めている。制服警察官による「見せる警備」や警察犬を使った不審物発見の態勢強化に加え、今春新設されたサイバーセンターは交流サイト(SNS)上に犯罪予告などがないか目を光らせている。

昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件直後に開催された祇園祭では、不審者が刃物などを持つ可能性も踏まえ、警備にあたる警察官に防護服を着用させ、職務質問も徹底させた。同様の警戒は葵祭でも継続する。

雑踏警備を統括する府警地域部の田川英隆部長(58)は「緊張感を持ち府警一丸となって、万全の態勢で警備に臨む」と語った。(木下倫太朗)

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