社説検証

岸田首相襲撃事件 民主主義攻撃と各紙非難 「選挙運動貫徹を」と産経

岸田文雄首相の演説直前に爆発物を投げ込み、警察官に取り押さえられる木村隆二容疑者(中央上)=15日、和歌山市の雑賀崎漁港
岸田文雄首相の演説直前に爆発物を投げ込み、警察官に取り押さえられる木村隆二容疑者(中央上)=15日、和歌山市の雑賀崎漁港

衆院和歌山1区補欠選挙応援のため、岸田文雄首相が訪れていた和歌山市・雑賀崎漁港の街頭演説会場で、演説直前に円筒形の物体が投げ込まれて爆発した。

物体を投げた男は現場で取り押さえられ、威力業務妨害容疑で現行犯逮捕された。

岸田首相にけがはなく、大惨事となる事態は免れたが、爆発物の威力がもっと大きければ、複数の死傷者が出ていた恐れもある。

主要各紙の社説は「民主主義を損なう暴挙だ」(産経)、「言論封じる暴力許されぬ」(毎日)などと一斉に襲撃を厳しく非難した。

各紙とも昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件に続き、政府要人が選挙応援中に狙われる事件の発生に強い危機感を示した。そのうえで警察当局に対し、要人警護や警備のあり方の再点検と再発防止に万全を期すよう求めた。

岸田氏への襲撃をテロと指弾したのは産経と日経だ。産経は「民主主義の根幹である選挙を妨害し、国政を混乱させかねないテロ」とし、「絶対に許されず、最大限の非難に値する」と断じた。

日経も「民主主義の根幹である選挙の期間中に、言論をテロで封殺するような行為は断じて許されない」と厳しく主張した。

逮捕された木村隆二容疑者(24)は、動機などについて具体的な供述をしていないが、産経は「警察には、逮捕した男の動機や背景を徹底的に捜査してほしい」と注文を付け、「同調者が現れる恐れ」にも懸念を示した。

「容疑者の動機や背景は、今のところ明らかになっていない」とした朝日も「捜査当局は真相の究明に全力をあげてもらいたい」と訴えた。

犯人が遊説の場を犯行現場に選んだことをめぐり、「卑劣」とする指摘や、政治と有権者との距離が開くことを危惧する意見も相次いだ。

朝日は、街頭演説は「市民と政治をつなぐ貴重な機会」と指摘したうえで、「そこにつけこんで、政治家を襲うのは卑劣極まりなく、市民と政治の距離を広げかねない」と論考した。

毎日も昨年の安倍氏銃撃事件後、演説会場に手荷物などを検査する金属探知機が設置されたケースを紹介し、「制約が厳しくなりすぎれば、人々が政治に参加する機会を狭めかねない」と案じた。

読売は「今後、政党や政治家が演説場所を決める際には、警護しやすい場所かどうか、警察と十分に協議することも大切ではないか」と提案した。

襲撃された岸田氏は、事件後もJR和歌山駅前や千葉県での応援演説を予定通りこなした。産経は「テロに屈しない姿勢を示したもので妥当である」としたうえで、「各党、各候補者は民主主義を守るためにも国政補選、地方選の運動を貫徹してほしい」と求めた。

朝日も「安全の確保に細心の注意を払いつつ、市民への訴えを続けてほしい」とし、それが言論・表現の自由や投票の自由など民主主義を支える「諸価値を守ることになる」と論じた。

事件は日本の安全神話にも警鐘を鳴らした。

読売は「治安が良いと評価されてきた日本で、現職の首相と首相経験者が、相次いで襲われた衝撃は大きい」と指摘したうえで、「国際社会の信頼を失いかねない事態」と危惧した。

来月には広島で、岸田氏が議長を務める先進7カ国(G7)首脳会議が開かれる。

「サミットでのテロを許せば日本に対する国際社会の信頼は失墜する」と強い懸念を表明した日経は、「万全の構えで迎え入れるための準備を徹底しなければならない」と求めた。

万全な警備体制を構築するためにも、今回の事件の全容解明と警備計画の総点検を急がなければならない。(長戸雅子)

岸田首相襲撃事件をめぐる主な社説

【産経】

・民主主義を損なう暴挙だ (16日付)

【朝日】

・民主主義揺るがす暴挙 (16日付)

【毎日】

・言論封じる暴力許されぬ (16日付)

【読売】

・言論への暴力は断じて許せぬ (16日付)

・街頭演説の安全どう確保する (18日付)

【日経】

・言論を脅かす暴力は断じて許されぬ (16日付)

【東京】

・選挙への暴力許さない (18日付)

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