「ええねんスベっても」吉本新喜劇の間寛平GMが仕掛けた若手の育て方

はざま・かんぺい昭和24年、高知県生まれ。45年に吉本新喜劇に入団。24歳で座長となり、「アヘアヘ」「かい~の」といったギャグで人気を博した。令和4年2月に新喜劇のゼネラルマネージャー(GM)に就任し、次世代のスター育成に向けて精力的に活動している(鳥越瑞絵撮影)
はざま・かんぺい昭和24年、高知県生まれ。45年に吉本新喜劇に入団。24歳で座長となり、「アヘアヘ」「かい~の」といったギャグで人気を博した。令和4年2月に新喜劇のゼネラルマネージャー(GM)に就任し、次世代のスター育成に向けて精力的に活動している(鳥越瑞絵撮影)

吉本新喜劇の若手育成のため、環境づくりに奮闘した1年だった。昨年2月、新喜劇として初のゼネラルマネージャー(GM)に就任した間寛平(73)。若手が単独イベントを成功させるなど、取り組みは少しずつ実を結び始めている。それでも「まだまだこれから」と語り、お茶の間で知られた「寛平ちゃん」とは違った覇気に満ちた表情を見せる。

これはあかん

ゼネラルマネージャーとしての1年を「とにかく、がむしゃらだった」と振り返る間寛平 =大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)
ゼネラルマネージャーとしての1年を「とにかく、がむしゃらだった」と振り返る間寛平 =大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)

GM就任が決まると、まず座員一人一人に電話をした。芸人は舞台で場数を踏まなければ成長できないにもかかわらず、「もう何年も舞台に出ていないという話をいっぱい聞いて、『これはあかん!』って思いました。このままでは、20年後には新喜劇はつぶれてしまう」。新喜劇の置かれた現実を知り、強い危機感を抱いた。

新喜劇座員は現在110人いて、20年前の約2倍に当たる。一方で新陳代謝は進まず、本拠「なんばグランド花月(NGK)」の舞台に立つメンバーは40~50代を中心にした数十人で固定されていた。

出演者を決めているのは座長だ。「いつも同じメンバーの方が、互いの息も間も分かってやりやすい。でも、見る方は同じような芝居ばかりで飽きる。お客さんのことを考えられていなかった」と手厳しい。

若手側の意識にも問題を感じた。「顔が死んでた。『なんで会社はちゃんとしてくれへんねん』って、人のせいにする顔やった」。自発的に活動せず、公演に呼ばれるのを待つだけの座員が多かったのだ。

舞台経験不足

ゼネラルマネージャーとしての1年を「とにかく、がむしゃらだった」と振り返る間寛平 =大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)
ゼネラルマネージャーとしての1年を「とにかく、がむしゃらだった」と振り返る間寛平 =大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)

自身が座員だった頃は吉本興業が主体となり、若手が育つよう差配していた。主体が座員に変わっていくにつれ、吉本興業にも座員にも、若手を育てる機運が高まらなくなっていったとみている。

とにかく若手に経験を積ませようと昨春、NGKの地下にある劇場を、若手主体の新喜劇などを上演する「セカンドシアター」とした。ところが始めてみると40歳前後の中堅による公演が多く、20代の活動はなかなか活発化しない。

「あかんやろ!」

始まった頃はそう怒っていたが、中堅ですら舞台経験を積めなかった裏返しでもある。「出るな」とは言えなくなった。中堅にも若手の育成を求めていたが、それもやめた。若手が台頭すれば、彼らは立場を脅かされるからだ。

「中堅もあと20年は活動しなあかんのに、自分で育てろというのは、かわいそうやなって気付いた」

ほめて伸ばす

若手の気質の変化も感じている。失敗を恐れる若手が多いのだという。

「僕らは『下手くそ』とかボロクソに言われて奮起した。でも今の子は落ち込むんやな。まだ子供なんやから、腕がなくて当然。どんどん失敗して、勉強したらいい」と語り、「ええねんスベっても。僕もどんだけスベってるか」と笑う。

厳しく指摘するのではなく、良いところをほめて伸ばす。若手の公演を見たら電話で直接、「良かったやん」と伝えるようにしている。頼りになっているのはベテランだ。辻本茂雄(58)や烏川耕一(50)らが危機感を共有し、企画公演で若手を積極的に起用してくれる。

写真撮影でポーズをとる吉本新喜劇GMの間寛平=大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)
写真撮影でポーズをとる吉本新喜劇GMの間寛平=大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)

1年を経て、佐藤太一郎(45)と小西武蔵(たけぞう)(41)、そして「バレリーナ芸人」として人気の松浦景子(28)らがセカンドシアターでつくる舞台が評判となり、ついにNGKで上演されるまでになった。積極的に公演を企画する座員も増えてきた。

「ようやくここまで来た。めちゃくちゃうれしい」と顔をくしゃくしゃにして目を細めるが、若手から新喜劇の次世代スターを生むというGMとしての目標は道半ば。「(任期は)長くてもあと2年」と自らに課す。(藤井沙織)

「面白いって笑うことだけじゃない」 吉本の若手が作る「新・新喜劇」がNGKに進出

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