移植医療の現実と、母の思いと 高島礼子「いちばん逢いたいひと」

「怖いものはなくなった」と語る高島礼子(石井健撮影)
「怖いものはなくなった」と語る高島礼子(石井健撮影)

「いちばん逢いたいひと」(丈監督)は、骨髄移植を取り巻く課題を題材とした人間ドラマだ。主人公は、急性骨髄性白血病の少女。その母親役を演じた高島礼子(58)は、「病気と家族の物語にとどまらず、社会的なメッセージも込められた映画」と作品の意義を語る。

この映画は、プロデューサーの堀ともこ(55)が、自身の娘が骨髄移植を受けた経験に基づいて製作した。

主人公の笹川楓は、11歳で白血病と診断される。入院し、骨髄移植を希望するが、適合する提供者(ドナー)がなかなか現れない。高島が演じる楓の母、佳澄は、そんな娘にあくまで明るく寄り添う。

「お兄ちゃんがいて、娘とは年が離れたお母さんのようなので、友達感覚の親でいたいなと考えたんです」

映画の前半は病院が舞台で、生と死が冷静に描かれる。その中で、佳澄の存在は光をともし、物語の推進役を果たす。

後半は、移植が成功して成長した楓が、提供者に感謝を伝えたいと旅に出る。だが、提供者の元IT企業経営者は、悲運の人生を歩んでいた。

映画「いちばん逢いたいひと」ⓒ2022 「いちばん逢いたいひと」製作委員会
映画「いちばん逢いたいひと」ⓒ2022 「いちばん逢いたいひと」製作委員会

「提供者登録に関心を持ってほしい。一方で治療をかたった詐欺など移植をめぐる問題点も伝えたい。そんなプロデューサーの願いが込められています」と高島が堀の思いを代弁する。

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高島自身は、20歳で母親を病気で亡くした。当時、勤めていた会社を辞め、看病に専念したという。長年にわたり父親の介護もした。その経験から、「闘病で一番苦しいのは本人。看病する側が暗くなっちゃいけない」という思いがあり、佳澄という母親役に色濃く投影されているという。

高島は昭和63年に女優デビューし、映画「極道の妻たち」シリーズなどで人気を呼んだ。強く美しい女性を多数演じてきた。

「お母さん役? これまでも結構やってますよ!」と言ってから、「あ、そんなにないかも…。わあ、あんまり、ないかも…」と首をかしげる。

「せっかくこの仕事をしているのだから、お母さん役でも、変なおばさん役でも、もっと、いろいろな役が来ないかな」

依頼された仕事は断らないのが信条。最近は、アニメ映画の声優に挑戦し、テレビの旅番組などにも出演。活躍の場を、芝居の外にも広げている。

「私は〝王道の女優〟じゃないし、プライドも何もないんですよ。旅番組もクイズ番組も出てみたら楽しくて、なんでも、やってみるものだなあと。今は、何でもできそう。挑戦を、もっと、もっと、していきたいと思います」(石井健)

24日から全国順次公開。1時間46分。共演はAKB48の倉野尾成美、三浦浩一、中村玉緒ら。

たかしま・れいこ 昭和39年生まれ、神奈川県出身。63年、テレビCM出演を経てドラマ「暴れん坊将軍Ⅲ」で女優デビュー。映画は「陽炎(かげろう)」シリーズ、「極道の妻たち」シリーズなど多数。「長崎ぶらぶら節」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞。

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