北核実験場の周辺数十万人に危険性 初の報告書、日本に影響も

2022年3月24日に撮影された北朝鮮北東部豊渓里の核実験場の衛星画像(マクサー・テクノロジーズ提供・ロイター)
2022年3月24日に撮影された北朝鮮北東部豊渓里の核実験場の衛星画像(マクサー・テクノロジーズ提供・ロイター)

【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮が北東部の豊渓里(プンゲリ)で6回にわたる核実験を重ねた結果、周辺地域の住民数十万人が、放射性物質の実験場からの流出や地下水を通じた拡散で危険にさらされているとする分析を盛り込んだ報告書を国際人権調査団体が21日、発表した。

豊渓里での放射性物質拡散の危険性は繰り返し指摘されてきたが、北朝鮮は正確なデータを公開しておらず、核実験の周辺地域への影響を多角的に分析した内容の公表は初めてとなる。

報告書は、周辺で採取されて中国に輸出されたマツタケなどの農水産物が中国産を装って日本や韓国に密輸されることによる危険性にも警鐘を鳴らしている。

発表したのは、韓国を拠点にした団体「転換期正義ワーキンググループ」。団体が韓国国会などを通じて入手した資料によると、韓国政府は2017年の6回目の核実験を受けて17年と18年の2回にわたり、豊渓里周辺出身で韓国に住む脱北者40人に被曝(ひばく)検査を実施。うち22・5%に当たる9人から多数の染色体の異常や279~1386ミリシーベルトという高い放射線量が検出された。

18年に限ると、検査した10人の50%に当たる5人から異常が見つかった。検査を受けたのは16年より前に脱北した人が多く、規模がより大きい16~17年の5回目や6回目の核実験後も周辺に暮らす住民は、さらに顕著な数値が検出される可能性がある。

別の団体による周辺地域出身の脱北者への聞き取り調査では、頭痛や嗅覚・味覚の鈍化、視力低下、心臓の痛みなどを訴える人が複数いた。地域では原因不明の病が広がっているとの話が絶えなかったという。

報告書は、北朝鮮が過去に国連に提出した資料から、地下水や河川によって放射性物質の拡散の影響があり得る周辺の8市・郡に住む人口を約108万人と算出。韓国政府の被曝検査で異常が見つかった住民の割合などを考慮し、実際に影響がある住民を25~50%と仮定した場合、約27万~54万人が放射性物質拡散の危険にさらされている可能性があると分析している。

実験場付近には3万人近くを収監した政治犯収容所があり、収容者の被曝の危険は一層高いとみている。

周辺の山林はマツタケの産地でもあり、報告書は、中国を経由して中国産として日本に輸出されている可能性にも言及。韓国では15年に北朝鮮から中国産を装って輸入されたキノコから基準値の9倍以上の放射性物質が検出された。

団体の李永煥(イ・ヨンファン)代表は「核実験という安全保障問題と人々の生命や健康という人権問題が関連していることを示している」と指摘。韓国政府に早急に本格調査に乗り出すよう求めている。

豊渓里核実験場

北朝鮮北東部、咸鏡北道にある地下核実験場で、北朝鮮では「北部核試験場」と呼ばれる。現在までに4つの坑道が掘られ、1つ目と2つ目で2006年10月~17年9月に計6回の核実験が行われた。18年の米朝首脳会談に先立ち、北朝鮮は実験場の廃棄を表明し、坑道を爆破。だが、米朝対話の決裂後に復旧を進め、米韓は「いつでも7回目の核実験ができる状態」とみている。

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