舞台に映像に、存在感のある演技で強烈な印象を残す俳優、岸谷五朗。2月9~21日、京都市東山区の南座でシェークスピアの「ヴェニスの商人」をもとにした「歌うシャイロック」(作・演出、鄭義信)で主演を務め、悪徳な金貸しであるシャイロックに挑む。全編、大阪弁の舞台。「大阪弁にすることで、シェークスピアがとてつもなく近所のおっさんに近付く」と今作の魅力を語る。
特別な緊張感
岸谷の舞台といえば、寺脇康文と結成した演劇ユニット「地球ゴージャス」の活動で知られている。俳優としてだけでなく脚本や演出を担当するなど多才ぶりを見せている。
今回の「歌うシャイロック」は、岸谷にとって14年ぶりの外部出演。「特別な緊張感がありますね」と瞳を輝かせる。
「歴史ある南座の舞台は初めてですし、劇場の持つ力を借りて、お客さまにエネルギーを与えられるんじゃないかと思っています。また、今作の作・演出が、僕の出世作ともいえる映画『月はどっちに出ている』の脚本家の鄭義信さん。舞台で初めて義信さんの作、僕の主演でがっぷり組めるのも楽しみですね」
新たな人物像
ヴェニスのユダヤ人金貸し、シャイロックは町の嫌われ者。あるとき、商人のアントーニオは、親友から、恋の成就のため金の融通を頼まれるが、所有する商船はすべて海に出ていて手持ちの金がない。
仕方なく、シャイロックから「自分の体の肉1ポンド」を担保に金を借りる。ところが、アントーニオの商船が嵐のためすべて難破する。果たしてアントーニオは「肉1ポンド」を切り取られてしまうのか-。
今作は「ヴェニスの商人」を鄭の視点で描き直し、シャイロックを主人公にすることで、当時の理不尽な差別問題を背景に、原作では悪徳高利貸として描かれるシャイロック像に新たな光を当てる。
「当時、差別と迫害の中にいたユダヤ人がどうやって生きていけばいいのか。もちろん、シャイロックはヒール(悪役)なんだけれども、単なるヒールではない。時代の犠牲者ともいうべき彼の怒りやエネルギーを表現することができればと思っています」
笑い全編に
歌と踊りに加え、笑いが全編にちりばめられる。大阪弁で演じられるシェークスピア劇は人間ドラマを描きながらも、エンターテインメント色たっぷりの舞台になりそうだ。
「大阪弁で演じることで、遠い昔のシェークスピアの物語が、明日かあさってにも、自分たちの身近に起こりうる、リアリズムを感じさせるドラマに変貌する。演劇の力を感じてほしいですね」
出演はほかに中村ゆり、渡部豪太、岡田義徳ら。問い合わせはチケットホン松竹(0570-000-489)。(亀岡典子)