ソフィー・マルソーのデビュー作「ラ・ブーム」、12月23日からリバイバル上映 80年代へ高まる関心

ソフィー・マルソーの映画デビュー作「ラ・ブーム」の一場面 ©1980 Gaumont
ソフィー・マルソーの映画デビュー作「ラ・ブーム」の一場面 ©1980 Gaumont

フランスの人気女優、ソフィー・マルソー(56)のデビュー作で、日本でも大ヒットした青春映画「ラ・ブーム」(クロード・ピノトー監督・脚本、1980年)が12月23日からヒューマントラストシネマ渋谷などで全国順次公開される。配給会社「ファインフィルムズ」の宣伝担当、土田実穂さんは「今年は1982年の日本公開から40周年の節目を迎え、記念上映に踏み切った。従来の熱烈なファンに加え、ソフィーを知らない大勢の若者のハートを射止められたら嬉しい」と期待を込める。36年ぶりに新作が公開されて大ヒットを記録した「トップガン」の影響もあり、1980年代のカルチャーへの関心が広がっていることも背景にある。

日本の男性を虜にした13歳少女

本作は本国フランスでは450万人を動員するヒットを記録し、日本でも大勢の若者たちの支持を得た。主演は約700人の応募者の中から選ばれた当時13歳のマルソー。

リチャード・サンダーソンが歌うロマンチックな劇中歌「愛のファンタジー」も大ヒットし、この曲を使用したシーンは様々な映画やミュージックビデオで引用されている。作中、マルソー扮する少女がブーム(パーティーの意味)の会場で、ソニーの「ウォークマン」と思しき携帯型カセットプレイヤーのヘッドホンを耳にかけ、初恋の相手と抱き合いながら、「愛のファンタジー」の調べを楽しむシーンは有名だ。

ソフィー・マルソーの映画デビュー作「ラ・ブーム」の一場面 ©1980 Gaumont
ソフィー・マルソーの映画デビュー作「ラ・ブーム」の一場面 ©1980 Gaumont

今回の上映では、「ラ・ブーム」のほか、続編の「ラ・ブーム2」(クロード・ピノトー監督・脚本、1980年フランス、1983年日本公開)も公開される。いずれも艶やかな色彩と鮮明な映像で蘇るデジタルリマスター版だ。

デジタルリマスター版の予告編はこちら

「ラ・ブーム」の舞台はパリ。新学期を前に、歯科医の父フランソワ(クロード・ブラッスール)、漫画家の母フランソワーズ(ブリジット・フォッセー)とともにパリに越してきた13歳のヴィック(マルソー)。クラスメートに誘われた初めてのブーム(パーティーのこと)でマチューに出会い、惹かれていく。ところが、同時にいつもヴィックを優しく見守っていた両親の関係に、ある大きな変化が訪れていた・・・。

「トップガン マーヴェリック」の大ヒットにヒント

土田さんによると、今回の上映決定は、近年、1980年代にヒットした音楽やファッション、映画などのカルチャーが特に若者の間でブームとなっていることを踏まえたものだという。念頭にあったのは、主演トム・クルーズをスターダムに押し上げた「トップガン」(1986年、米)で今年5月に日本でも公開された続編「トップガン マーヴェリック」(2022年)の世界的な大ヒットだった。

ソフィー・マルソーの映画「ラ・ブーム2」の一場面 ©1980 Gaumont
ソフィー・マルソーの映画「ラ・ブーム2」の一場面 ©1980 Gaumont

土田さんは「『トップガン マーヴェリック』の公開に伴い、1980年代を懐かしむ声がSNSなどで顕著だった。そこで同年代の『ラ・ブーム』をリバイバル上映すれば、当時の一大ブームを知る世代の方々をメインに劇場に足を運んでいただけるのではないかと判断した」という。

映画と音楽の親和性

歳月を経ても色褪せない「ラ・ブーム」の魅力やヒットの要因は何か。映画パーソナリティとして評論や解説などを手がける伊藤さとりさんは3つ理由を挙げた。伊藤さんは小学生のときに劇場鑑賞して以来、「ラ・ブーム」「ラ・ブーム2」の大ファンを公言し、12月16日発売予定の著書「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白 100 選」(ムービーウォーカー、税込1540円)では、本作やマルソーの魅力などに言及している。

 映画パーソナリティの伊藤さとりさん
映画パーソナリティの伊藤さとりさん

まず理由の1つ目は、映画の内容と音楽の相性のよさだ。伊藤さんは「1970〜1980年代は映画と音楽の親和性に映画ファンの注目が集まっていた」と時代背景を指摘した上で、「ラ・ブーム」のヒットはその親和性を存分に満たすことができたからではないかと考えている。具体例の筆頭に挙げたのは、1980年に日本で公開された「ローズ」(1979年、米)。カリスマ的な米歌手、ジャニス・ジョプリンをモデルにローズの激動の人生を描いた作品だ。

「主演ベット・ミドラーが歌う主題歌『ローズ』の親和性は見事であり、その後、多くのアーティストが曲をカバーしている。さらに、『ラ・ブーム』日本公開の翌年には、『フラッシュダンス』(主題歌『フラッシュダンス ホワット・ア・フィーリング』、歌手アイリーン・キャラ)、そして『フットルース』(主題歌『フットルース』、歌手ケニー・ロギンス)と、同様に映画と音楽の親和性の高い大ヒット作が公開されています」と伊藤さん。

映画パーソナリティ、伊藤さとりさんの著書「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白 100選」(ムービーウォーカー、税込1540円)
映画パーソナリティ、伊藤さとりさんの著書「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白 100選」(ムービーウォーカー、税込1540円)

2つ目はマルソー自身の俳優としての魅力だ。「『ラ・ブーム2』では、少し大人になったヴィックの色気が溢れ出し、彼女のダンスのレッスンシーンで、母親の妄想として導入される様々なミュージカル映画をモチーフにしたダンスシーンは、もはや大人の女性の色香なのです。もちろん彼女のトレードマークである髪型やGジャン姿は変わらず健在。ただしシャワーシーンは今思えばサービスカット以外の何ものでもないですね」

最後は、卓越した脚本にあるという。伊藤さんは「少女ヴィックの初恋だけでなく、両親の浮気による離婚の危機、そして彼ら家族の恋のアドバイザーとなるお洒落でチャーミングなヴィックのひいおばあちゃんの存在・・・も描かれている」と指摘。その上で「だからこそ、私たちが歳を重ねても、観る年代により共感する考えやエピソードを発見してしまう。実はとてもよく練られた脚本、そしてヴィックを取り巻く人々全てが愛おしい。それこそが〝恋する映画〟『ラ・ブーム』だった」と強調した。

昭和の日本を席巻したフランスのアイドルは、令和を迎えた日本の映画ファンにどんなインスピレーションを与えるのだろうか。(高橋天地)

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