「ヒーロー」とともに40周年 麻倉未稀「人生はドラマ」

「さびない何かがある」と「ヒーロー」について語る麻倉未稀=東京都文京区(石井健撮影)
「さびない何かがある」と「ヒーロー」について語る麻倉未稀=東京都文京区(石井健撮影)

歌手の麻倉未稀(62)が、デビュー40周年を記念した新作アルバム「人生はドラマ これからも続く私のヒーロー物語」を出した。

麻倉は、昭和56年8月、ボサノバ調の大人っぽい「ミスティ・トワイライト」というCMソングで歌手デビュー。「都会派美人シンガー」で売り出したが、今や聴く人に勇気を与えるパワフルなシンガーのイメージこそふさわしい。

なんといっても「ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス」(58年)や「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」(59年)の印象が強烈だからだ。

前者は米映画「フラッシュダンス」(1983年=昭和58年)の主題歌のカバー。ドラマ「スチュワーデス物語」の主題歌に使われた。

「楽曲を管理する会社の方から、映画の日本公開に合わせて歌うよう勧められたのですが、『こういうリズムが強烈な歌は、私には歌えない』とお断りしていたんですよ」

だが、「なにごとも挑戦だ」と思い直して取り組み、日本語訳詞も手掛けた。

「ドラマの主題歌に選ばれたのは、シングル盤を出した後だったはず」と記憶している。歌詞もテレビ用に一部を変えた。

アイドル歌手の堀ちえみが主演し、スチュワーデス訓練生の奮闘と恋を過剰なまでの演出で描いたドラマは当時、大いに話題となった。

「私の歌が、訓練を受ける主人公の応援歌になっていたことが印象深かった」と振り返る。

一方、後者は米映画「フットルース」(84年=昭和59年)の劇中歌のカバー。こちらは、ドラマ「スクール☆ウォーズ~泣き虫先生の7年戦争~」主題歌に使われた。

これも当初はドラマとは無関係に、アルバム収録曲としてカバーしただけだった。

「こういうハードな歌を歌うなんて想像もしていなかったけど、好きなものとは違う歌を、どう料理していけるか。これも『挑戦』でした」

主題歌を検討中だった「スクール☆ウォーズ」制作スタッフから請われて、関係者が録音したばかりの歌を聴かせ、その場で主題歌に採用された。

「ドラマのイメージに合わせて主題歌を作る時代ではなかったんですよね」と麻倉は振り返る。

だが、聴く人を鼓舞する「ヒーロー」は、山下真司が演じる熱血教師が落ちこぼれラグビー部を全国制覇に導くスポーツ根性ドラマにぴったりだった。

この歌は、今年6月に73歳で亡くなった歌手、葛城(かつらぎ)ユキもカバーしてシングル盤で発売していた。

作詞家の売野雅勇(うりの・まさお)が、麻倉、葛城、両方の日本語訳詞を手掛けたが、売野は麻倉版において「I NEED A HERO」という原曲の歌詞の主語を「YOU」とする大胆な改変をおこなった。その結果、葛城版は男性視点の一人語りで、麻倉版は女性が呼びかける内容となった。

「『YOU』に変えたことで、『あなたたちもヒーローなんだよ』って歌っているようで、それがあのドラマの世界観に一致したことは確かです」と麻倉。

だが、売野が「I」を「YOU」に変えた理由は知らない。

「ずうっと確かめたくて、でも、お会いすると、うっかり忘れちゃう。メッセージアプリで聞くこともできますが、ぜひ私自身が直接ご本人から聞きたい。次こそ、絶対に教えてもらいます」

「ヒーロー」は、麻倉を代表する歌になった。この歌があったから、今も歌い続けているといっても過言ではない。

「本当に、そうです。最初は、〝都会派美人シンガー〟だったのですけどね」と苦笑しながら、「この歌がなぜ聴く人を励すのか、私も理由を知りたい」という。

観客に請われて、ステージで都合3回歌ったこともあった。代々の伝統だからと試合前に必ず聴くというラグビー部の学生とも会った。東日本大震災の後、ラジオで頻繁に流れ、被災地に招かれて歌ったこともあった。

「時代がその時々に『ヒーロー』を求め続けているような気がします。歌っていて私自身も励まされます。歌いながら励まされるって、なんだかすごい曲」

平成29年4月、乳がんが見つかった。悩んだが、「『ヒーロー』で『一緒にがんばろう』と歌ってきたのだから」と、がんであることを公表した。

その後、「乳がんの場合、検診率を上げることで死亡率を下げることができます。がんに関する正しい情報を伝えていきたい」と、乳がん検診の必要性を訴える活動を続けている。

そして、気がつけば歌い続けて40年だ。7月27日に出した新作アルバムは、それを記念したもの。「フラッシュダンス」「ヒーロー」はもちろん収録。ほかに「NEVER」や「SHOW ME」など昭和のテレビドラマの主題歌や挿入歌をカバーした。アルバムの題名も「人生はドラマ」。

「私の人生もドラマのよう。まさかのがんもありました。新型コロナウイルス禍、ロシアのウクライナ侵攻と先が見えない今もまた、応援歌としての『ヒーロー』が求められているのではないでしょうか」

(石井健)

8月21日、ビルボードライブ横浜で記念ライブ。シンガーソングライターの庄野真代、歌手の石井明美、澤田知可子をゲストに迎える。

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