海の「厄介者」を商品に 料理人らアイゴの養殖に挑戦 資源循環と食用化目指す

懐中電灯で照らし、アイゴの仔魚を観察するメンバーら=和歌山県串本町
懐中電灯で照らし、アイゴの仔魚を観察するメンバーら=和歌山県串本町

海洋資源を守ろうと、料理人と大学がタッグを組み、ある魚の養殖に挑戦する。その魚は「アイゴ」。岩場の海藻を食い荒らし、ヒレの毒や独特の臭みから食用に使われることも少ない。そんな「厄介者」だが、資源の好循環を作りだし養殖魚の新たな価値を生む可能性を秘めているという。

料理人と近大で

「元気そうに泳いでいて順調のようだ」

7月上旬、太平洋が広がる本州最南端、和歌山県串本町にある近畿大水産研究所大島実験場。近くで水揚げされたアイゴが泳ぐ水槽を男たちが取り囲んでいた。

集まったのは「雲鶴」(大阪市北区)▽「浪速割烹 㐂川(きがわ)」(中央区)▽「法善寺 浅草」(同)▽「柏屋」(大阪府吹田市)-など日本料理店の店主ら。「ミシュランガイド」で星を獲得した店舗もあるなど、いずれも大阪を代表する料理店だ。今回の養殖プロジェクトを担う会社「RelationFish(リレーションフィッシュ)」(大阪市北区)の立ち上げメンバーでもある。

2年前から水産資源の保全について勉強会を重ね、2月に同社を設立した。社長を務める雲鶴店主の島村雅晴さん(45)によると、減少する水産資源に危機感がある一方で、客の要望に応えるため天然魚に頼っていたことにジレンマがあったという。

養殖魚の活用を模索するなかで、従来とは違う養殖魚で新たな価値をつくろうと考えた。ともに勉強会を重ねた同研究所の澤田好史教授を通じ、同研究所との共同研究を始めた。

植物好きに着目

対象に選んだアイゴは、和歌山、徳島両県など一部の地域では珍重されているが、商品として広く流通しておらず、網にかかっても捨てられることの多い魚だ。海藻を好むため、藻場が衰退する「磯焼け」を引き起こすとして駆除の対象になることもある。ただ、植物を好むことが養殖では新たな価値を生む可能性があるという。

澤田教授によると、一般的な養殖魚のエサの主成分は魚粉。例えばブリは1キロ太らせるのに7~10キロの魚が必要で、マグロの場合は14~17キロという。「魚を与えずに飼えるアイゴは画期的」(澤田教授)。

島村さんは「(スーパーなどから出る)野菜くずを餌にすれば、フードロス削減にもつながる」と期待する。餌の食べ残しや糞(ふん)を含んだ排水を肥料にし、別の水槽で育てた海藻を餌にできれば、完全なリサイクルを目指せるという。その先に、食用に向けた改良をにらむ。

ネックは「臭み」

マグロの養殖で知られる同研究所だが、アイゴの養殖は初めて。手探りで飼育試験を進めている。

現在は天然のアイゴを水槽で飼育中で、採取した卵から仔魚が生まれている。ただ「仔魚は24時間以内に餌を食べないと餓死する。そこが課題」(澤田教授)。餌や環境が合わないと死んでしまうこともあり試行錯誤の繰り返しだ。

食用のネックとなる臭みを研究するため、今後、各個体のDNAを比較し特徴も調べていく。また、野菜くず主体▽魚粉の配合飼料▽大豆やトウモロコシなどの植物性タンパク質が主成分の配合飼料-といった3種類の餌を与え、成長や味を比べるという。

澤田教授は「捨てられていた魚を養殖できれば食料問題に貢献できる。マダイやブリでも植物性タンパク質を主成分にした餌に切り替えていけるよう応用していきたい」と意気込む。

同社はインターネットで研究資金を募るクラウドファンディング(CF)を9月8日までの予定で始める。返礼品は試食付きイベントの招待券や養殖場の見学会などだ。島村さんは「持続可能な食の未来の実現に向け、魚を通じて多くの人と連携できれば」と話す。(北村博子)

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