INAC優勝、陰のMVP伊藤美紀手記「殻を破ったシーズン、成長を実感」

広島戦で競り合うINAC神戸の伊藤美紀(右)=ノエビアスタジアム神戸(撮影・榎本雅弘)
広島戦で競り合うINAC神戸の伊藤美紀(右)=ノエビアスタジアム神戸(撮影・榎本雅弘)

WEリーグ初代女王となったINAC神戸。全試合に先発出場し、サイドハーフや守備的MF、センターバックなどさまざまなポジションでチームを支え、星川敬監督が「陰のMVP」と高く評価する伊藤美紀(26)が産経新聞に手記を寄せた。

殻を破ったシーズン

練習場でポーズをとるINAC神戸の伊藤美紀=神戸市東灘区(北川信行撮影)
練習場でポーズをとるINAC神戸の伊藤美紀=神戸市東灘区(北川信行撮影)

シーズンの初めには、ここまでいろんなポジションをするとは想像していませんでした。(本職の)中盤で成長するついでに、他のポジションもしている感じだったんです。最初は自分のプレースタイルにこだわる気持ちが強く、どうしてもドリブルやスルーパスを優先する傾向が強かった。〝安直〟なプレーを選び、他の選択肢を考えることをやめてしまうことが多かったんです。

その殻を破ったシーズンでした。1対1で抜いてもいいし、パスを出してもいい。自然とリミットが外れました。これまでは自分で自分に蓋をしてしまっていたんです。いろんなポジションができるようになったと、素直に受け入れられるようになりました。「ポジションが変わる」というと、どうしてもネガティブに考えてしまいがちですが、逆に自分らしく、どうすれば誰もしたことがないポジション像をつくれるか、ポジティブに考えられるようになりました。マインドコントロールも含め、プレーもメンタルも成長したシーズンでした。

例えばセンターバック(CB)。本職じゃない分、周りがカバーしてくれたり、自分から積極的にコミュニケーションを取ったりしました。マイナス部分を、どう崩していくかが大事です。(中盤で長くプレーしてきた)私にとって、安定感のある攻撃の組み立ては武器。他のCBができないことを生かし、チームを活性化させることができればいいと思っています。いかにプラスを多く出せるかが重要な気がします。

私の性格は一言で言えば「負けず嫌い」。できないことがあるのが嫌なんです。だから、努力によっていろんなことができるようになった瞬間がうれしいんです。マイナスに思うことがあっても、自分を信じ、それをプラスに変えて練習に取り組んでいます。

澤さんの教え胸に

(常盤木学園高からINAC神戸に入り)澤穂希さんと守備的MFのコンビを組みました。澤さんのプレーを見て、技術を見て、それを自分のものにしたいという思いで続けてきました。すごく覚えているのは「練習で120%出し切る。だから試合で100%でプレーできる」という言葉です。練習でその言葉を実践している澤さんの姿を見てきました。

あとは「苦手なことを克服するのも大事だが、それ以上に自分の良さを伸ばす方に力を注いだ方がいい」とも言われました。自分の色を出す。それも、ずっと意識している部分です。そうした澤さんの教えが、今の自分のベースになっています。

練習場でポーズをとるINAC神戸の伊藤美紀=神戸市東灘区(北川信行撮影)
練習場でポーズをとるINAC神戸の伊藤美紀=神戸市東灘区(北川信行撮影)

星川敬監督は自分の可能性を最大限に引き出してくれる、自分の気付いていない部分を出してくれる監督です。いろんなことにチャレンジさせてもらっています。今まで経験した部分でも、楽しくできるようになりました。「そういう選手じゃないから」と思ってやらなかったら、成長できません。

キャラ濃いメンバーそろった

プロになって変わったのは、準備の部分。体のケアや練習以外の時間の使い方です。ピッチで力を100%出すにはどうしたらいいか。その準備のところが変わりましたね。自分の体と向き合うところで、以前よりもすごく考えるようになりました。

今のINAC神戸は、若い子も意欲的だし、負けず嫌いな子も多い。そういう選手から刺激も受けています。経験を積んでいる選手もいて、引っ張ってくれています。バランスよく成り立っているチームなのかなと思います。やってやるぞというのがプレーで伝わるチームです。個人個人、特徴があるというかキャラが濃い。でも意外と一つになれている。どこかで同じ方向を向いているんです。

開幕から負けない、無敗を続けていたというのは、同じ方向を向いていないとできないことでしょう。いいバランスが取れて、ここまでこれたと感じます。

INAC神戸で結果を出すことで、なでしこジャパンにも呼ばれるようになりたい。招集された先で、アピールできるようにしたい。そうなるために、今はすごく成長できていると感じています。(談)

いとう・みき 1995年9月10日生まれ、青森県出身。宮城・常盤木学園高から2014年にINAC神戸に加入した。守備的MFとして引退前の澤穂希さんとコンビを組んだ。150センチ、44キロ。自身のSNSでも積極的に発信を行っている。

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