裁判所が生活保護受給者に諭した競馬必敗の法則

馬券が的中しても払戻金は没収-。過去6年間に競馬でひそかに327万円余りの払い戻しを受けていた生活保護受給者の70代男性に対し、大阪地裁は昨年12月の判決で、払戻金から的中馬券の購入代金を差し引いた全額を行政側に返還するよう命じた。ただ男性がこの間、馬券に投じた総額は約480万円に上り、トータルの収支は約150万円の赤字。訴訟で男性側は払戻金が馬券購入代金を上回っておらず、返還義務はないと主張したが、認められなかった。なぜなのか。

通帳に出入金記録

裁判資料によると、保護費の返還を命じられたのは大阪府茨木市に住む70代男性。保護費を受給しながら平成21年に競馬の決済口座を開設。25年4月から令和元年7月までの約6年間、インターネット上で馬券を購入し、的中のたびに払い戻しを受けていた。

生活保護法は、受給者が収入を得た場合、支給元の自治体に届け出なければならないと規定。男性は馬券が的中しても届け出ていなかった。だが元年7月、茨木市福祉事務所の担当者が男性宅を訪問した際に、室内から口座の通帳が見つかり、日本中央競馬会(JRA)側と男性側との間の約6年間に及ぶ出入金の実態が明らかになった。

男性がこの間に受給した保護費は813万4664円に上っており、市側は保護費の不正受給と認定。断固たる措置で対応した。

口座記録から、男性はJRA側から計101回、総額327万4820円の払い戻しを受けていたことが判明。1回当たりの馬券購入代金を100円と推計した上で、的中馬券の購入代金を差し引いた326万4720円を徴収する決定をした。

男性側は、処分取り消しを求めて昨年2月に大阪地裁に提訴したが、同12月に棄却された。

トータルで赤字でも…

327万円余りの払戻金を得たとはいえ、馬券購入に投じた総額は481万円余り。トータルでみると大幅なマイナスだ。男性側は「収支は赤字なので、届け出が必要な収入はない」と徴収決定の取り消しを訴えたが、地裁の判断は厳しかった。

判決理由で森鍵(もりかぎ)一裁判長は、トータルで勝ちが上回った場合に限って収入を届け出ればよいということであれば、たとえ現段階で勝ちが続いていても「トータルで負ける可能性があるから申告しなくて良い」という考え方が成立してしまうと判断。そもそも払戻金が馬券の購入代金を上回ることは極めてまれであり、男性側の主張を認めれば、生活保護受給者は収入を届け出ないまま、結果的に生活がさらに困窮する可能性が生じ、生活保護法の目的に反するとも指摘した。

「損するだけ」

生活保護制度では、競馬などで得た収入を届け出ると、その分が翌月の保護費の支給額から差し引かれるため、生活保護を受給しながら保護費を上回る収入を得続けるのは不可能だ。事実上の〝規制〟とも受け取られるため、「生活保護受給者は隠れてギャンブルをすることが多い」(茨木市担当者)のだという。

厚生労働省の調査によると、平成28年度に「公営ギャンブル」やパチンコなどの遊戯で得た収入を届け出ず、保護費の不正受給と認定された件数は100件に上り、このうち競馬は56件だった。

社会保障制度に詳しい関西国際大教育学部の道中隆教授は、受給者が競馬などに資金を投じることについて「生活破綻のリスクが高く、損をするだけ。娯楽の選択として望ましくない」との見解を示す。結局のところ、生活保護受給者は競馬で大もうけすることはできないようだ。(土屋宏剛)

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