原発再稼働への議論正常化に弾み 処理水放出

 政府が東京電力福島第1原子力発電所で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水を海洋放出する方針を固めた。国内では福島第1原発の事故後、すべての原発が一旦稼働を停止し、現在までに再稼働したのは5原発9基にとどまる。政権が掲げる2050年の脱炭素化には運転時に二酸化炭素(CO2)を出さない原発の稼働率を高めることが不可欠。処理水問題で福島第1の廃炉工程が前進することで、エネルギー政策でこれまでタブー視されてきた原発をめぐる議論が積極的になされることが期待される。

 東日本大震災前、国内では54基の原発が稼働可能な状態にあった。震災後、原子力規制委員会が策定した新規制基準に合格し、再稼働できているのは9基のみで、電源構成比でみると原発は約6%(19年度速報値)を占めるにとどまっている。現行のエネルギー基本計画では、原発比率を30年度に20~22%に引き上げるとしているが、大きく乖(かい)離(り)しているのが現状だ。

 政府は今夏をめどに次期エネルギー基本計画を策定する方針。昨年末には脱炭素化の目標期限である50年の電源構成に占める原発の比率を化石火力と合わせて約3~4割にするとの参考値を示している。

 日本では震災後、原発の運転期間が法律で原則40年、最長60年間に限られており、経済産業省の試算によれば、すべての原発が再稼働できたとしても、50年時点で稼働させることができる原発の数は23基にとどまる。この状態だと、50年時点で必要な電力の約1割強しか賄えない計算だ。

 このため、次期エネルギー基本計画では、原発の新増設も含め、原発比率をどこまで高められるかを冷静に議論することが必要になる。

 この10年間、政府は福島第1原発事故への国民の不信感を恐れ、原発をめぐる議論を避け続けてきた。今回、政府が長く懸案となってきた処理水問題に一定の結論を出し、廃炉作業が前進することは、次期エネルギー政策の議論を冷静に行ううえでも大きな一歩になりそうだ。(那須慎一)

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