「女性」「夫婦」とは…揺れる40代の心情に迫る 柴門ふみさん「恋する母たち」ドラマ化  

「女性」「夫婦」とは…揺れる40代の心情に迫る 柴門ふみさん「恋する母たち」ドラマ化  
「女性」「夫婦」とは…揺れる40代の心情に迫る 柴門ふみさん「恋する母たち」ドラマ化  
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 母として女性として迷いながら懸命に生きる、40代女性3人を描いた漫画『恋する母たち』。作者は、『東京ラブストーリー』などで知られる恋愛漫画の名手、柴門ふみさんだ。今夏の本編完結を経て、今月23日からTBS系で連続ドラマ化される。「母親と恋」という、語られてこなかったテーマは、なぜ生まれたのだろうか。

10年以上温めてきた題材

 物語は、名門高校に子供を通わせる3人の母親が出会う場面から始まる。弁護士の夫を持つセレブの蒲原まり、女手ひとつで子供を育てる石渡杏、バリキャリの林優子。実はまりの夫は部下と不倫、杏の夫は行方不明、優子は子供が不登校、とそれぞれ事情を抱えていた。

 3人の人生が交錯するなか、思いがけず訪れた男性との出会い。母でありながら恋に落ちていく3人を、女性目線でリアルに描く。

 「私が子供のころは、母親が恋をするなんて絶対にないと思っていました。世間でも、母と恋はタブーな組み合わせ。でも、自分が40代になったとき、身近にバツイチや未婚の母、不倫といった母親でも恋をしている人がいたんです。その時は、そういう人たちがどういう結末を迎えるか分からなかった。10年くらいたってやっと、現実の決着を確認したので物語にできました」

 母と恋というテーマだが、描きたかったのは「女性」だ。筆歴は40年に及ぶが、漫画家として女性をまだ描き切っていないという思いがあったという。

 本作が連載されたのは漫画誌ではなく週刊誌「女性セブン」(小学館)。「芸能人の不倫スキャンダルが好きな読者が読む雑誌でもあるし、不倫で興味を引き、女性というものを、夫や子供との関係までしっかり描きたかった」という。

 女性の性欲、夫への愛憎…。赤裸々な本音描写も支持される理由だ。反響が大きかったのが、まりの夫が自分の不倫を謝罪したエピソードだという。

 「男はのんきだから謝れば許されたと思ってしまうけれど、そうじゃない。まりが『何を都合のいいこと言っているの』と絶対に許さないと怒る場面は、主婦からの反応が大きかった。ひどい亭主を描くほど、読者の怒りのリターンがありましたね」

揺れる40代、恋する自分を思い出す

 女性にとって40代は難しい。子育てに介護と役割が増え、仕事の責任も重くなる。その一方で体の変化にも戸惑う。

 「40代って女性の体の変化が大きい時期。自分の経験からもそうですが、ホルモンバランスが乱れて精神に影響する。若い時と比べて容姿の衰えも感じるし、男の人の自分への接し方が変化してきたことに気づき始める。このまま女性として扱ってもらえないのかと悩んでしまう人もいるでしょうし、女性としての焦りも少しずつ出てくる」

 子育てに力を注いできたまりと杏は、母親としての意識が強い。それでも恋に落ちていくが、「育児に夢中な時代は若い頃どんなに恋愛をしていても忘れてしまう。作品のモデルになった、40代で出合った人たちは魅力的で、すごくいいお母さんだった。でも、だからこそ、寄って来る男も少なくない。ちょっかいを出されると、女性も若い頃の恋をしていた自分を思い出してしまうんです」。

 優子は、仕事はできるのに子育てにコンプレックスがある。「世の中には子育てが苦手な女性もいる。悩んでいるお母さんも入れたかったんです」と明かす。

不倫報道に思うこと

 最近では、不倫報道が過熱し、社会の反応もかつてより厳しくなった。

 「やたら不倫がたたかれていますが、カップルごとに事情がある。作中で杏がラブホテルに入るわけですが、杏も相手の男性も、ものすごく重い事情を抱えている。誰があの2人を責められるのかって読者に投げかけました。そういう風に(不倫する人も)事情があるんだよ、というのは振ってみたかったんです」

 今や有名人の不倫は活動休止に追い込まれる例も少なくない。「有名人の場合は恵まれているのにまだ不倫するのか、と。悪いことだから免罪符があると思って非難するけれど、赤の他人の家庭に対して誰も、そんな権利はないんですよね」

 その一方で、不倫を扱った作品は生まれ続けている。本作の読者も圧倒的に女性だという。「絶対に不倫なんか許さないっていう人でも、物語として自分がこの立場だったらドキドキする、と読んでくれている方が多いようです。私は、不倫には反対。作品を読んでもらえたら分かるんですが、どれだけ多くの人が巻き込まれ、傷つくか。すごく大変なことなんです」

たどり着いたのは夫婦のドラマ

 不倫を描くうちに、掘り下げたくなったのが、「夫婦」のドラマだ。まりが恋する相手、落語家の丸太郎は別れた妻との関係が切れていない。杏は行方不明になった夫への思いがなかなか断ち切れない。現在はスピンオフを連載中だが、子供たちの思いや、夫婦のなれそめが明かされている。

 「不倫よりも夫婦のほうが圧倒的に深い。夫婦は愛情が冷めても、性欲が冷めても切れない。不倫は性欲ですけれど、人間ドラマとして深いのは夫婦ですね」

 これまで、男女の繊細な心の動きを捉えた作品を多く発表してきたが、「まだ女性を描き切っていない。今回は母を描きましたが、母にならずに生きている女性もいる。70代、80代ですてきな人もいるので、描いてみたい。最近は老いと死というテーマにも興味が出てきました」。創作意欲はまだまだ衰えない。

(文化部 油原聡子)

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