佐藤さとるさん(87)が生み出した児童文学の名作「コロボックル物語」を受け継いだ。「コロボックルを、時の流れの中に置き去りにしてはならない。平成の子供たちにも平成のコロボックルに会ってほしい、という思いでバトンを受け取りました」
きっかけは平成23年の対談。「いつか誰かに書いてほしい。そのためにオープンエンドにしてあった。有川さん、書いてみない?」。佐藤さんのそんな一言から、再び物語が動き出す。シリーズ最終巻刊行から27年。「強く意識したのは『ただの2次創作であってはいけない』ということ。コロボックル物語でありながらも、有川浩の世界でなければならない、と」
その言葉通り、物語の世界観を受け継ぎつつ、いまがいきいきと躍動している。ある日、コロボックルたちの国を脅かす危機が訪れる。養蜂家の子供であるヒコとヒメは、コロボックルを守るために…。
「佐藤版では道路の拡張によって山がつぶされる、という高度経済成長期を背景にした危機でした。じゃあ今の危機ってなんだろう、と考えたとき、『情報』というキーワードが浮かんできました」
自身も幼い頃からコロボックルに夢中だった。「コロボックルが来てくれるかも、と枕元にミルクを置いて寝ていたぐらい」。自身も愛し、時代を超えて愛されてきた物語を引き継ぐというプレッシャーについては、「物語って、自分が書いていても、自分のものではないんです。物語が欲するところに進むだけ。作者ができるのは、その声に耳を傾け、物語に尽くすことです。佐藤さんも物語に尽くされる方だと思うし、もし私が受け継ぐ素質があるとしたら、そういう部分なのかなと思います」。