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映画の天才、羽仁進監督が語る今年87年を迎える半生と最後の新作

今年87年を迎える半生と“最後の新作”を語る羽仁進監督
今年87年を迎える半生と“最後の新作”を語る羽仁進監督

 「それ、羽仁(進)さんですよね。何かあるんですか」。是枝裕和監督の取材後。是枝監督は、記者のカバンからのぞく資料に目を留めた。特集上映と取材会がある旨を伝えると、「僕、対談したことがあるんですが本当にすてきな人で」と切り出した。

 羽仁監督は、是枝監督も行う、記録映画の手法を劇映画に用いた先駆者である。対談の際、自然な子供たちの表情を収めた記録映画をどうやって撮ったのか聞いたそうだが、「最後まで教えてくれなかったんですよ。ぜひ聞いてみてください」と笑顔で話していた。

 そんな宿題を手に、特集上映が行われている(7月3日まで)大阪市西区九条のシネ・ヌーヴォによる取材会に参加した。共同通信の記者から、岩波映画の創設にも参加した羽仁監督。その作品は近年、ウィーン映画祭、ニューヨークリンカーンセンターなど海外で相次いで特集が組まれ、注目を集めている。

 授業中の生き生きした子供たちを収めた記録映画「教室の子供たち」(昭和30年)は、教室の隅にカメラを備え付け、子供たちがそれを意識しなくなるのを待つという当時では画期的な方法で撮影。記録映画の手法を多用した初の長編劇映画「不良少年」は黒澤明監督や木下惠介監督作を抑え、映画誌のベスト1に。素人を起用し、独自の発想と方法で人間の内面を映し出す羽仁監督は映画の天才と称されるほどだ。常に革新的な道を歩んできた人だが、今年87歳となる監督自身は極めて穏やかな人だ。

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