電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第50回

本紙が選定する「グローバルニッチトップ企業」


~独自商品で高シェア維持するが落とし穴も……~

2014/6/20

 経済産業省は2014年3月に、国際市場の開拓に取り組んでいる企業のうち、グローバル展開において優秀と認められる実績がある企業を「グローバル ニッチトップ企業(=GNT企業)」として「グローバルニッチトップ企業 100選」を選定した。いずれもその分野において秀でた技術と高シェアを有し、トヨタ自動車やアップルなど世界有数の顧客から絶大な信頼を得ている企業群である。改めて国内のものづくり力の逞しさを印象づけた。

 そこで半導体産業新聞でも、日頃の取材を通じてシェアの高い製品を展開している実装ならびに後工程を代表する企業の中から、勝手に独断と偏見でグローバルニッチトップ企業を今回選定したので発表したい。関連する該当企業の一覧を別表に記す。

 しかし、現状に甘んじて高シェアを過信していると、痛いしっぺ返しを喰らうことになる。もともと中小企業の多い、これらの「ニッチトップ企業」は、決して潤沢な資金や人材に恵まれているとは言えない。常日頃から自分たちの弱点にも目を光らせておく必要がある。


独創技術であれば海外に行く必要はない

 普段、半導体やプリント基板などの電子部品企業を取材していると、決して誰もが名を聞くような会社や大企業ではないのだが、それなしでは今日のものづくりが成り立たない製品や技術に巡り会うことが多々ある。スマートフォン(スマホ)や薄型TVなど良く目にする最終商品ではないため、想像しにくいのだが、その製品や技術がないと現在のEV/HV、スマホやIT社会、そして最近のはやり言葉でいうのならIoT(Internet of Things)機器が実現できないことを考えると、それらの存在の尊さが改めて分かろうというものだ。

 高シェアというのは大体3割をいう。この3割というのが大事だ。世界中の顧客に多かれ少なかれ自社の製品が採用されているということで、これはとりもなおさず、顧客からのあらゆるニーズを汲み取れることを意味する。いち早く顧客の新製品情報が掴め、それに対応した自社の製品・技術の共同開発につながる可能性が高まるということだ。うまくいけばまた採用され、高シェアを維持できる良い連鎖が進む。

 例えば、日本高純度化学は、特に電解(無電解)金めっき液の世界では、一部の半導体製品やスマホ向けコネクター、メーンボード用途で圧倒的なシェアを擁している。独自に開発した新たな有機化合物がキーマテリアルで、様々な用途展開を図っていくとしている。代表取締役社長の清水茂樹氏によれば、極端な話、同技術・製品を展開する限り、海外に出て行く必要はないとしている。それほどオリジナル技術の塊なのだ。

 ICのボンディングワイヤーの純金めっきや、MPU用パッケージ基板ならびにメーン基板の無電解金めっきなどでは圧倒的なシェアを確保している。現在はスマホ用マイクロコネクター向けではほぼ100%のシェアを擁している。液晶パネル向けの金バンプ接続でも同様にシェア100%の圧勝である。

 注目されるのは同社のビジネスモデルだ。言ってみれば、めっき液業界の“ファブレス”だ。新規化合物などの研究開発には自社で注力するが、めっき液の実際の合成や製造といった工程は外部の契約工場に委託している。最終的な汎用薬品とのブレンドを自社で行い、出荷する。収益を圧迫する固定資産などを極力圧縮して、少数精鋭によるこの事業モデルを追求する。あくまでも国内製造にこだわり続け、高収益体質も堅持するという。

 今後とも新たな化合物開発に積極的にチャレンジする。同社の従業員は約50人だが、大半はエンジニアである。毎年2~3人の採用を心掛けている。清水社長によれば、同業界では新しいものや未知のものを突き止める熱意が大事になるとしており、日々、優秀な人材発掘に力を入れているという。

あえて自社製品のカニバル戦略を展開

 現在、圧倒的なシェアを擁していても、それをも自らの新製品で代替する企業もある。基板の穴あけ用ドリルを手がけるユニオンツールである。

 同社は自ら、基板用穴あけドリル事業のビジネス構造を大きく変えてきている。これらの消耗材は、業界の好不況に左右され、景気が悪化すると製品の値下げ競争に巻き込まれるといった悪循環の歴史でもあった。
 このため同社はリーマンショック後に大きく戦略を転換した。あえて現在売れている製品であっても、より耐久性があり性能の良いドリル製品に切り替える戦略を一気に展開したのだ。顧客へのサービス向上と同時に、自社のビジネスの付加価値も向上させるという「ウルトラC」作戦に打って出た。これが奏功して今の同社が存在するといっても過言ではない。

 他社が追随できないその商品が、炭素成分で皮膜するULFコーティング技術だ。これをベースに新接合ドリル、新形状刃ドリル、あるいはそれらの新技術を融合させた製品群のラインアップを今は強化している。

 競争力のあるこうしたユニークな新製品を何ゆえ、相次いで開発できるのか。その源泉として、実は炭素皮膜のコーティングを行うコーティング装置までを内製化するといったことまでやっている。この事実はあまり知られていない。

技術の突然変異がなにより怖い

 もう1社、プリント配線板の製造装置でダントツのシェアを擁している日系企業がある。スマホやタブレットに搭載されているエニーレイヤー基板(高密度ビルドアップ基板)のビア(穴)形成用の炭酸ガスレーザー加工機でトップシェアを誇る三菱電機。シェアは驚くなかれ7割弱にのぼるとみられる。同社は1990年代の前半ごろからレーザーを活用した基板用穴あけ加工機を手がけ、今では世界の基板工場で累計三千数百台が稼働している。一時、あまりの受注ラッシュで納期が間に合わず、国内外の大手基板メーカーが投資を遅らせざるを得ない状況に陥ったときもあった。ついこの間まで、テレビコマーシャルでも大きく宣伝していた。

 同社は、高い加工品質を実現するfθレンズをはじめ、高精度のガルバノスキャナー、最新機種向けの360Wの高出力を確保したレーザー発振器など、あらゆるキーパーツを自社内で開発でき、製造まで一貫して行える点が最大の強みでもある。
 しかし、ビアの穴あけ加工がさらに小径化して30μm径まで進化すると、現在の炭酸ガスでは対応できないとされ、さらに波長を絞り込んだUV-YAGレーザーが必須と言われている。
 すでにより微細な回路形成が要求されているFPC用途では徐々に採用が本格化しそうだ。

 一方、先端パッケージ基板やエニーレイヤー基板などにおいても、大きく設計手法が変化する可能性も出てきているという。例えば、今の高密度化技術であれば、線幅(ライン/スペース)をより細くすることで対応する手法が一般的だが、ここに来て、ビア径を小さくし、パッドの位置合わせ技術も高度化することで、現状の線幅の加工プロセスを維持しようという動きが出てきているという。こうなると、30μm以下のビア径に対応したUV-YAGレーザーに期待がより一層集まる。

 このように技術の進展やプロセスの見直しにより、あるとき部材や装置需要が転換点を迎えることはままある。同社もUV-YAGレーザーをすでに手がけているが、新たなゲームが開始されることで、既存プレーヤーがひっくり返る可能性がないとは限らない。炭酸ガスレーザーでシェアを奪われた企業にとって巻き返しのチャンスとなる。虎視眈々と新型レーザーで巻き返しを図ろうとしているところが出てきても、何ら不思議ではない。実際、ビアメカニクス(旧日立ビアメカニクス)は、UV-YAGレーザーの新型装置を今年のJPCA Showで大々的に展示するなど、反転攻勢を強める。
 三菱電機のシェアにすぐ影響が出るとは考えられないが、何が起こるか分からないのがビジネスの世界だ。

人材育成も課題に

 高シェアを持つこれらニッチトップ企業は中小企業が比較的多い。海外拠点が最初から充実していたり人材が豊富なわけではない。何より優秀な人材を早急に育てる必要がある。経済産業省は、2014年3月に発表した「グローバルニッチトップ企業 100選」の選出企業や同ニッチ市場を狙う企業に対して、支援策も準備中としている。国も心得ている。経営のアキレス腱は金と人にありとして、かなりてこ入れする考えのようだ。

 具体的には14年度予算で実行する。金融面では海外進出を図る企業に対して政府系金融機関からの融資を優先して受けられたり、人材面から積極的にサポートする。特に大手企業で長年、知財分野で活躍した人材を推薦するなどアドバイスを受けられるような体制作りを目指す。

 いくら良い技術や製品を持っていたとしても、使ってもらって何ぼの世界である。もともと海外展開したり、マーケット力の欠如する中小企業が多いニッチトップの分野では、政府も今回の支援策について積極的に情報公開を果たし、企業側もこうした制度を貪欲に利用する姿勢が大事だ。融資に加えて、こうした人材をサポートしてくれるとなると、まさしく鬼に金棒だ。
 互いの情報発信力をより一層強化して、これからユニークな技術で世界で勝負をする中小企業がどんどん育っていくことを願う。

半導体産業新聞 副編集長 野村和広

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