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研究費を「女遊び」で使い込む!植物学者・牧野富太郎の「ヤバすぎる倫理観」

炎上とスキャンダルの歴史


朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルにもなっている植物学者・牧野富太郎(まきの・とみたろう)。裕福だった彼は、実家を破産させるほど金づかいが荒く、贅沢な暮らしで借金を重ねていた。「三菱」の岩崎弥之助が支援の手を差し伸べると、牧野は安心し、今でいう「数億円規模」に負債を膨らませた。


■病気の長女を顧みず、「音楽活動」に興じる

 

牧野富太郎

 NHK朝の連続テレビ小説『らんまん』の主人公のモデルで、天才植物学者として知られる牧野富太郎。彼はすべての欲に忠実すぎる困った男で、その生涯にはいくつもの大炎上ポイントがあります。

 

 裕福だった造り酒屋の実家「岸屋」を破産させるほどに荒い金遣いは有名で、その財政破綻した実家の用事で高知に戻っておいて、なぜか当地でクラシック音楽の普及活動に目覚め、ここでも巨額の私財をなげうちました。

 

 その間に東京に置いてきた妻・寿衛(すえ)との幼い長女は病気になり、「父ちゃん、父ちゃん」と不在の牧野を呼びながら死んでしまう大事件が起きます。

 

 また、この頃、彼にとっては形だけの妻だった従姉妹の猶(なお)と離縁。こうして、二人の女の子を授かっておきながらも内縁関係だった寿衛と正式に結婚できたのですが、病気の長女を見捨て、よくわからない音楽活動に興じていた男と結婚を決意した寿衛もなかなかの女ですね。

 

 牧野との離婚後の猶も、彼に金を用立てて送るという生活を続けたそうで、彼女たちの主食は「男のワガママ」だったのでしょうか。

 

■岩崎家の支援に安心し、借金を「数億円規模」に膨らませる

 

 明治23年(1890年)、牧野は東京の江戸川で「ムジナモ」という新種の食虫植物を発見し、尋常小学校中退の学歴ながら、東大の助手として採用されています。しかし、「薄給の範囲で生活をして、研究もする」という理性は牧野の中には存在しません。

 

 牧野にとって植物とは「愛人」で、銀座の美女に会いに行くようなパリッとした洋装をして野山での調査をこなします。地方に行くときは一等車に乗って、一流の旅館に泊まるのですが、そんな貴族的な贅沢が薄給の助手に許されるわけもなく、彼の借金は現代の日本円に換算して数千万円にまで膨れ上がりました。

 

 この当時、「東大関係者」という肩書さえあれば、それほど金が借りられたのは驚きですが、巨額の借金を肩代わりしてくれるパトロンが牧野の人生には2度も現れるのです。

 

 最初の救世主は、三菱の岩崎弥之助(岩崎弥太郎の弟)でした。牧野と同郷、土佐に生まれた縁も手伝っての支援でしたが、借金が消えた安心感から、さらなる巨額を使い込むようになった牧野は、ついには現在の数億円規模にまで負債を膨らませてしまいます。

 

 そこに、二人目の救世主が現れました。神戸の大地主で、まだ25歳の池長孟(いけなが・はじめ/たけし)は、牧野が作製した膨大な標本を担保に、彼の借金の肩代わりをしてくれただけでなく、身の回りの世話をするメイドまで付けてくれました。

 

■恩人のメイドに手を出し、研究費を「性欲解消」のために溶かす

 

 しかし……牧野は「植物が愛人」といいながらも、寿衛に13人もの子を産ませた性豪でした。当時、50代になっていましたが、かなり夜はお盛んで、ついついメイドに手を出してしまったのです。福原地区の安女郎屋・長谷川楼に入り浸り、「数百円(=現代の数百万円)」を使い切ったことも池長にはバレました。彼から渡された研究費を、性欲解消のために溶かしてしまったのです。

 

 こうした「私“性”活」の問題から、牧野と池長の関係は悪化、出資額を大幅に減らされてしまいました。それでも牧野は自伝の中で、要訳すれば「いろいろなことがあったが、池長氏とは関係がまだ続いている」と、おそろしいほどポジティブな解釈をしているのです。

 

「性(せい)の力の尽きたる人は、呼吸(いき)をしている死んだ人」という歌を晩年に詠んだ牧野ですが、現在ならば、その性の問題で「社会的な息の根」を止められていたかもしれません。

 

 

画像…植物研究雑誌 = The journal of Japanese botany 3(1) 植物研究雑誌編集委員会 編 ツムラ 1923-08 出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」 (https://www.ndl.go.jp/portrait/)

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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