日本の「西海岸」福岡でイノベーションが生まれる理由

福岡を拠点に、企業投資と助言を行うプロフェッショナル集団として、長く九州の中小企業・ベンチャーを支えてきたドーガン。同社代表取締役社長の森大介氏に、福岡から次々と新規事業・イノベーションが生まれる理由について聞いた。

森 大介(ドーガン 代表取締役社長、事業構想大学院大学 客員教授)

企業はヒト、というのが50歳になる今さらながらの私の結論です。特にグローバル化、IT化が進む世界で、企業が勝ち残っていくには、イノベーションを起こせる人がどれだけ集い、競い、協力するかに拠るところが大きく、問題はどこに人材を集められるかです。

同じ仕事に取り組むのであれば、ほとんどの人は環境がよいほうを選ぶでしょう。住まいが職場に近く、小さい頃からの友達や家族や顔見知りの地域の人々が身近にいて、安価に手に入れることができる新鮮な食材があり、リフレッシュできる自然といつでも容易に戯れることができる、そんな環境が理想的です。

もし、東京と同じ給与水準で、故郷に仕事があって生活できれば、優秀でイノベーション気質のある人は、地方に定着するはずです。ただ、残念なことに日本は世界屈指の経済規模を誇る国でありながら、東京への人材の一極集中の流れは明治維新以降、まったく止まっていません。まるで、アメリカにはニューヨークしかなく、ドイツにはベルリンしかないかのごとく、地方の若い人たちは、今なお東京を目指しています。若い人たちにとって、地方は、うんざりするほど退屈で刺激がない、ビジネスの成功が感じられない存在だと映るからでしょう。

起業家にとって心強い
大らかな気質をもつ福岡

そのような中、私は九州に戻ってまもなく20年になりますが、福岡ほどポテンシャルのある都市はないと感じます。まず、第一に「一割経済」と言われる全国屈指の経済規模がある九州において、若者たちが集中する都市機能が挙げられます。福岡には個性の異なる九州各県から若者たちが集まって来ており、リトル東京化しているのです。

第二に日本を代表する都市でありながら、地方ならではのコミュニティが存在しているというユニークさです。福岡にはトヨタ自動車のような巨大企業がないかわりに、中堅クラスの老舗の会社がたくさんあり、繋がりがあります。狭い世界、コミュニティの中で、老舗の会社の跡取りも、地元の大企業の役員も、新進気鋭の若手起業家も繋がっていて、居心地の良さがある一方で、信頼を裏切れない、人間性に欠けるようなことはできない仕組みになっています。人種のるつぼ的な都会的センスと、リアルな繋がりで人間関係を大切にするローカルなセンスを合わせもっているところが、福岡の特徴です。

さらに、起業家にとっては、福岡の県民性がなんとも理想的で心強いです。地元経済界の先達たちの「のぼせ」(祭り好き)の気質、細かいことを「しゃーしい」「そげなつはつまらん」と切り捨てる清々しい気持ち良さには、「誠実に生きていれば、一度や二度のビジネスの失敗をも許してくれる」大らかさを感じさせます。実際、福岡にはユニークな起業家が数多く生まれています。当社が投資している先を二社紹介します。

インプルーブ社は、全国約8000社の自動車整備工場を会員組織化し、多彩なサービスを提供している

一社目は、ユニークなプラットフォーム戦略をとるスタートアップ「インプルーブ」です。同社のサービス「55ガレージ」は、北海道から沖縄まで、全国約8000社の自動車整備工場を会員組織化し、インターネット上でカーナビ・タイヤ・ドライブレコーダーなどのパーツを購入したユーザーに対し、最寄りの整備工場での取り付け作業を請け負うことや、空いているピットを時間単位で貸し出すサービスを展開しています。

これにより、「ネットオークション等で格安のパーツが購入できたものの、取り付けができない、作業する場所がない」というネットユーザーの課題解決を手掛けています。さらに、全国の提携工場網を起点として、CtoCで自動車そのものを購入するユーザーに対し、購入前の実車確認や、購入後の陸送代行や車検・納車点検などのサービスを提供するなど、多彩なサービスを展開しています。

グルーヴノーツ社は、データを用意してブロックをつなげば、誰でも簡単に機械学習を使うことができる「マゼランブロックス」を提供している

次に、最先端のテクノロジーを、エンジニアだけでなく、一般のビジネスマンも意識せずに使えるシステム「MAGELLAN BLOCKS」を開発しているグルーヴノーツです。システムの新規性に加え、大規模な設備投資や長時間のスキルトレーニング、多大な外注費を必要とせず、例えば、機械学習の機能も月10万円というリーズナブルな価格から利用できるサービスとなっています。

代表取締役社長の最首氏によると、優秀なエンジニアを採用し、定着してもらうための組織やチームといった環境が十分に整えられることが福岡を本社とする理由であるとのことです。また、近頃は九州地場の顧客も増え、単に地方から東京の顧客を得るというだけの事業ではないと感じるようになったとも聞いています。実際、同社のサービスの提供先は、IT、小売、サービス、製造、九州の地場老舗企業と非常に幅広いです。

福岡は九州のハブに

私が、2004年に銀行を辞めて独立する際にも、東京の友人たちは無謀だ、やめておけと言いましたが、福岡の先輩経済人たちは、「森ちゃん、応援するよ、頑張れ」と励ましてくれました。これこそが、福岡をして、国内屈指の創業拠点として注目される由縁だと思います。

ただ、現状に満足するようであれば、福岡の将来は限定的でしょう。現在、とんでもない数の外国人観光客が福岡を訪れていますが、ビジネス目的で滞在している外国人の数はまだまだ少ないのが実情です。

福岡が、東京に代替する機能、もしくは東京を補完する機能を有し、若き優秀な人材を惹きつける刺激的な都市に成長していくためには、グローバルな人材がもっともっと活躍できる雇用の受け皿が必要です。

また、熊本出身の私だから言えることですが、九州内において福岡独り占めの経済であってはなりません。各県それぞれに有する特色を活かすべく、日本経済の西海岸と言われるよう、道州制に繋がる地域経済の発展に向けてまさに福岡の太っ腹な包容力が試されている局面だと思います。

 

森大介(もり・だいすけ)
ドーガン代表取締役社長、事業構想大学院大学客員教授

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