郷土教育のイノベーション「上毛かるた」

群馬県民の誰もが知り、諳んじられる「上毛かるた」。教育に遊びの要素を取り込むという革新性により、70年もの間、県民の郷土愛を育んできた。

群馬の名所、歴史文化、産業経済、人物などを紹介する「上毛かるた」

群馬県民ならば誰もが知っているが、県外人にはほとんど存在を知られていない「上毛かるた」。群馬の名所、歴史文化、産業経済、人物などを44種類の絵札と読札にまとめ、紹介したもので、70年近くにわたり県民に親しまれてきた。「桐生は日本の機どころ」「縁起だるまの少林山」「ループで名高い清水トンネル」「世のちり洗う四万温泉」といった読札を、県民の多くは諳んじることができるはずだ。

上毛かるたは1947年、群馬県吾妻郡生まれの浦野匡彦(後に二松学舎大学学長、群馬文化協会初代理事長)の発案で誕生した。浦野は、終戦で中国から日本に戻り、国土と人々の心の荒廃に衝撃を受けた。また当時の日本ではGHQにより「修身、日本歴史及び地理の停止」がなされ、郷土の歴史や文化が断絶してしまうことに危機感を覚えたという。

「暗く、すさんだ世の中で育つ子どもたちに何か与えたい。明るく楽しく、そして希望のもてるものはないか」と考案されたものが上毛かるただった。読札は公募で集められ、学者や郷土史家など18人による編纂委員会でとりまとめた。絵札は洋画家・小見辰男が担当した。

郷土学習は大抵の子どもにとって退屈なものだが、上毛かるたは遊びや競争の要素を取り入れることで、その壁を取り払った。「老農船津伝次平」「しのぶ毛の国二子塚」といった読札は子どもには理解しづらくても、言葉を覚えることが興味や知識の礎になるのは間違いない。

今でも小学校教育などに活用され、かるた大会も各地で活発に開催されている。最大のものは毎年2月に開催される「上毛かるた競技県大会」であり、約300人の出場枠を目指して、年間約9万人の地元小中学生が予選に参加するという。

2013年からは「なぜ全国大会がないのか」と、県民有志が中心となって、“おとな達の上毛かるた日本一決定戦”と銘打った「King of JMK」がスタート。この取り組みはメディアにも取り上げられ、群馬のプロモーションに一役買っている。2012年には熊本県の宇土市教育委員会が「宇土歴史かるた」を発行するなど、ご当地かるたの輪は少しずつ広がっている。

地方創生の実現においては若者の郷土愛を育むことが重要なのは言うまでもないが、長年群馬県民に愛される上毛かるたは、その手段として参考になるかもしれない。(参考:群馬県ホームページ、「上毛かるたのこころ・浦野匡彦の半生」西片恭子著)

「上毛かるた競技県大会」には予選を含め9万人が参加する(群馬県子ども会育成連合会ホームページより)

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