USB機器接続で利便性向上

東日本大震災では、被災した自治体でシンクライアントのシステムが効果を発揮した。重要なファイルやソフトを遠隔地で管理し、端末が被災してもシステムを速やかに復旧できるシンクライアントの導入が、自治体の災害対策で注目されている。

(右)日本ヒューレット・パッカード株式会社 本社 プリンティング・パーソナルシステムズ事業統括 クライアントソリューション本部 RCS市場開発部 部長 深沢 卓 氏、(中)同 プログラムマネージャ 大津山 隆 氏、(左)キーウェアソリューションズ株式会社 サービス企画販売本部 仮想化ソリューション 担当部長 山田 敏明 氏

シンクライアント(Thin client)とは、ユーザーが使う端末に最小限の機能しか持たせず、ソフトやファイルはサーバーで管理し、ユーザーはネットワークを通じてそれらを使うシステム。一般的なFAT PCとは異なり、ハードディスクに当たる部分が端末ではなく、遠隔地のデータセンターにあるため、端末が盗難や災害に遭ってもデータを失わずに済む。災害時にも代わりの端末を用意すれば、ただちにシステム復旧が可能になることから、災害対策を目的にシンクライアントを導入する自治体が増えている。

東日本大震災では、シンクライアント化していた自治体や企業で早期のシステム復旧が可能になった。FATPCの場合、端末が被災すればデータも失われるため、例えば津波によって戸籍台帳のような重要なデータが失われるといった事態も起こり得る。

医薬品卸のバイタルネットでは震災による津波で店舗が流されてしまったが、震災前にシンクライアント化していたため、システムが早期に復旧した。元は災害対策ではなく顧客情報のセキュリティ管理を目的にシンクライアントを導入したというが、震災時にその効果が発揮された。

バイタルネットのような例を教訓に、東日本大震災以降、自治体の災害対策としてのシンクライアント化が注目されている。津波被害を想定し、海岸沿いにある多くの自治体で導入が検討されているほか、総務省も自治体の庁舎内にデータを持つのではなく、クラウド化するよう求めている。

日本ヒューレット・パッカード(日本HP)プリンティング・パーソナルシステムズ事業統括クライアントソリューション本部 RCS市場開発部の深沢卓部長によれば、「国内にある約1700の自治体のうち、既に約400の自治体でシンクライアント化が完了している。マイクロソフトのWindowsXPのサポートが切れることからパソコンの入れ替えを予定している自治体も多く、今年9月ごろまでに、さらにシンクライアント化が進むと見ています」という。

自治体窓口に多いUSB機器
HTVUCS導入で利用可能に

東日本大震災を機に、注目を集めているシンクライアントだが、その導入ではこれまでスキャナーやプリンターのようなUSB機器が接続できなくなるという問題が発生していた。

自治体の市民課などの窓口業務では、住民の身分証明書や印鑑などを管理するため、スキャナーをはじめとするUSB機器が多数使用されている。このため、従来はこれらの部署でのシンクライアント化は難しく、自治体での導入は見送られることが多かった。また、既にシンクライアントを導入した自治体でも、これらの部署では従来のFAT PCを使い続け、二重のセキュリティー管理が必要となっていた。

これら問題に対して、キーウェアソリューションズが開発したHTVUCS(ハイブリットシンクライアント仮想USBコントロールシステム)は、非常に有効なソリューションである。HTVUCSは、日本HPによるシンクライアント環境でのUSB利用を可能にし、従来は導入を見送っていた自治体でもシンクライアントの導入を可能とした。また、シンクライアント環境に一部FAT PCを残す運用をしていた自治体においても、USB利用のためのFAT PCを必要としない全てシンクライアント環境での運用を可能とした。

キーウェアソリューションズのサービス企画販売本部 山田敏明 仮想化ソリューション担当部長によれば、「HTVUCSについてはシンクライアント化を諦めていた自治体から問い合わせが相次いでいるほか、既にシンクライアントを導入した自治体からも『USB機器を使った従来の業務を再び行えるよう導入したい』という声が寄せられている」という。

日本HPのプリンティング・パーソナルシステムズ事業統括 クライアントソリューション本部 製品部の大津山隆プログラムマネージャは「シンクライアント化では、それまで使われていたシステムと同様の使い勝手をいかに実現するかが重要になる。これを理想的な形で実現するのがHTVUCSです」と、このシステムを評価している。

メリット多いシンクライアント
部分的な導入もサポート

シンクライアント化には災害対策以外にも、様々なメリットがある。端末を使用する個人でバックアップを取る必要がなくなるほか、ウィルス対策としてのスキャニングなどは夜間にサーバー側で行うため、その都度、端末のパフォーマンスが低下することもない。また端末のオペレーションミスによって重要なデータが消えてしまった場合にも、サーバー側で自動バックアップを取っているためリカバリが可能である。

日本HPの深沢部長によれば、「新しいシステムに慣れるために最初は時間を要しても、通常のPCにはない様々な付加価値を徐々に実感できることから、使用開始から1年を超えると、非常に多くのお客様が『シンクライアントに変えて良かった』と言っています」という。

自治体のシンクライアント化をサポートしているキーウェアソリューションズの山田仮想化ソリューション担当部長によれば、「システム全体のシンクライアント化は初期費用がかかって難しいという場合にも、部分的なシンクライアント化でコストを抑えることができる」という。災害対策のほか、様々なメリットがあるシンクライアントだが、USB機器の接続が可能になったことで、さらなる利便性の向上が期待できそうだ。

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キーウェアソリューションズ株式会社
HP:https://www.keyware.co.jp

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