世界シェア2位の実力、千葉県産ヨード

日本はヨード(ヨウ素)生産量で世界シェア2位。その大半は千葉県産だ。日本の数少ない天然資源であり、様々な産業で利用が広がるヨードの可能性を、関東天然瓦斯開発の吉井正德社長(日本ヨード工業会会長)に聞いた。

─なぜ千葉県はヨード生産量が多いのでしょうか。

2014J01_114_1.jpg

よしい・まさのり/1949年生まれ。72年早稲田大学理工学部卒業、関東天然瓦斯開発入社。営業部長、常務取締役茂原鉱業所長などを経て、09年に代表取締役社長に就任。日本ヨード工業会会長

千葉県を中心とする南関東一帯の地下には「南関東ガス田」という巨大な天然ガス田が存在します。可採埋蔵量は3500億立方メートル以上と言われ、現在の生産量で換算すると800年分に相当します。この天然ガスは水溶性で、かん水(塩水)に溶解し地中に埋蔵されており、千葉県の茂原市を中心とした地域で採取されています。

このかん水に含まれる元素がヨードです。ヨードは海水などにも含まれますが、微量のため抽出は経済的に不可能です。一方、かん水には海水の約2000倍のヨードが含まれ、濃縮・精製が可能です。日本最大の水溶性ガス田を持つ千葉県は、ヨード生産量も日本一です。

当社はわが国初の天然ガス事業会社として1931年に発足しました。以来、茂原市を中心とした九十九里地域にガス井を開発し、家庭用から産業分野まで幅広い用途の天然ガスを供給しています。ヨードの生産量でも世界有数の規模を誇ります。

急成長するヨード市場 液晶材料や医療分野でも活躍

─現在の需要動向は。

2014J01_114_2.jpg

ヨード(ヨウ素)

2012年の全世界での生産量は3万2000トンと推測されます。ほとんどをチリと日本が占め、日本は約30%にあたる9500トンを生産しています。そのうち千葉県は国内生産量の75%を占めています。

1990年以前の世界の生産量は1万1000-2000トンでした。この約20年間で3倍近く需要が増えたことになります。

─どのような用途で需要が拡大していますか。

ヨードは工業、食品、医薬、農業などあらゆる産業で活用される資源です。新興国の経済成長で世界的に需要が伸びたことが大きな理由ですが、同時に、ヨードの用途開発が急速に進み、新市場が成長しています。

代表例がレントゲン撮影に利用される造影剤です。ヨードのX線吸収機能に着目し、従来品よりも格段に造影能力が高い「第三世代」と呼ばれる造影剤が1980年代中頃に開発されました。現在はヨード需要の22%を造影剤が占めるほどです。

次に工業用触媒や液晶関連の需要です。レインコートやテーブルクロス等の撥水剤を製造する過程でヨードが使われます。また、液晶テレビやスマートフォンの偏光フィルムにもヨードが使用され、その優れた偏光作用を利用して鮮明な画像が得られることで、皆様の豊かな生活に役立っています。

ヨードと言えば身近なうがい薬や消毒薬を思い浮かべますが、このように医療産業や先端産業でも活躍しています。ヨードは非常に幅広い化合物としての特性を持っており、今後の研究でさらなる用途拡大が期待できます。近年は次世代の色素増感型太陽電池の電解液に利用が始まっており、当社でも研究を行っています。ほかにもレーザー光線や合成化学触媒などに利用されています。

ヨード欠乏症予防に貢献 成長のカギはリサイクル

─人体にとってもヨードは重要な存在ですね。

ヨードを繊維に結合した抗菌マスク

ヨードは我々の生存と成長に不可欠な元素で、摂取量が少ないとヨウ素欠乏症になり、甲状腺肥大や脳障害、発育不全などの原因となります。日本は海藻や魚を食べる文化があるため、意識的にヨードを摂取する必要は全くありません。

しかし世界に目を向けると、ヨード欠乏症予備軍は16億人と言われます。欧米では食塩にヨードの添加を義務付け、欠乏症を予防しています。最近は中国やインドでも同様にヨード添加が法制化されました。しかし世界にはまだまだヨード欠乏症のリスクがあります。

そこでヨードメーカー8社で構成する日本ヨード工業会では、社会貢献とヨード産出国の責務として、新興国へのヨード支援を行ってきました。千葉県を通じて、これまでモンゴル、カンボジアに供与しています。2013年度内にはスリランカにも供与予定で、現在相手政府と話し合いを進めています。

─ヨード産業の可能性と課題をどう見ていますか。

九十九里地域には多数のガス井が開発されている

世界市場は年率3%で成長を続けると見ています。ただし日本の場合、地下からかん水をくみ上げてヨードを精製しています。地盤沈下等の環境への影響を考慮し、生産量はそれほど増やすことができません。

そこで重要になるのがリサイクルです。撥水剤や触媒として使われるヨードの回収と再利用を、さらに増やす必要があります。ヨード回収技術の向上に各メーカーで取り組んでいます。

ヨードのさらなる可能性を引き出すため、用途開発と新規事業育成にもメーカーとして取り組む必要があります。例えば当社は江崎グリコとオーミケンシと共同で、ヨードを結合した使い捨て抗菌マスクを開発しました。今後は病院の手術着やベットシーツにこの技術を応用していきたいと考えています。

先ほど申し上げたとおり、千葉県では地下のかん水から天然ガスとヨードを採取します。近年、このかん水から、さらに「フルボ酸」という有機物を抽出する技術を完成しました。これは植物の成長を助ける働きを持つ物質で、液体肥料の原料として販売が始まっています。このように、限りある地域資源を有効活用していくことも大切です。

─最後に地元・千葉県への想いを聞かせて下さい。

千葉県は当社の創業の地であり、現在までの事業基盤であります。今後も天然ガスを地元へ安価に供給し、「地産地消」ならぬ「千産千消」のエネルギーとして発展していきたいと思います。今年4月には、大多喜町に天然ガス記念館を建設し、町に寄贈しました。天然ガスやヨードを通じた町おこしに、当社としても積極的に貢献していきます。

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。