色覚異常:どんな異常?遺伝との関係は?矯正や治療はできるの?
更新日:2020/11/11
- 色覚専門医の中村 かおると申します。
- 最近、また、学校で色覚検査が積極的に行われるようになりました。なにげなく受けた色覚検査で異常を疑われるお子さんも増えています。とつぜんのことで、どんな不都合がおこるのか、ご本人もご家族も心配になりますよね。色がどんな風に見えているのか、他の人とどう違うのか、将来はどうなっていくのか、戸惑う方もいらっしゃるでしょう。
- そこでこのページでは、色覚異常の一般的な原因やしくみ、色の見え方の特徴、ご自身での適切な対策、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私の日々の診察の中で、「特に気をつけてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 先天色覚異常は自分では気づきにくく、知らないうちに色を間違っていることが多いのが特徴です。
- 日常生活ではあまりさしつかえることはありません。
- 学校や職場で、思いがけない不都合がおきてしまうことがあるので注意して下さい。
- 自分の色の見え方の特徴を知ることで対策をたてやすくなります。
色覚異常ってどんな状態?
- 色覚異常には、うまれつきの先天色覚異常と、他の病気によっておこる後天色覚異常とがあります。
- 目の奥にある網膜には、色を感じ取る神経細胞が3種類あります。この3種類はそれぞれ赤系、緑系、青系の光を吸収し、その情報が脳に送られるうちに処理されて色を感じるのです。
- 先天色覚異常には、この3種類のうちすべてか2種類が働かない1色覚、3種類のうち1種類が働かない2色覚、1種類の働きが通常と異なっている異常3色覚があります。また、赤系の異常を1型色覚、緑系の異常を2型色覚と分類し、あわせて先天赤緑色覚異常とも呼んでいます。
- 先天赤緑色覚異常は日本人では男性の約5%、女性の約0.2%で、小学校では1~2クラスに1人以上の計算になります。
- このページでは、このように頻度の多い先天赤緑色覚異常について記載させていただきます。
色盲とはどう違うの?
- 世間では、2色覚を色盲、異常3色覚を色弱と呼ぶことが多いようですが、先天赤緑色覚異常全体を色盲と呼んだり色弱と呼んだりすることもあります。
図表1 先天赤緑色覚異常の分類
1型色覚 | 2型色覚 | |
2色覚(色盲) | 1型2色覚 | 2型2色覚 |
異常3色覚(色弱) | 1型3色覚 | 2型3色覚 |
遺伝するの?
- X染色体で遺伝します。X染色体は性染色体で、男性はXYで1本、女性はXXで2本持っています。男性は異常染色体を受け継ぐとそのまま色覚異常になります。女性の色覚異常は2本ともに受け継いだ場合なので少ないのです。女性で1本のみ受け継いだ場合は保因者といい、正常の染色体もあるので正常色覚となりますが、その息子は1/2の確率で色覚異常となります。(図表2)
図表2 先天赤緑色覚異常の遺伝
先天赤緑色覚異常の遺伝を表した家系図の1例です。
色の見え方は?見えない色は?
- 2色覚(色盲)であっても、色が見えないわけではなく、日常生活にもほとんど困りません。
- しかし、通常とは、色の見え方のしくみが異なっているため、色の組み合わせによっては見分けにくかったり、「何色ですか」と聞かれるとわからなかったりすることがあります。
- まったく困らない色の組み合わせもあります。また、同じ色でも、細い線や小さなもの、薄い色や鈍い色、暗い色、暗い場所、また、不注意なときや先入観にとらわれているときなどで間違いやすいのですが、「こんな色は気をつけよう」と思って、注意して見ると、間違いはぐっと減ります。
- 2色覚では間違うことも多いのですが、異常3色覚ではほとんど問題になることはありません。
- そして、生まれつきの感覚の異常なので、色を間違っていても気づきにくいのが特徴です。成長して仕事について、はじめて色覚異常を発見されることもあります。(図表3)
図表3 先天赤緑色覚異常の方が見分けにくい色の組み合わせ
たとえばどんな色間違いをするの?
- いつも間違うわけではありませんが、時と場合により、こんな経験をしていることがあります。
- 緑の葉の中の赤い花が、遠くからは見つけにくい。
- 信号の赤と黄色や、LED(発光ダイオード)の赤・オレンジ・黄緑の光を見分けにくい。
- 肉の焼け具合がわかりにくい。
- お絵かきのときに、木の幹と葉を同じ色で塗っていた。
- 黒板のチョークの色がわかりにくい。
- 学校や仕事で資料を作っていたら、他の人に、その色は違うと言われた。
- 色の話が、他の人とかみ合わないことがある。
色覚検査について。どんな検査がありますか?
- 色覚異常があるかどうかを知るスクリーニングには色覚検査表、通常は石原色覚検査表が用いられています。学校や健康診断で行われるのもこの検査です。
- 眼科では、色覚検査表に加えて、異常の強さを見分けるパネルD-15を、色覚専門外来などでは、確定診断にアノマロスコープを用いています。
- パネルD-15は、用意された15色から、基準の色と似た色を順番に並べていく検査です。
- アノマロスコープは、器械を覗きながら、赤い光と緑の光を混ぜて作りだした混色の光と、黄色で明るさを変化させた光を比較し、両方が同じ色に見えるようにそれぞれの色を調整する検査です。
- インターネット上にも色覚検査やその他、チェックのためのいろいろなツールが出ています。しかし、色覚検査は色の設定が難しいので、画面での検査で異常が疑われてもそれが正しいとは限りません。必ず眼科を受診してください。
こんなときには眼科を受診しましょう
- 誰かに色を間違っていると言われたとき、健康診断などで色覚検査を受けて異常を疑われたときには、まず、眼科を受診してください。色覚異常なのかどうか、そうであれば色覚異常の程度を知ることがとても大切だからです。
- 学校や職場などで色の見分け方に困ったときも、眼科を受診して、色覚異常があるかどうか、またその対処法について相談してください。
治療はできるの?メガネがあると聞きました。
- 残念ながら、治療法はありません。
- しかし、自分の色の見え方について理解することで、失敗を避けることができます。
- 色覚を補正するメガネが売られていますが、色覚自体を治すものではなく、あまり実用的ではありません。
色覚異常に対して、自分でできることは?
- 日常生活で困ることはほとんどないので、あわてることはありません。ふだん通りに生活してください。
- 強度色覚異常の場合は、自分が色を間違っていることを自覚することが大切です。気づくことができれば、対策をたてることもできるからです。 どんな色を間違えやすいかを理解しておき、そんな色を見たときには、ちょっと注意して見るようにしてください。心配なときには周囲の人に確認してみるといいです。
- 弱度色覚異常の人は、ほとんど間違うことも困ることもありません。微妙な色の見分けが必要な仕事のときなどには、間違ってしまうことがありますので、「たぶん大丈夫だけど、間違う可能性もあるかも」くらいには思っていた方がいいかもしれません。
- 細かい色の見分けが必要な職業や学校など、進路を選ぶときには、どの程度見分けられたらいいのか、あらかじめ確認しておきましょう。
- 色覚異常の子を持つお母さんは、きっとものすごく心配されていることでしょう。しかし、ふだんの生活や学校には、さほどさしつかえることはありませんから、落ち着いてください。ひとつの特性と思い、おだやかにお子さんを見守ってあげてください。少しくらい間違っていても気にすることはありません。そのうえで、強度色覚異常の場合は、学校には配慮をお願いしましょう。また、将来の仕事などに備え、色では見分けない習慣を身につけさせていくことも大切です。
仕事を選ぶときに気をつけることは?
- 先天赤緑色覚異常でできない仕事はほとんどありません。自分が一番進みたい道を選んでよいと思います。
- しかし、色の間違いによって重大な事故や経済的な損失を起こす可能性のある職業では、色覚異常の人を採用しない場合があります。そのような職業には電車や飛行機、船などの職業運転士、警察官や自衛官、海上保安官などのほか、一般企業でもいくつかあります。弱度であれば受け入れていることも多いので、募集要項を確認してください。
- その他の職業の場合も、色を間違うことがときどきあり、まれには思いがけない失敗を引き起こすこともあるかもしれません。苦手な色を見るときには気をつけるようにしてください。
追加の情報を手に入れるには?
- より詳しい情報を知りたいときは、以下のウェブサイトを参照してください。
- 日本眼科学会 目の病気 先天色覚異常
- http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_senten.jsp
- 日本学校保健会ポータルサイト・テーマ別関連ページ・眼
- http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_senten.jsp
- 日本眼科医会 眼についての健康情報 色覚異常といわれたら
- https://www.gankaikai.or.jp/health/50/
もっと知りたい色覚異常のこと!!
色覚異常の種類と対応の実際
- 1色覚は弱視(眼鏡などで矯正しても視力が上がらないこと)のことも多く、病気として対応します。
- 2色覚と異常3色覚は、アノマロスコープでしか診断できませんが、一般の眼科にはほとんどありません。パネルD-15で特徴的なフェイルをするのは2色覚と異常3色覚の一部で、これを強度色覚異常といい、生活や職業上、間違うことがときどきあり、それなりの対策を必要とします。異常3色覚の多くは、パネルD-15をパスし、弱度色覚異常などといい、微妙な色の見分けが必要な仕事でもほとんど支障はありません。よって、その仕事が向いていないかかどうかの判定にはこのパネルD-15がよく使われます。
- 学校でも、主に強度色覚異常に対して、個別には配慮を、校内設備や授業では色のバリアフリーに努めてください。