アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

TVアニメ『無職転生〜異世界行ったら本気だす〜』(2021年 冬)「#1 無職転生」の演出について[考察・感想]

 *この記事にネタバレはありませんが,『無職転生』「#1 無職転生」の内容に触れています。気になる方は本編をご覧になってからこの記事をお読み下さい。

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『無職転生〜異世界行ったら本気だす〜』公式HPより引用 ©︎理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生」製作委員会

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TVアニメ『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』PV第3弾/2021年1月10日放送開始・毎週日曜24:00TOKYO MXほか

原作は,理不尽な孫の手による同名小説(Web版:2012-2015年)。いわゆる“なろう系異世界転生モノ”の先駆と言われており,「トラックに轢かれて死んだ主人公が異世界に転生して無双する」という設定は,確かにこのテンプレートにきっちり嵌る類型種のような作品だ。

しかし,先日放映された「#1 無職転生」の洗練されたアニメーション技術は,ほとんど規格外と言っても過言ではない水準だった。制作会社スタジオバイン設立の経緯の特殊性もあり,TVアニメ制作のシステムを考えるきっかけとなる作品かもしれない。

作品データ(リンクはWikipediaもしくは@wiki)

【スタッフ】
原作:理不尽な孫の手/キャラクター原案:シロタカ/原作企画:フロンティアワークス/監督・シリーズ構成:岡本学/助監督:平野宏樹/キャラクターデザイン:杉山和隆/サブキャラクターデザイン:齊藤佳子/美術監督:三宅昌和/色彩設計:土居真紀子/撮影監督:頓所信二/編集:三嶋章紀/音響監督:明田川仁/音響効果:上野励/音楽:藤澤慶昌/テーマソングプロデュース・歌唱:大原ゆい子/プロデュース:EGG FIRM/制作:スタジオバインド

【キャスト】
ルーデウス・グレイラット:内山夕実/前世の男:杉田智和/ロキシー・ミグルディア:小原好美/エリス・ボレアス・グレイラット:加隈亜衣/シルフィエット:茅野愛衣/パウロ・グレイラット:森川智之/ゼニス・グレイラット:金元寿子/リーリャ:Lynn/ルイジェルド・スペルディア:浪川大輔

【「#1 無職転生」スタッフ】
脚本:岡本学/絵コンテ:岡本学/演出:平野宏樹/総作画監督:杉山和隆/総作画監督補佐:髙橋瑞紀/作画監督:杉山和隆齊藤佳子世良コータみやち山崎絵美/アクション監修:藤井慎吾

モメンタム

この作品はモーションによる芝居が実に上手い。まず冒頭の見どころとして,主人公のルーデウスの母・ゼニスがヒーリングの魔法を行使するシーンを挙げておこう。注目は,詠唱後,魔法を発動する直前に「ヒーリング」と口にするカットである。

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『異世界転生〜異世界行ったら本気だす〜』「#1 無職転生」より引用 ©︎理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生」製作委員会

わずか1秒ほどのカットだが,口だけでなく,髪や顔の角度まで細かく動かしている。京都アニメーションなどを彷彿とさせる,実に丁寧な芝居だ。ちなみに,主線の途切れ感などは撮影段階で処理を施していると思われるが,この辺りの繊細な描画もこの作品にリッチなテイストを付与している。静止画だけで伝えるのには限界があるので,ぜひ本編をご覧になって確認して頂きたい。

そして「#1 無職転生」の最大の見どころは,ルーデウスが「ウォーターボール」の魔法を会得するまでのプロセスが細かく描写されている点だ。

この世界に魔法が存在することを知ったルーデウスは,独学でウォーターボールを習得しようとするが,最初は生成した水球が遠くに飛ばず,真下に落ちてしまう。やがて魔法の詠唱に「生成・サイズ設定・射出速度設定・発動のプロセス」が含まれており,自分が「射出速度設定」を行っていなかったことに気づくと,彼の魔法はみるみるうちに上達していく。

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『異世界転生〜異世界行ったら本気だす〜』「#1 無職転生」より引用 ©︎理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生」製作委員会

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『異世界転生〜異世界行ったら本気だす〜』「#1 無職転生」より引用 ©︎理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生」製作委員会

魔法で生成した物質が「射出速度」という設定を与えられることにより,リアルな運動量を得るまでのプロセスが丁寧に描かれている。これにより,モーションの背後にある“エネルギー“が確かに感じられるアニメーションになっていると言えるだろう。

その意味で,ロキシーがウォーターボールをデモンストレーションするシーンも面白い。

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『異世界転生〜異世界行ったら本気だす〜』「#1 無職転生」より引用 ©︎理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生」製作委員会

ウォーターボールによる反動が,彼女が纏うケープの細かい動きで表現されている。さらに射出後を背後から写したカットでは,彼女の長い三つ編みが反動で揺れ動く様子がリアル描かれる。発動される魔法だけでなく,それ以外のオブジェクトのモーションを丁寧に描くことで,魔法のエネルギーが豊かに感じられる演出になっている。

モーション以外にも見どころはたくさんある。何より杉山和隆のキャラクターデザインが目を引く。単に美麗だというだけでなく,“立体感”の捉え方が的確で,キャラクターの周囲をカメラが周るカットなどでもデザインに破綻が生じない。この辺りは原画や動画スタッフたちの技術の高さも大きく貢献しているだろう。

また,色彩設計も的確だ。全体的に落ち着きのある彩度に仕上がっており,杉田智和のボイスオーバー(これがまた面白いのだが)や変顔の芝居がなければ,“真面目な”ファンタジー劇場アニメかと思ってしまうほど硬派な画作りなのだ。

TVシリーズでこれほどまで高水準のアニメーションを繰り出してくるスタジオバインドは,一体どのような会社なのだろうか。

スタジオバインドについて

『無職転生』を制作するスタジオバインドは,『斉木楠雄のΨ難』(2016年夏)の制作や『ソードアート・オンライン アリシゼーション』(2018年秋-2019年冬)のプロデュースを手がけた企画会社EGG FIRMと,『STEINS;GATE』(2011年春・夏)や『Re:ゼロから始める異世界生活』(2016年春・夏)などの制作を手がけた制作会社WHITE FOXが,2018年に共同出資で設立した会社だ。プレスリリースからわかるように,『無職転生』制作のために立ちあげた会社である。

本作のアニメ化にあたっては,プロジェクトを継続的,長期的,計画的に進めていく体制が必要と判断しました。従来のWHITE FOXと別のスタジオを立ち上げることで,『無職転生〜異世界行ったら本気だす〜』により集中する環境で制作を進めます。*1

『無職転生』は原作のストックも豊富にあるので,『ソードアート・オンライン』シリーズ(アニメ:2012年-)や『Re:ゼロから始める異世界生活』シリーズ(アニメ:2016年-)のように長期展開を見据えた作品にしていくのだろう。だとすれば,スタジオバインドは当面,『無職転生』という作品に特化した制作体制をとっていく可能性がある。こうした制作体制が作品の高品質維持にどれほど有効か,そして,仮に作品のビジネスマネジメントが大成功を収めた時,現場のアニメーターにどれほど利益が還元されるか。今後の動向が楽しみである。

また,EGG FIRM という会社の存在感も興味深い。

かつてアニメ制作の企画を担っていたのはビデオパッケージのメーカーだったが,パッケージの売り上げが低迷する中,その相対的なプレゼンスも低下しつつある。代わって近年,注目されているのがEGG FIRMのようなアニメ企画会社の存在だ。

本来,アニメ企画会社は,企画や製作と制作のビジネスマネジメント,作品のマーケティングなどに集中し,制作の現場を持たないことが多かった。しかし最近では,ツインエンジンなどの例に見られるように,企画会社が自らスタジオを持つ傾向も見え始めている(ツインエンジンは,スタジオコロリド,ジェノスタジオ,レヴォ ルト,Lay-duceといった複数のスタジオを抱えている)。EGG FIRMによるスタジオバインド設立も,この流れに乗った形と言えるだろう。*2 EGG FIRMが今後,本作をどうマネージメントしていくか。目が離せない要素だ。

『無職転生』は,アニメーションそのものの面白さに加え,その制作体制の特殊性にも特筆すべき注目作品であると言える。しばらくその動向を見守ろう。

*1:EGG FIRMプレスリリースより。

*2:『アニメ産業レポート2019』p.27。一般社団法人日本動画協会,2019。

2020年 アニメランキング

*この記事にネタバレはありませんが,各作品について簡単なコメントを付しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,目次から「ランキング表」へスキップするなどしてご覧ください。

2020年新作アニメの鑑賞数は,TVシリーズが27作品,劇場版が14作品だった(並行して旧作も観ているが,ここではカウントしていない)。

以下,「TVアニメランキング」「劇場アニメランキング」「総合ランキング」に分け,2020年の個人的ランキングをカウントダウン方式で紹介する。視認性を高めるため,TVアニメは青字劇場アニメは赤字にしてある。また各セクションの最後には「ランキング表」を掲載してある。

TVアニメランキング

10位〜6位

 10位:『安達としまむら』(2020年秋)

www.tbs.co.jp

【コメント】百合&妹という主人公の関係性に,「ヤシロ」という不可思議な存在を挿入したことにより,独特の世界観を構築した。技術面での不足はあったが,2020年百合アニメの秀作。

9位:『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』(2020年冬)

id-invaded-anime.com

【コメント】殺意を検知する「ミズハノメ」を用いて,犯罪者の深層心理の世界「イド」に潜り込み,事件を解決するという,ユニークな設定のSFミステリー。少々難解すぎるストーリーとなったが,裏を返せば,繰り返し視聴して考察を深めることができる作品。

8位:『BNA ビー・エヌ・エー』(2020年春)

bna-anime.com

【コメント】「人と獣人の対立と融和」という,シリーズ構成の中島かずきの持ち味を活かしたオリジナルアニメ。TRIGGER制作にしては割とおとなしめの作品となったが,リミテッド・アニメの楽しさを詰め込んだ秀作だ。特に第5話「Greedy Bears」の”野球回”は必見。

7位:『ドロヘドロ』(2020年冬)

dorohedoro.net

【コメント】魔法によってトカゲの顔にされてしまった主人公が,自分の顔と記憶を取り戻すダークファンタジー。独特の世界観とキャラクターを,作画と3DCGを見事に融合したアニメーションで表現している。3DCGアニメの1つの到達点と言えるだろう。

6位:『攻殻機動隊 SAC_2045』(2020年春Netflix)

www.ghostintheshell-sac2045.jp

【コメント】「ポストヒューマン」という超人的な知能と身体能力を持つ存在の出現により,再組織された公安9課が活躍する。シリーズ初のフル3DCG制作となった本作は,描画面に多少の難があったものの,魅力的なストーリーによって旧シリーズに劣らない秀作となった。

 

TOP 5

5位:『かぐや様は告らせたい? 天才たちの恋愛頭脳戦』(2020年春)

kaguya.love

【コメント】大胆な構図や演出,主演の古賀葵のキレのある演技など,2019年冬クールの第1期をはるかに凌ぐ出来栄えとなった。すでにOVAと第3期の制作が決定している。〈生徒会モノ〉の系譜に連なる作品として,今後も大いに期待できそうだ。


【緊急告知】「かぐや様は告らせたい」新作アニメ制作決定

4位:『ゴールデンカムイ』(2020年秋)

kamuy-anime.com

【コメント】こちらも,第1期と第2期に続き,ますますパワーアップし続けているシリーズだ。物語もクライマックスを迎えつつあるが,語りに急ぎすぎることなく,「スチェンカ」や食事シーンなど,『金カム』らしい場面を丁寧にアニメ化している。第三十五話の「白石のおしっこ」は,神々しいほどまでの名シーンである。

3位:『映像研には手を出すな!』(2020年冬)

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『映像研には手を出すな!』公式Twitterより引用 ©︎2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

eizouken-anime.com

【コメント】3人の個性的なキャラクターに負けないほどユニークな美術が印象的だった作品。彼女たちが住む日常世界がたちまちアニメになっていくワクワク感は,“アニメを作る”という行為の根源的な喜びを表していた。“アニメ制作をアニメで描く”という形式は『SHIROBAKO』とも共通しているが,今後,アニメ制作の現場をさらにリアルに描く作品が登場することを期待してもよいかもしれない。

realsound.jp

2位:『呪術廻戦』

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『呪術廻戦』公式HPより引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

jujutsukaisen.jp

【コメント】「週刊少年ジャンプ」の人気マンガが原作ということもあり,すでに売れ筋が約束されたアニメではあるが,アクションシーンを初めとするアニメーション技術の水準は極めて高い。制作のMAPPAにとって,代表作となることは間違いないだろう。

1位『アクダマドライブ』

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『アクダマドライブ』公式Twitterより引用 ©ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

akudama-drive.com

【コメント】当ブログの「2020年秋アニメは何を観る?」の記事でもイチオシにしていた作品ではあるが,当初の予想を軽々と超えた傑作となった。世界観の作り込み,キャラクターの過去を捨象した大胆な作劇,そしてほとんど宗教味すら帯びた最終話。標準的なアニメの作法とは異質な作りをしているが,それだけに,オリジナルアニメの新しい可能性の1つを示す作品となり得た。オリジナルアニメ贔屓の当ブログとして,この作品をTVアニメセクションの1位としたい。

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TVアニメランキング表

1位:『アクダマドライブ』
2位:『呪術廻戦』
3位:『映像研には手を出すな!』
4位:『ゴールデンカムイ』
5位:『かぐや様は告らせたい?天才たちの恋愛頭脳戦
6位:『攻殻機動隊 SAC_2045』
7位:『ドロヘドロ』
8位:『BNA ビー・エヌ・エー』
9位:『ID: INVADED イド:インヴェイデッド』
10位:『安達としまむら』

● その他の鑑賞済みTVアニメ作品(50音順)
『天晴爛漫!』『イエスタデイをうたって』『池袋ウエストゲートパーク』『異種族レビュアーズ』『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』『宇崎ちゃんは遊びたい!』『かくしごと』『神様になった日』『空挺ドラゴンズ』『くまクマ熊ベアー』『グレイプニル』『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』『デカダンス』『日本沈没2020』『ひぐらしのなく頃に 業』『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』『Re:ゼロから始める異世界生活』

 

劇場アニメランキング

10位〜6位

10位:『泣きたい私は猫をかぶる』

nakineko-movie.com

【コメント】岡田麿里の脚本から生まれた,やや屈折率の高いキャラクターたちが魅力的な作品。「猫をかぶる=仮面をつける」という日常的行為を基に,独特なファンタジー世界を構築している点が面白い。

9位:『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』

psycho-pass.com

【コメント】多くの要素を盛り込んだ設定は,少々“欲張り”をし過ぎた感があるが,常守朱から慎導灼へと繋がる糸は,本作における真の〈正義〉の所在を予感させるものがあった。ドミネーターの「引き金」を重要なキーワードにしたのもとても面白い。

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8位:『ジョゼと虎と魚たち』

joseetora.jp

【コメント】ストーリーは王道のラブストーリーを軸としているが,主人公「ジョゼ」のキャラクターがとてもユニークな作品だ。とりわけ,ジョゼを演じる清原果耶の芝居が素晴らしく,大阪弁の魅力を再認識させられる。

7位:『どうにかなる日々』

dounikanaruhibi.com

【コメント】60分程度のオムニバス映画でありながら,〈不在の存在感〉というテーマをうまく料理した秀作。その淡白な語り口は,他の劇場アニメと比べれば地味ではあるものの,劇場作品のジャンルの多様化への道を開いたという点で,高く評価されるべき作品だ。

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6位:『劇場版 SHIROBAKO』

shirobako-movie.com

【コメント】2014年から2015年にかけて放送されたTVシリーズの続編。TVシリーズ以上に現実と空想の境界を曖昧にするような演出が目立ったのが面白い。 

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TOP 5

5位:『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』

kimetsu.com

【コメント】言うまでもなく,日本映画史上,最大の快挙となった作品だ。「列車」「夢の世界」という設定をうまく使いながら,煉獄杏寿郎の生き様を魅力的に描き出したufotable制作陣の手腕には脱帽である。

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4位:『メイドインアビス 深き魂の黎明』

miabyss.com

【コメント】原作の陰惨な描写から逃げることなく,リコとレグとボンドルドの〈狂気〉を対峙させた本作。彼ら/彼女らの狂気が強ければ強いほど,プルシュカの犠牲が美しく輝くというアイロニーは,〈善/悪〉〈正気/狂気〉といった二項対立が無効になったところに新たな「価値」が見出されるという,本作の哲学を反映している。

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3位:『海辺のエトランゼ』

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『海辺のエトランゼ』公式Twitterより引用 ©︎紀伊カンナ / 祥伝社・海辺のエトランゼ製作委員会

etranger-anime.com

【コメント】『どうにかなる日々』と同じく,60分のショートムービーでありながら,〈幻想〉と〈日常〉の世界を巧みに融合させた情景描写によって傑作となった作品。主人公の男性たちに加え,魅力的な女性も登場させることで,BLの世界にリアリズムを呼び込んでおり,あらゆる性志向の視聴者に訴えかける普遍的な価値を持っている。

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2位:『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]」III.spring song』

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『Fate/stay night』公式Twitterより引用 ©︎TYPE-MOON・ufotable・FSNPC ©︎TYPE-MOON

www.fate-sn.com

【コメント】『Heven's Feel』の最終章にして,『Fate/stay night』アニメシリーズの完結編ともなった本作。その堂々の出来栄えからは,ufotableの技術の粋を集めて制作されたことが手にとるようにわかる。〈正義〉と〈愛〉の間で揺れ動く男の生き様を描き続けたufotableは,間違いなく『Fate』シリーズ最大の功労者と言えるだろう。 

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1位:『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

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『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』公式HPより引用 ©︎暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

violet-evergarden.jp

【コメント】〈時間〉〈メディア〉といったテーマの処理,ロケーション,声優の芝居,どれを取っても他作品を寄せ付けない高水準を示した。人との絆や愛を真摯に描いた本作は,紛れもない感動アニメではあるが,いわゆる“泣き”以外の要素をこそ高く評価すべき作品だ。“京アニ復活“という要素を差し引いても,アニメ史上最高傑作の1つとなったことに異論はないだろう。

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劇場アニメランキング表

1位:『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
2位:『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]」III.spring song』
3位:『海辺のエトランゼ』
4位:『メイドインアビス 深き魂の黎明』
5位:『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
6位:『劇場版 SHIROBAKO』
7位:『どうにかなる日々』
8位:『ジョゼと虎と魚たち』
9位:『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』
10位:『泣きたい私は猫をかぶる』

● その他の鑑賞済み劇場アニメ作品(50音順)
『思い,思われ,ふり,ふられ』『君は彼方』『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット』『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』

総合ランキング表

最後に,TVシリーズと劇場版を総合したランキングを10位まで紹介しよう。

1位:劇場アニメ『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
2位:劇場アニメ『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]」III.spring song』
3位:劇場アニメ『海辺のエトランゼ』
4位:劇場アニメ『メイドインアビス 深き魂の黎明』
5位:劇場アニメ『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』
6位:TVアニメ『アクダマドライブ』
7位:劇場アニメ『劇場版 SHIROBAKO』
8位:TVアニメ『呪術廻戦』
9位:劇場アニメ『どうにかなる日々』
10位:TVアニメ『映像研には手を出すな!』

今年は劇場作品の質が高かったために,上位5位を劇場アニメが占めることになったが,6位の『アクダマドライブ』の健闘は強調しておきたい。本作は,上位5位作品とは違った意味で“映画的”であり,劇場作品にしてもおかしくないくらいの見映えだった。条件さえあれば,最上位に食い込んだ可能性もある。今後もこれくらい大胆な作りのオリジナルアニメが登場することを期待したい。

総評

2020年は良くも悪くも『鬼滅の刃』のインパクトが強く,下半期は他の作品の印象が薄れてしまった感があるが,今年は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『メイドインアビス』『Heaven's Feel』のような超弩級とも言える作品が量産されていたことを忘れてはならない。そしてまた一方で,『海辺のエトランゼ』や『どうにかなる日々』など,優れたショートムービーが目を引いた年でもある。これらの作品は,派手なアクションや号泣シーンこそないものの,劇場で鑑賞するに値する出来栄えだった。製作費と制作時間を節約しつつ,制作リソースをインテンシブに活用しながら良作を作る手段として,ショートムービーという形式は今後注目されていくかもしれない。

TVアニメに関してはとりわけコロナの影響が懸念され,実際に延期となった作品もあったが,現場制作陣の努力と工夫のおかげで,結果としてさほど大きな影響を感じることなく作品を楽しむことができた。アニメ制作者たちの底力を感じた年でもある。さらには,『ID:INVADED』や『アクダマドライブ』のようなオリジナルアニメの存在感も強く感じられた。来年も度肝を抜くようなオリジナル作品に出会えることを期待したい。

 

一刻も早くコロナ禍が終息し,日本のアニメ界に再び新しい光が刺すことを願いつつ。

 

TVアニメ『アクダマドライブ』(2020年秋)レビュー[考察・感想]:〈今ここ〉の物語

く*このレビューはネタバレを含みます。

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『アクダマドライブ』公式Twitterより引用 ©︎ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

akudama-drive.com


TVアニメ「アクダマドライブ」PV第2弾

「カントウの属国となったカンサイ」というユニークな設定,個性豊かなキャラクター,独特な作画と美術,そして奇想天外なストーリー。『アクダマドライブ』は,アニメの平均的な作法を尻目に,予想の斜め上を行く独自路線を突き抜けた。その意味で,2020年のオリジナルアニメの中で頭一つ抜けた傑作となったと言えよう。

あらすじ

舞台は大戦争によって「カントウ」の属国と成り果てた「カンサイ」。戦後の復興における都市の技術的発展とは裏腹に,治安は大いに悪化し,「アクダマ」と呼ばれる極悪非道の犯罪者たちが市民生活を脅かしていた。ある日,奇妙な黒猫が最強のアクダマたちの前に現れ,高額報酬の依頼を提示する。そこには,偶然「500イェン」を拾ったことをきっかけに巻き込まれた「一般人(詐欺師)」も含まれていた。繋がりも共通点もない彼ら/彼女らは,宿敵「処刑課」と大立ち回りを演じつつ,謎の依頼を達成すべく互いに力を合わせる。

サイバーパンク・センチメンタリズム

アニメが“映画的”だと言われる時,主に作品の2つの特徴を拠り所にしている。1つは,カメラワーク,レンズ効果,芝居,作劇などの技術面において,実写映画さながらの“リアルな”作り方をしている場合。もう1つは,過去の映画への参照記号がオマージュやパスティーシュとして示されている場合だ。各話タイトル(最終話を除く第1話から第11話のタイトルは,過去の名作映画のタイトルを借用している)や通貨の「イェン」(岩井俊二監督『スワロウテイル』(1996年)を想起させる)など,随所に往年の映画へのレファレンスを散りばめた『アクダマドライブ』は,後者の意味ですぐれて“映画的”である。

特にサイバーパンク風の都市風景は,リドリー・スコット監督『ブレードランナー』(1982年)を初めとする未来都市の外観を明示的に参照している。しかし面白いのは,この作品が“サイバーパンク“という世界観を独自に再解釈している点だ。

監督の田口によれば,美術設定に際して,既存のサイバーパンクのイメージと差別化するために「昭和っぽいテイスト」を加味したのだという。*1

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『アクダマドライブ』「01 SE7EN」より引用 ©︎ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

極彩色のネオンの街並みの中に,電柱や電線などの古めかしいオブジェが配置され,ノスタルジックな猥雑感が演出されている。こうした「昭和テイスト」の美術によって,カントウによって管理された無機質な機械文明社会を舞台にしていながらも,どこか懐かしい親近感のある情趣が生まれている。『アクダマドライブ』の世界観は,一見バリバリのSF未来都市風だが,その中に,視聴者を速やかに世界観に引き込む繊細な画作りを潜ませている。

このような演出の思想は,キャラクター造形にも反映しているようだ。

アクダマの宿敵として登場する「処刑課」は,悪を排除するためには自らの命をも顧みない冷酷無情のキャラクターだ。彼らは正義と秩序を守るべく,超人的な身体能力とライトセーバー風の武器でアクダマたちの前に立ちはだかる。その意味では,彼らは機械化された管理社会であるカンサイを体現したキャラクターと言えるかもしれない。

しかし「06 BROTHER」では,その構成員が「情」を絆としたツーマンセルで成り立っていることが明かされる。

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『アクダマドライブ』「06 BROTHER」より引用 ©︎ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

この事実を聞かされた「弟子」は,決死の覚悟でアクダマ排除に向かった「師匠」の元に駆けつける。このカットでは,喧嘩屋との戦いに敗れ絶命した師匠を見た弟子の心の動きを表情の変化で見せるのではなく,流れ落ちる雨粒に代弁させている。見事としか言いようのない演出術だ。

「06 BROTHER」の演出に関しては,以下の記事も参照頂きたい。

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一見,冷たく非情な世界観の中に挿入されたエモーショナルな演出は,最終話における詐欺師の自己犠牲的な生き様をこの時点で暗示している。無機質なものの中に投入されたセンチメンタリズムこそ,この物語を見応えあるものにしているエッセンスだ。

〈今ここ〉の生き様

『アクダマドライブ』は,固有名を持たないキャラクターによるロールプレイングゲームのようだ。キャラクターの本名は明かされず,「殺人鬼」「喧嘩屋」「医者」などの“役割”のみで互いを呼び合う(クエンティン・タランティーノ監督『レザボア・ドッグス』(1992年)を思わせる設定だ)。そしてとりわけ特徴的なのは,彼ら/彼女らのキャラクターを成り立たせたはずの“過去”について,詳しい描写がほとんどないことだ。

1クール12話構成の制約ということもあるだろうが,「11 WAR GAMES」の運び屋の“記憶”のシーンを除けば,アクダマに関する過去の履歴への言及はほとんどない。喧嘩屋が喧嘩を生き甲斐にするようになった経緯,殺人鬼が“赤”と殺人を愛するようになった経緯などは一切語られない。それどころか,主人公であるはずの詐欺師の素性ですら,「ハンコセンターの職員だった」という事実以外は一切語られないのである。アクダマたちの(hi)storyを捨象し,〈今ここ〉で演じられる彼らの生き様の相乗積によってのみ物語が構成されている

このような作劇が面白いのは,〈今ここ〉におけるアクシデント(災難,偶発的出来事)とキャラクターたちの決断が物語を推進する駆動力になる点だ。今ここに「500イェン」があり,それを拾ったからこそ詐欺師の運命は決まった。今ここに居合わせてしまい,他のアクダマたちに加担してしまったことがチンピラの運命を変えた。彼ら/彼女らの〈今ここ〉における決断と行動が,大輪の花火のように束の間の物語を紡ぎ出す。

なかでも,主人公である詐欺師(一般人)の命運はとりわけ興味深い。彼女は,アルフレッド・ヒッチコック監督『北北西に進路を取れ』(1959年)を初めとする〈巻き込まれ型〉の主人公である。しかし彼女は自らの不運から逃れることも,それに流されることもなく,むしろ兄妹を救うべく積極的に決断し,行動していくようになる。

「08 BLACK RAIN」では,彼女は運び屋に自分と妹を兄の元へ届けるよう依頼しながら,こう言う。

もう最後までやるしかないんですよ。逃げる場所なんてどこにもない。私に残ってるのは,私の居場所はここだけなんです[下線は引用者による]

この時点で,詐欺師は妹を救うために人を殺めている。この決断は,もはや「一般人」のそれではない。さりとてアクダマの振る舞いとも言い難い。兄妹を守ることにのみ特化した彼女の決断は,すでに正義と悪の境界をも超えた宗教的な〈慈愛〉の域に達しているようにも思えるのだ。 

ゼンアクノヒガン

『アクダマドライブ』は,〈正義と悪〉の境界を曖昧にすることで,〈正義とは何か。悪とは何か〉という古くからある問題提起を継承した作品でもある。その意味で,『Fate』シリーズ(ゲーム版:2004年-,アニメ版:2006年-),『PSYCHO-PASS』シリーズ(2012年-),『バビロン』(2019年秋-2020)などの近年の作品ともテーマを共有していると言えるだろう。

とりわけ「10 BABEL」は,本作における〈正義〉の価値の脆弱性を明確に示した重要な話数である。市民が暴徒化し,秩序が乱れつつあることを知った処刑課ボスは,自らの保身と組織の維持のために,市民をアクダマとして認定し「処刑」対象とすることを警察署長に迫り,このように言う。
我々はカンサイを守らなくてはならない。そのためには絶対的正義でなくてはならない。正義を示すには悪を倒す必要があるだろう。
この処刑課ボスのセリフは,『Fate/stay night』の言峰綺礼が,「戦う」ことを決意した衛宮士郎に投げかける不吉な言葉と相似形を成している。
喜べ少年,君の願いは,ようやく叶う。[中略]判っていた筈だ。明確な悪がいなければ君の望みは叶わない。たとえそれが君にとって容認しえぬモノであろうと,正義の味方には倒すべき悪が必要だ。*2

言峰綺礼のセリフには,〈正義〉が成り立つためには〈悪〉が必要である,という強烈なシニシズムが表れている。このシニシズムを,事もあろうに〈正義〉の側から露悪的(!)に示したのが処刑課ボスのセリフなのだ。彼女は「絶対的正義」を口にしておきながら,〈正義〉が相対的にしか価値の定まらない脆弱なものであることを自ら認めているのである。

これに呼応するかのように,物語の後半では〈正義〉の価値が次々と相対化されていく様が描かれる。
「10 BABEL」では,「アクダマに人の心なんてないんだ。だから処刑しなくちゃいけないんだよ」と正義に燃える「処刑課後輩」に対し,兄が「僕から見れば,君たちだって十分アクダマだよ」と言い放つ。「12 アクダマドライブ」では,500イェンで兄妹を四国に運ぶ依頼をした詐欺師に向かって,運び屋が「アクダマめ」と言い,「まるでアクダマだ」と言った兄に対して,詐欺師が「ここまで来てあなたたちが一番のアクダマでしょ」と言い返す。かくして,彼ら/彼女らが互いに「アクダマ認定」をし,すべての人間が「アクダマ」と化したことで,キービジュアル(本記事のアイキャッチ画像を参照)の中央に掲げられた「全員悪玉」というキャッチフレーズが見事に回収されるに至る。と同時に,この作品における〈正義〉の質量は徹底的に矮小化されるのだ。

仮初めの“正義”しか存在しないところでは,〈今ここ〉の己の生き様を貫いた“悪”が最も美しい。

詐欺師は兄妹を逃すべく,自らの死によって大衆を欺き,処刑課を窮地に陥れる。本作では,アクダマの初登場シーンで歌舞伎の“見得”のようなポーズが描かれるが,「詐欺師」が兄妹を救うべく本当の「詐欺師」となった瞬間の“見得”は,どのアクダマのそれよりもカッコいい。

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『アクダマドライブ』「12 アクダマドライブ」より引用 ©︎ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

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『アクダマドライブ』「12 アクダマドライブ」より引用 ©︎ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

こうして,彼女の“受難”の物語は終わりを告げる。詐欺師の最期のカットは,彼女の兄妹への慈愛が世俗的な価値観を超越していたことを窺わせる。

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『アクダマドライブ』「12 アクダマドライブ」より引用 ©︎ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

彼女は〈今ここ〉にある「500イェン」という偶然のオブジェクトに己の生を賭けてしまった。〈今ここ〉にいる兄妹への慈愛のために己の生を犠牲にしてしまった。彼女がなぜこのような心性を持つに至ったか,その過去の経緯について僕らは知らされることがない。しかしそれでよいのだ。過去について語らないが故に,彼女の〈今ここ〉における決断が光り輝くのだから。これこそ,本作の〈沈黙の美学〉とも言えるものなのだ。

ところで,先述したように,本作の各話タイトルは,第1話から第11話まで往年の映画のタイトルをオマージュとして借用している。しかし最終話の「アクダマドライブ」のみ,自己言及的に自らをタイトルに冠している。本作は,最終話において完結した時,自ら“映画”となったことを告知しているのだ。『アクダマドライブ』は,TVシリーズでありながら,すぐれて“映画的”な作品である。

作品データ

*リンクはWikipediaもしくは@wiki

【スタッフ】原作:ぴえろ,TooKyoGames/ストーリー原案:小高和剛/キャラクター原案:小松崎類/監督:田口智久/シリーズ構成:海法紀光,田口智久/キャラクターデザイン:Cindy H. Yamauchi/副監督:笹原嘉文/メカニックデザイン:山本翔宮川治雄常木志伸/美術監督:谷岡善王/美術設定:青木薫/色彩設計:合田沙織/編集:三嶋章紀/撮影監督:山田和弘/CG監督:藤谷秀法/音響監督:長崎行男/音響制作:デルファイサウンド/音楽:會田茂一井内舞子/アニメーション制作:studioぴえろ

【キャスト】一般人:黒沢ともよ/運び屋:梅原裕一郎/喧嘩屋:武内駿輔/ハッカー:堀江瞬/医者:緒方恵美/チンピラ:木村昴/殺人鬼:櫻井孝宏/処刑課師匠:大塚明夫/処刑課弟子:花守ゆみり/処刑課後輩:上遠野太洸/ボス:榊原良子/兄・黒猫:内田真礼/妹:市ノ瀬加那/ウサギ:間宮くるみ/サメ:チョー

作品評価

キャラ モーション 美術・彩色 音響
5 4.5 4.5 4
CV ドラマ メッセージ 独自性
4 4 4

5

普遍性 考察 平均
4 4.5 4.4
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

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*1:「AbemaTV『アクダマドライブ』トクベツ生番組」より。

*2:『Fate/stay night [Realta Nua] 』「三日目・言峰教会 決意。」より。

雑記:junk in my head すべてはジャンクのように

僕の子どもの頃の玩具箱はひどいものだった。

親から譲り受けた三段の引き出しの小物入れに,お祭りの射的で手に入れた人形,ハサミ,超合金ロボの部品,セロテープ,接着剤,分解した時計の歯車,マンガ,キン消し,ボールペンなどが文字通りゴタマゼにぶち込まれていた。それでも,ぶち込んでから数ヶ月くらい経つと人並みに罪悪感を覚え,引き出しの一段目には文房具,二段目にはおもちゃ,といった“整理整頓“に挑んでみる。しかし,一つひとつのアイテムを眺めれば眺めるほど,それが文具なのかおもちゃなのかガラクタなのかわからなくなってしまう。だから結局,引き出しの中は何だかわからないカオスのままであり続けたのだ。

大人になってどうなったかと身の回りを眺めてみると,射的の人形がやや高価なフィギュアになったり,マンガが文庫本になったりしただけで,あの頃のカオスっぷりは変わっていない。むしろ三段の引き出しに収まっていたカオスが部屋いっぱいに展開されてしまったという点では,確実に悪化している。とてもではないが,「誰でもできる整理整頓術」みたいな,いかにもアクセス数の伸びそうなブログ記事は僕には書けない。むしろその手の価値観から最も離れたところに生息する人種なのだ。

要するに,僕は〈分類〉と〈階層化〉が不得手である。モノとモノの境界を見定めることが苦手だ。これはブログ記事の執筆にも反映している。僕にはハイデガーの哲学と幾原邦彦監督のアニメとの差異がわからない。考えれば考えるほど,どちらが哲学でどちらがエンタメなのかわからなくなってしまうのだ。同様に,“上位文化”と“下位文化”の差異もよくわからない。アニメよりもオペラの方が“上位”に置かれているという一般的事実は承知しているが,それがどうしてなのかは皆目わからない。上下を逆転させても僕には何の不都合もない。

僕にとっては,ハイデガーの『存在と時間』と幾原邦彦監督の『さらざんまい』とワグナーの『指輪』が,同じ脳の領野をアクティベートするように感じる。『さらざんまい』を観た時のワクワク感と同じものを『存在と時間』にも感じる。だから,僕のアニメレビューには哲学や思想のトピックが頻出する。それは何も,アニメレビューにアカデミックな“箔”を付けようというのではない。そもそも僕にとっては,ハイデガーは金箔でも銀箔でもないのだから。そういう意味では,僕は紛れもなく“ポストモダン”の申し子である。

頭の中の引き出しを開けると,子どもの頃に読んだマンガ,大学院時代に研究した書物,現在進行形で観漁っているアニメがぶち込まれているが,それらが“知識”なのか“ガラクタ”なのか,僕自身にはまったく判別できないのだ。だから,いっそのこと同一平面上で扱うのが一番面白いだろう。

このブログは,そのようなブログである。

Colorful Anime:色と心の青春アニメたち

*このレビューは『氷菓』『四月は君の嘘』『色づく世界の明日から』『荒ぶる季節の乙女どもよ』に関するネタバレを含みます。気になる方は本編をご覧になってから本記事をお読み下さい。

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『四月は君の嘘』最終話「春風」より引用 ©︎新川直司・講談社/「四月は君の嘘」製作委員会

当ブログではこれまでにも何度かアニメの色彩について触れてきたが,アニメ表現における色彩の意味はいくら強調してもし過ぎることはないだろう。アニメは色を自在にコントロールできるという点で,マンガ・小説・映画などの他媒体に対して表現上のアドバンテージを持っている。とりわけ1990年代以降,制作工程のデジタル化が本格化されたことにより,彩色の工程は絵の具というフィジカルな制約から解放され,その表現の幅は事実上,無際限となった。その結果〈色彩〉そのものを主題として前景化する作品が増えてきたと言える。 

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とりわけカラフルな色彩は,恋愛や青春といったドラマとの親和性が高い。今回の記事では,比較的最近のTVシリーズアニメの中から〈色と青春〉というテーマを扱った作品をピックアップしてみよう。

『氷菓』(2012年春・夏):灰色から薔薇色へ

折木奉太郎は「やらなくてもいいことなら,やらない。やらなければいけないことなら手短に」をモットーに,省エネに徹した高校生活を送っている。第1話「伝統ある古典部の再生」の冒頭には,彼が「薔薇色」の高校生活と「灰色」の高校生活を対照的に語るシーンがあるが,この「灰色」は,名探偵ポワロの脳細胞の色であると同時に,彼自身の彩を欠いた高校生活の色でもある。

その彼の高校生活は,姉の指令によって「古典部」に入部し,千反田えると出会ったことにより一変する。第1話では,えるが遠慮会釈のない好奇心によって奉太郎を翻弄し,彼の生活に半ば強引に介入していく様が描かれる。第1話の舞台となる西日の差す部室は,奉太郎の「灰色」と同調するかのようにやや彩度が抑えられている。部室に閉じ込められていたことを知ったえるは,「わたし,気になります」という決め台詞(?)とともに奉太郎に解決を迫る。このシーンは,学校の日常風景を舞台とした作品とは到底思えないほど幻想的かつ豊かな色彩で演出されている。

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『氷菓』第1話「伝統ある古典部の再生」より引用 ©︎米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会

この「灰色」と「薔薇色」という対照的な色彩コンセプトは,第1話から11.5話までのオープニングアニメーションの中にも暗示されている。

奉太郎の机に置かれた教科書から「薔薇」の文字が遊離し,波紋のようなものと溶け合って空を舞う。波紋はそこかしこに姿を現し,灰色の学校の風景を次々と色で染め上げていく。

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『氷菓』第1話「伝統ある古典部の再生」より引用 ©︎米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会

同様に,奉太郎の「灰色」の高校生活も,えるという存在によってゆっくりと少しずつ「薔薇色」に染め上がっていくだろう。やがてそれは,彼らの真摯な恋愛感情へと変わっていくのである。

【メインスタッフ】
原作:米澤穂信/監督:武本康弘/シリーズ構成:賀東招二/キャラクターデザイン:西屋太志  /撮影監督:中上竜太

色彩設計:石田奈央美

「氷菓」BD-BOX [Blu-ray]

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  • 発売日: 2015/02/27
  • メディア: Blu-ray
 

『四月は君の嘘』(2014年秋-2015年冬):命の音色

有馬公生は,かつて「ヒューマン・メトロノーム」 という異名で恐れられた天才ピアニストである。しかし彼は母の死後,自分の演奏の音が聞こえなくなり,ピアノの演奏をやめてしまう。そんなある日,彼はヴァイオリニストの宮園かをりと出会い,彼女の自由奔放な演奏と生き方に感化されていく。

本作の色彩設計のコンセプトは明快だ。規律,訓練,自己否定としての〈無彩色〉と,自由,恋,自己肯定としての〈有彩色〉との対比。前者は母の影,黒猫,ピアノの鍵盤,公生の黒縁眼鏡などによって,そして後者はかをりの髪色,黒猫の瞳,桜の花,演奏シーンにおける光の球などによって表されている。

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『四月は君の嘘』第1話「モノトーン・カラフル」より引用 ©︎新川直司・講談社/「四月は君の嘘」製作委員会

第1話「モノトーン・カラフル」では,その各話タイトルが表す通り,公生の「モノトーン」な内面と,かをりの「カラフル」な感性との劇的な出会いのシーンが,艶やかな色彩設計で表現されている。

まず,公生がかをりと出会う直前,桜の木の下を歩くカットが見事だ。逆光の影で暗い「モノトーン」になった公生の背中を,たっぷりと春の光を浴びた桜の花の「カラフル」が包み込む。

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『四月は君の嘘』第1話「モノトーン・カラフル」より引用 ©︎新川直司・講談社/「四月は君の嘘」製作委員会

彼の行き先には,かをりがいる。この後,彼女は文字通り命を燃やすような熱情的な生によって,公生の心の「モノトーン」を豊かに色づかせていくことになるだろう。

しかし,第13話「愛の悲しみ」で紘子が予見した通り,有馬公生の演奏家としての成長を促すのは「悲しみ」である。この物語が紛れもない“悲劇”である所以だ。

ガラコンサートの直前に倒れて以降のかをりは,髪や肌や唇の色の彩度がぐっと落とされた色彩設計になっている。その儚い姿が,病床に臥せっていた公生の亡き母と重なる。

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『四月は君の嘘』第14話「足跡」より引用 ©︎新川直司・講談社/「四月は君の嘘」製作委員会

最終話「春風」の東日本コンクールで,公生は色々な人からもらった〈音色〉を手術中のかをりの元に届けようと渾身の演奏をする。 やがて舞台は公生の心象風景に変わり,そこにヴァイオリンを手にしたかをりが姿を現す。彼女の髪や肌は元気だった頃の鮮やかな色に戻っている。しかし,その姿を見て,彼女との別離を予感した公生の顔には,深い悲痛の表情が浮かぶ。跳ねるように無邪気なかをりのヴァイオリンと,彼女に寄り添うように優しく音を奏でる公生のピアノを,無数の彩豊かな〈音色〉の光球が包み込む。

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『四月は君の嘘』最終話「春風」より引用 ©︎新川直司・講談社/「四月は君の嘘」製作委員会

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『四月は君の嘘』最終話「春風」より引用 ©︎新川直司・講談社/「四月は君の嘘」製作委員会

そして演奏を終えた公生は,万感の想いを込めて,かをりに「さよなら」を告げる。彼の心には,かをりという人間のカラフルな生が確かに足跡を遺したのだ。

しかし,最終話のかをりの手紙によって明らかにされたように,そもそも,彼女の心に〈色〉をもたらしたのは,幼い頃の公生の「24色パレット」のようなピアノの音色だったのだ。2人は〈色〉を与え合うことによって,互いの実存を己の内に刻み込んだ。『四月は君の嘘』は,悲劇であると同時に,限りある命の輝きを謳った“ハッピーエンド”の物語でもある。

【メインスタッフ】
原作:新川直司/監督:イシグロキョウヘイ/シリーズ構成・脚本:吉岡たかを/キャラクターデザイン:愛敬由紀子/撮影監督:関谷能弘(グラフィニカ),野澤圭輔(グラフィニカ)

色彩設計:中島和子

四月は君の嘘 Blu-ray Disc BOX(完全生産限定版)

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  • 発売日: 2020/04/01
  • メディア: Blu-ray
 

『色づく世界の明日から』(2018年秋):心の色

魔法使いの一家に生まれた月白瞳美は,とある事件が原因で幼い頃に色の知覚を失い,あらゆるものがグレースケールにしか見えない。以来,彼女は魔法を使うことをやめ,他者との関わりを避けた孤独な生活を送っていた。ある日,彼女は祖母・月白琥珀の魔法の力によって60年前の過去に送り込まれ,そこで出会った葵唯翔の絵によって,再び色を見たいという欲求に突き動かされる。彼女は唯翔を含めた同年代の若者たちとの心の交流を通して,やがて「色づく世界」を取り戻していく。

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『色づく世界の明日から』第一話「キミノイクベキトコロ」より引用 ©︎色づく世界の明日から製作委員会

このプロットからも分かる通り,本作では色彩が心情の比喩としてだけではなく,物語のテーマそのものとして扱われている。

瞳美が「魔法写真美術部」の仲間と心を通わせ,唯翔と恋をすることによって色覚を取り戻していくというストーリーは,その根底に心の多幸感と外的世界の色彩との間の内的連想がある。本作では,日常的な風景に関しても意図的に彩度を高め,色の情報量を増やした色彩設計をしていると思われるが,それは客観的な色彩というよりは,瞳美の色への欲望を反映し,主観的に増幅された〈記憶色〉の世界に近いと言えるだろう。

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『色づく世界の明日から』第一話「キミノイクベキトコロ」より引用 ©︎色づく世界の明日から製作委員会

第十二話「光る光る この一日が光る」では,瞳美が束の間,色覚を取り戻す様子が描かれる。文化祭の後夜祭で琥珀が学校の屋上から魔法花火を打ち上げる。仲間とともに「魔法写真美術部」のイベントを成功させた瞳美は,仲間の前で「ドキドキするの。嬉しくて温かい。懐かしい気持ち」と心の喜びを吐露する。琥珀が「それって『幸せ』なんじゃない?」と指摘する。その時,瞳美がふと空を見上げると,それまで灰色だった魔法花火が色鮮やかに瞳美の目に映る。

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『色づく世界の明日から』第十二話「光る光る この一日が光る」より引用 ©︎色づく世界の明日から製作委員会

しかし,瞳美は色づく世界を取り戻すと同時に,60年後の未来の世界に戻ることで,仲間との別れ,とりわけ唯翔との別れを経験しなければならない。第十三話「色づく世界の明日から」で,60年後の世界に戻った瞳美に琥珀が「どう?楽しかったでしょ?」と尋ねると,瞳美はこう答える。

楽しかった。でも,悲しかった。不安で怖くなって,嫌になった。夢中になってドキドキしたり,嬉しくなって,切なくなって,怒ったり泣いたり,胸が締め付けられるほど苦しくなったり,帰りたくなくなるほど,恋しかったり。でも…幸せだった。

彼女にとって「幸せ」とは,単なる肯定的な感情の集積ではない。それは「楽しさ」「悲しさ」「不安」「恋」など,多様な感情によって成り立っている。他者との触れ合いから得た複雑な感情の複合体こそが,彼女にとっての「色」の本質だったのだろう。

物語は,他者からもらった〈色〉への想いを込めた瞳美のモノローグで締め括られる。 

海が青くてよかった/空が青くてよかった/あなたがくれた色/わたしの明日には/たくさんの色がある

 

『四月は君の嘘』と『色づく世界の明日から』の共通点は,主人公が恋愛によって〈色〉を取り戻すと同時に,愛する人との別れを運命付けられている点だ。〈色〉と〈恋愛〉というポジティブな連想に,〈悲しみの超克〉という試練が加味されることで,ドラマの重層性を高めている。こうした作品では,〈無彩色/有彩色〉〈悲/喜〉という反意概念が相互に排他的な関係にあるのではなく,両者を共に合わせた複合概念によって,人の感情の本来的な有様を描いているのだと言える。

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【メインスタッフ】
監督:篠原俊哉/シリーズ構成:柿原優子/キャラクター原案:フライ/キャラクターデザイン・総作画監督:秋山有希/撮影監督:並木智富田喜允

色彩設計:中野尚美 

色づく世界の明日から Blu-ray BOX 1

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  • 発売日: 2019/02/02
  • メディア: Blu-ray
 
色づく世界の明日から Blu-ray BOX 2

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  • 発売日: 2019/03/02
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色づく世界の明日から Blu-ray BOX 3

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  • 発売日: 2019/04/02
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『荒ぶる季節の乙女どもよ』(2019年夏):わたしたちの色

高校の文芸部に所属する小野寺和紗菅原新菜須藤百々子曾根崎り香本郷ひと葉は,ある日,新菜の発した「セックス」という言葉をきっかけに,性と愛を巡る現実と妄想に翻弄されていく。彼女たちは〈性〉の象徴の周囲をスラップスティックさながらにドタバタと駆け巡りながら,互いにぶつかり合い,そして互いを理解していく。

この作品は,前掲の3作品と比べれば全体的におとなしめの色彩設計だが,最終話「乙女心のいろいろは」では,〈色〉が明確に主題化されている。

「男女交際禁止令」によって,り香を退学処分にした校長と教頭に抗議すべく,和沙らは顧問のミロを人質にとって夜の学校に立て篭もる。しかし,和沙,和沙の彼氏である泉に告白しようとする新菜,新菜を慕う百々子との間で次第に感情がぶつかり合い,そこへ泉本人が入り込んだことにより収拾がつかなくなる。そこへ,和沙が唐突に「戦いませんか」と提案する。

この時,り香が発した「色情」という言葉からの連想で,顧問のミロが戦いの代わりに「色鬼」をすることを提案する。

色鬼は,主観と客観があやふやなところで,正解のジャッジを求められる。各々が自らの視点を晒しあうことで,話し合いに似た効果が生まれるのではないでしょうか。[中略]皆さんは今,新しく芽生えた感情に必死で名前をつけようとしている。その作業と同じように,色の名前を修飾語,それぞれの言葉で飾って,それぞれの心の色を晒け出すんですよ。

(強調は引用者による)

ひと葉の「明け方の空に軽くため息をついた満月の灰色」,百々子の「菅原氏のことを想って,夜も眠れない桃子の桃色」,新菜の「わたしたちは青い群れ」。鬼の心そのものであるそれぞれの〈色〉を探して,彼ら/彼女らは奔走する。〈色〉の持つ様々な含意-性愛,恋愛,情愛,多様性,心の動き-をドラマに盛り込んだ,含蓄のあるラストシーンだ。

かくして,彼女たちは仲間とのぶつかり合いから,自分独自の〈色〉を見つけ出し,無機質な学校の壁面をカラフルに彩る。

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『荒ぶる季節の乙女どもよ』最終話「乙女心のいろいろは」より引用 ©︎岡田麿里・絵本奈央・講談社/荒乙製作委員会

これが「荒ぶる乙女」たちの〈色〉だ。彼女たちは自分の〈色〉を見つけ出し,相手の〈色〉を理解しながら,少しずつ大人になっていくだろう。

今までこの校舎を牛耳ってた青が,白い光に照らされたら,色だらけになりました。これだけの色が,青の下に眠ってた。染まっていくんじゃない。汚れされていくんでもない。新しい気持ちに照らされると,自分でも気づいていなかった,もともと自分が持ってた色が,どんどん浮かび上がってくるん
だ。(和沙のモノローグより)

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『荒ぶる季節の乙女どもよ』最終話「乙女心のいろいろは」より引用 ©︎岡田麿里・絵本奈央・講談社/荒乙製作委員会

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【メインスタッフ】 
原作:岡田麿里絵本奈央/監督:安藤真裕塚田拓郎/脚本:岡田麿里/キャラクターデザイン・総作画監督:石井かおり

色彩設計:山崎朋子

 

以上,〈色と青春〉というテーマの4作品を挙げてみた。

無論,色の持つ意味は一義的ではない。有彩色にネガティブな意味を読み込む作品もありうるだろうし,無彩色を中心に据えた色彩設計も当然存在する。今後,アニメがその豊かな色彩表現力を武器に,他の媒体では不可能な独自の色彩解釈を繰出してくることを楽しみにしたい。

2021年 冬アニメは何を観る?来期オススメアニメの紹介ー2020年秋アニメを振返りながらー

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『ワンダーエッグ・プライオリティ』公式Twitterより引用 ⒸWEP PROJECT

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2020年 秋アニメ振返り

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2020年秋アニメは“豊作”と言われただけあって,大変魅力的な作品が多かった。現在,終盤を迎えつつある作品の中から注目作品をいくつかピックアップしておこう。

田口智久監督『アクダマドライブ』は,ユニークな映像表現と奇想天外なストーリーを全面に押し出しながらも,要所でエモーショナルな心情表現を挿入する繊細な演出が目を引く。当初の期待通り,今期のオリジナルアニメの中でも一際異彩を放つ秀作だ。

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朴性厚監督『呪術廻戦』は,自在なカメラワークによって見応えのあるアクションシーンを演出しており,原作の面白さを巧みに引き出している。五条悟のような魅力的なキャラクターの造形も上手く,今期のマンガ原作アニメの中では筆頭株だろう。

浅井義之監督『神様になった日』は,プレスコの特徴を活かし,主演の花江夏樹と佐倉綾音の軽快な掛け合いを見事にアニメ映像に落とし込んでいる。現在,主人公の佐藤ひなの正体を巡って物語が佳境に入っている。本作のキャッチフレーズとして示された,麻枝准の「原点回帰」がどのように表現されるか。今後の展開が楽しみだ。

以上の3作品が今期作品の中でも抜きん出ているのではないかと思うが,これに桑原智監督『安達としまむら』も加えておきたい。技術的には上記の作品よりも見劣りがするかもしれないが,金子志津江のキャラクターデザインや主演の鬼頭明里・伊藤未来の演技が,原作の入間人間の独特な世界観や台詞回しを上手く再現している。

では以下,2021年冬アニメのラインナップの中から,五十音順に注目作をピックアップしていこう。

アーヤと魔女

【スタッフ】
企 画:宮崎 駿/原 作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/脚 本:丹羽圭子郡司絵美/キャラクター・舞台設定原案:佐竹美保/音楽:武部聡志/音響演出:笠松広司/アフレコ演出:木村絵理子/キャラクターデザイン:近藤勝也/CGスーパーバイザー:中村幸憲/アニメーションディレクター:タンセリ/背景:武内裕季/アニメーションプロデューサー:森下健太郎/プロデューサー:鈴木敏夫/制作統括:吉國勲土橋圭介星野康二/監督:宮崎吾朗/制作・著作:NHK,NHKエンタープライズ,スタジオジブリ

【キャスト】
ベラ・ヤーガ:寺島しのぶ/マンドレーク:豊川悦司/トーマス:濱田岳/アーヤ:平澤宏々路

www6.nhk.or.jp

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宮崎駿の息子,宮崎吾朗が監督を務める“魔女修行モノ”アニメ。従来のジブリ作品同様,主要キャラクターには声優ではなく俳優を起用している。その一方で,手描きアニメにこだわる宮崎駿も企画として参加する本作が,フルCGという媒体をどう解釈してくるか。内容もさることながら,今後のアニメ業界におけるスタジオジブリのプレゼンスを予見する上でも注目すべき作品だろう。

裏世界ピクニック

【スタッフ】
原作:宮澤伊織/キャラクター原案:shirakaba/監督・シリーズ構成:佐藤卓哉/キャラクターデザイン・総作画監督:西畑あゆみ/クリーチャーデザイン:江間一隆/エフェクト作画監督:吉田徹(アニメアール)/美術監督:松本浩樹(アトリエPlatz)/色彩設計:岩井田洋(Assez Finaud Fabric.)/撮影監督:口羽毅(Assez Finaud Fabric.)/3Dディレクター:白石優也(FelixFilm)/編集:後藤正浩(REAL-T)/音楽:渡辺剛/アニメーション制作:LIDENFILMS×FelixFilm

【キャスト】
紙越空魚:花守ゆみり/仁科鳥子:茅野愛衣/小桜:日高里菜/瀬戸茜理:富田美憂

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TVアニメ「裏世界ピクニック」PV第2弾

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「ピクニック」というタイトルが醸し出す表面的な印象とは裏腹に,“怪異モノ”としてかなりシリアスに作り込まれた世界観であることがPVから伺える。

監督は『STEINS;GATE』(2011年春・夏)などの佐藤卓哉。佐藤は今年,劇場アニメ『どうにかなる日々』(2020年)でも,シンプルながらも原作の風合いに合った説得力のある演出を見せつけたばかりであり,期待できる作品になりそうだ。

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SK∞ エスケーエイト

【スタッフ】
監督:内海紘子/シリーズ構成:大河内一楼/キャラクターデザイン:千葉道徳/音楽:高橋諒/アニメーション制作:ボンズ

【キャスト】
レキ:畠中祐/ランガ:小林千晃/MIYA:永塚拓馬/シャドウ:三宅健太/Cherry blossom:緑川光/ジョー:松本保典/愛抱夢アダム:子安武人/菊池忠:小野賢章

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【1月番新アニメ】TVアニメ「SK∞ エスケーエイト」第2弾PV(出演:畠中祐、小林千晃ほか)

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キービジュアルだけを見て“何だスケボーか”と思うなかれ。「スケボー×バトル」という奇抜な設定に加え,キワモノ揃いのキャラクター(何せ子安武人氏も出演している)。さらにオリジナルアニメと来ている。それだけに未知数要素の多い作品だが,制作スタッフの布陣は盤石だ。監督は『Free!』(2013年夏)『BANANA FISH』(2018年夏・秋)などの内海紘子,シリーズ構成は『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006年)『甲鉄城のカバネリ』(2016年春)『プリンセス・プリンシパル』(2017年夏)などの大河内一楼,制作は『モブサイコ100』(2016年夏)『僕のヒーローアカデミア』(2016年春)などのボンズ。これだけの豪華スタッフが揃っては,注目しないわけにいくまい。

スケートリーディング☆スターズ

【スタッフ】
原作:谷口悟朗バンダイナムコアーツJ.C.STAFF/総監督:谷口悟朗/監督:福島利規/シリーズ構成・脚本:木村暢/キャラクターデザイン原案:枢やな/キャラクターデザイン・総作画監督:伊東葉子/キーアニメーター:高木有詩/衣装デザイン原案:オサレカンパニー/美術監督:奥村泰浩(スタジオリセス)/色彩設計:店橋真弓/撮影監督:廣瀬唯希/編集:瀧川三智(REAL-T)/音響監督:明田川仁/振付・パフォーマンスディレクター:TETSU(Bugs Under Groove)/共同振付:小林宏一(プリンスアイスワールド)/音楽:高橋諒/アニメーション制作:J.C.STAFF

【キャスト】
前島絢晴:内田雄馬/流石井隼人:古川慎/篠崎怜鳳:神谷浩史/寺内正太郎:日野聡/桐山樹:前野智昭/望月雪光:花江夏樹/望月暁光:土田玲央/城ノ内颯太:千葉翔也/窪田智之:佐藤元/姫川泉澄:梅原裕一郎/氷室泰冴:小野友樹/倉吉虎之助:竹田海渡/久遠寺夢空:斉藤壮馬/石川一:野島裕史/石川二:野島健児

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TVアニメ『スケートリーディング☆スターズ』 PV②

「スケートリーディング」という,架空のフィギュアスケート団体競技を設定したオリジナルアニメ。何より興味深いのは,原作と総監督に谷口悟朗の名が挙げられていることだろう。谷口と言うと,どちらかと言えばSFやロボットアクションの印象が強い。その彼がフィギュアスケートを素材にどんなストーリーテリングをしてくるか。また,フィギュアという題材に関しては,『ユーリ!!! on ICE』(2016年秋)という先行作品があるだけに,どんなチャレンジを仕掛けてくるか楽しみだ。

天地創造デザイン部

【スタッフ】
監督:増井壮一/シリーズ構成:横手美智子/キャラクターデザイン:大橋幸子/プロップデザイン:今門卓也/色彩設定:田中美穂/美術監督・美術設定:根本洋行(アートチーム・コンボイ)/撮影監督:寺本友紀/編集:本田優規/音楽:松尾早人/音響監督:飯田里樹/音響制作:スタジオマウス/音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ/アニメーション制作:旭プロダクション

【キャスト】
下田:榎木淳弥/上田:原由実/土屋:井上和彦/木村:梅原裕一郎/水島:諏訪部順一/金森:岸尾だいすけ/冥戸:大空直美/海原:竹内良太/火口:泊明日菜/ケンタ:木野日菜/横田:逢坂良太/虫部の面々:水島大宙/神様:龍田直樹

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TVアニメ「天地創造デザイン部」本PV

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天地創造の後,面倒になった神(クライアント)が動物の創造を「天地創造社」に下請けに出すというユニークな設定。『はたらく細胞』(2018年夏)と同系統の”教養型お仕事アニメ”である。この手のアニメは本当に勉強になるので見逃せない。『SHIROBAKO』(2014年秋-2015年冬)などの横手美智子がシリーズ構成を務めるのも注目ポイントだ。

バック・アロウ

【スタッフ】
監督:谷口悟朗/シリーズ構成・全話脚本:中島かずき/キャラクター原案:大高忍/キャラクターデザイン・総作画監督:菅野利之/ブライハイトデザイン:天神英貴/CGアクションスーパーバイザー:山根理宏/音楽:田中公平/CG制作:ダイナモピクチャーズ/撮影:チップチューン/背景:スタジオワイエス/アニメーション制作:スタジオヴォルン

【キャスト】
バック・アロウ:梶裕貴/アタリー・アリエル:洲崎綾/エルシャ・リーン:小澤亜李/ビット・ナミタル:小野賢章/カイ・ロウダン:置鮎龍太郎/シュウ・ビ:杉田智和/レン・シン:潘めぐみ/フィーネ・フォルテ:小清水亜美/プラーク・コンラート:小松未可子

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TVアニメ『バック・アロウ』PV第2弾/2021年1月放送開始

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何と言っても,監督・谷口悟朗×シリーズ構成・中島かずき(しかも全話脚本!)という布陣のビッグプロジェクトだ。これを見逃す手はないだろう。

壁に守られた「リンガリンド」辺境の「エッジャ村」に,ある日バック・アロウという青年が突然姿を現したことから物語は始まる。PVには,「ブライハイト」というロボットかサイボーグの様なもので戦うアクションシーンが見られる。先ほどの『スケートリーディング☆スターズ』と比べ,これぞ谷口という世界観の作品だ。

BEASTARS(第2期)

【スタッフ】
原作:板垣巴留/監督:松見真一/脚本:樋口七海/キャラクターデザイン:大津直/CGチーフディレクター:井野元英二/美術監督春日美波/色彩設計:橋本賢/撮影監督:古性史織,蔡伯崙/編集:植松淳一/音楽:神前暁(MONACA)/制作:オレンジ

【キャスト】
レゴシ:小林親弘/ハル:千本木彩花/ルイ:小野友樹/ジュノ:種﨑敦美/ジャック:榎木淳弥/ミグノ:内田雄馬/コロ:大塚剛央/ダラム:小林直ボス:下妻由幸/カイ:岡本信彦/サヌ:落合福嗣/ビル:虎島貴明/エルス:渡部紗弓/ドーム:室元気/キビ:井口祐一/シイラ:原優子/アオバ:兼政郁人/エレン:大内茜/ミズチ:山村響/レゴム:あんどうさくら/ピナ:梶裕貴/ゴウヒン:大塚明夫/市長:星野充昭/オグマ:堀内賢雄/イブキ楠大典/フリー:木村昴

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TVアニメ「BEASTARS」 第2期PV

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2019年秋クールの第1期放映に続く第2期。擬人化された動物の世界を舞台に,肉食獣と草食獣の間の対立・共生・愛を扱ったアニメである。1期では,主人公・レゴシ役の小林親弘の繊細な演技の他,制作のオレンジが見せつけた3DCGの新たな可能性が大きな見所だった。第2期も楽しみな作品である。 

約束のネバーランド(第2期)

【スタッフ】
原作:白井カイウ,出水ぽすか/監督:神戸守/シリーズ構成:大野敏哉,白井カイウ/キャラクターデザイン・総作画監督:嶋田和晃/プロップデザイン:板井寛樹/美術設定:池田繁美(アトリエ・ムサ),大久保修一(アトリエ・ムサ),友野加世子(アトリエ・ムサ),乗末美穂(アトリエ・ムサ)/美術監督:池田繁美(アトリエ・ムサ),丸山由紀子(アトリエ・ムサ)/色彩設計:横田明日香/撮影監督:塩川智幸(T2studio)/CG監督:神田瑞帆/編集:松原理恵(瀬山編集室)/音楽:小畑貴裕/音響監督:清水勝則/アニメーション制作:CloverWorks

【キャスト】
エマ:諸星すみれ/レイ:伊瀬茉莉也/ドン:植木慎英/ギルダ:Lynn/ナット:石上静香/アンナ:茅野愛衣/トーマ・ドミニク:日野まり/ラニオン:森優子/アリシア・マルク:青山吉能/フィル・クリスティ:河野ひより/ロッシー:林鼓子/ジェミマ:久遠エリサ/イベット:白城なお/ソンジュ:神尾晋一郎/ムジカ:種﨑敦美

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TVアニメ「約束のネバーランド」第2期CM第2弾

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ビッグタイトルの続編である。多くを語るまでもないだろう。第1期の水準は極めて高かったので,このままテンションを落とさずに最後まで駆け抜けて欲しい作品だ。 

ワンダーエッグ・プライオリティ

【スタッフ】
原案・脚本:野島伸司/監督:若林信/キャラクターデザイン・総作画監督:高橋沙妃/コンセプトアート:taracod/副監督:山﨑雄太/アクションディレクター:川上雄介/コアアニメーター:小林恵祐/ゲストキャラクターデザイン:久武伊織/プロップデザイン:井上晴日/デザインワークス:大鳥,絵を描くPETER/色彩設計:中島和子/美術監督:船隠雄貴/撮影監督:荻原猛夫/3DCG:Boundary/編集:平木大輔/音響監督:藤田亜紀子/音楽:DÉ DÉ MOUSE,ミト(クラムボン)/音響効果:古谷友二/企画プロデュース:植野浩之(日本テレビ),中山信宏(アニプレックス)/制作:CloverWorks/製作:WEP PROJECT/主題歌:アネモネリア

【キャスト】
大戸アイ:相川奏多/青沼ねいる:楠木ともり/川井リカ:斉藤朱夏/沢木桃恵:矢野妃菜喜

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完全新作オリジナルTVアニメーション「ワンダーエッグ・プライオリティ」第1弾PV

 

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原案・脚本をあの野島伸司が手がけるオリジナルアニメである。野島と言えば,『愛という名のもとに』(1992年)『高校教師』(1993年)『明日,ママがいない』(2014年)など,テレビドラマのフィールドで話題作・問題作を手がけた脚本家だ。その彼が初めてのアニメ脚本に携わるというだけあって,大いに期待が膨らむ。しかし,監督の若林信,キャラクターデザイン・総作画監督の高橋沙妃,制作のCloverWorks,およびキービジュアルとPV以外,現時点ではほとんど情報がない。ヒントになるのは,野島の「いつからかドラマにも『コンプライアンス』が侵食して、僕のような物書きは翼をもがれた感覚で、より自由度の高い場所を模索していました」というコメントだろう。*1 仮に野島がアニメに自由な表現を求めたのだとするなら,彼のドラマ脚本よりも伸びやかな作品を期待できるのかもしれない。

制作は『約束のネバーランド』(2019年冬)『空の青さを知る人よ』(2019年)のCloverWorksというだけあり,映像表現の水準が高い作品であることがPVから伺える。不確定要素の多い作品ではあるが,有望株と言えるだろう。

【2020年12月22日追記】

12月16日にスタッフ,キャストの発表に加え,第1弾PVも公表されたので,上に追記する。とは言えオリジナルアニメということもあり,未知数の多い作品ではある。しかしPVを見るに,キャラクターデザインを含めた画作りや世界観は水準以上と言えるだろう。

2021冬アニメのイチオシは…

2021年秋アニメの期待作として,今回は9作品を挙げた。イチオシとしては,オリジナル作品である『ワンダーエッグ・プライオリティ』を挙げる。ほとんど情報のない謎の作品だが,野島伸司とPVの映像に期待をかけることにする。

次点として,『バック・アロウ』『BEASTARS(第2期)』『裏世界ピクニック』を挙げておこう。

ちなみに,いつもご覧頂いている方はお気づきかもしれないが,本記事ではどちらかと言うとマンガやラノベ原作のアニメよりも,オリジナルアニメを優先していることをお断りしておく。

TVアニメ『アクダマドライブ』(2020年 秋)「06 BROTHER」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『アクダマドライブ』「06 BROTHER」までのネタバレを含みます。

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『アクダマドライブ』公式Twitterより引用 ©ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

akudama-drive.com


TVアニメ「アクダマドライブ」PV第2弾

奇抜なストーリーとサイバーパンク風味の美術が異彩を放つオリジナルアニメ『アクダマドライブ』。先日放送された「06 BROTHER」は,スタイリッシュなアクションとエモーショナルな演出が一際目を引く“神回”であり,特筆に値するクオリティだったと言えるだろう。

作品データ(リンクはWikipediaもしくは@wiki)

【スタッフ】
原作:ぴえろToo Kyo Games/ストーリー原案:小高和剛/キャラクター原案:小松崎類/監督:田口智久/シリーズ構成:海法紀光/キャラクターデザイン:Cindy H. Yamauchi/メカニックデザイン:山本翔宮川治雄常木志伸/美術監督:谷岡善王/美術設定:青木薫/色彩設計:合田沙織/撮影監督:山田和弘/CG監督:藤谷秀法/音響監督:長崎行男/音楽:會田茂一/アニメーション制作:studioぴえろ

【キャスト】
一般人:黒沢ともよ/運び屋:梅原裕一郎/喧嘩屋:武内駿輔/ハッカー:堀江瞬/医者:緒方恵美/チンピラ:木村昴/殺人鬼:櫻井孝宏

【「06 BROTHER」スタッフ】
脚本:笹原嘉文,田口智久/絵コンテ:笹原嘉文/演出:笹原嘉文/作画監督:小澤早依子

シンメトリー

シンカンセンから「兄」と「妹」を奪取したアクダマたちの前に,再び「処刑課師匠」が立ちはだかる。決着の機会を得た「喧嘩屋」は,歓喜雀躍して師匠に襲いかかる。

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『アクダマドライブ』「06 BROTHER」より引用 ©ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

この対決シーンの合間に,処刑課における師弟関係構築の秘密を「ボス」が「処刑課弟子」に明かすシーンが挿入される。それは構成員の心に「情」を芽生えさせることによって「生きる意味」を与え,生存率を高めるというものであった。この一連のクロスカットにより,これまで冷静冷酷にしか見えなかった師匠の心の根底に,弟子への「情」が潜んでいることを視聴者は知らされる。

その後,「カンサイ汚染地区 遊園地跡」の観覧車に落ちた雷を合図にBGMがカットインし,2人の決戦が最終局面に入ったことを告知する。

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『アクダマドライブ』「06 BROTHER」より引用 ©ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

撮影効果をふんだんに使用したリッチなカットは,喧嘩屋と師匠の双方の“狂喜”をうまく現している。この辺りはBlu-rayで細部の処理を確認したいところだ。

決戦の場は「旧カンサイブリッジ」へと移る。「なぜお前はこんなことをやってるんだ」と問いかける師匠に,「大好きだからだよ!」と答える喧嘩屋。その時,師匠を追ってやって来た弟子の声が遠くから聞こえて来る。その声を聞き,何かに気付かされたように目を見開く師匠。その後,ほくそ笑みながら「なるほどな。俺はそんなお前らが,大嫌いだ!」と言い放つ。

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『アクダマドライブ』「06 BROTHER」より引用 ©ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

2人はゆっくりと立ち上がり,意を決したかのように拳を握る。その後やにわに,カメラがはるか遠方から橋へ向かって高速でトラックアップし,激しくぶつかり合う2人を捉える。この時,師匠と喧嘩屋の所作から橋の構造に至るまで,すべてが左右対称に描かれているのがとても面白い。

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『アクダマドライブ』「06 BROTHER」より引用 ©ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

闘いそのものに対し純粋な愉悦を感じる喧嘩屋と,アクダマ排除という正義感と弟子への情によって突き動かされる師匠。この2つの価値観の絶望的なまでのディスコミュニケーションが,物理的な力においてはシンメトリックに拮抗する。この奇妙な緊張感を,このシーンは見事に映像に落とし込んでいる。

エモーション

倒れる師匠の元に弟子が駆けつける。師匠は何かを弟子に伝えようと口を動かすが,すぐに事切れる。この時の弟子の表情をアップで捉えたカットが素晴らしい。師匠の遺体を前に呆然と見開かれたその目に雨粒が流れ込み,感情を失った彼女の心理を代弁するかのように頬を伝い落ちる。マチスモに支配されたシークエンスに代わり,繊細なセンチメントが画面を覆う。これをエモいと言わずに何と言おうか。

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『アクダマドライブ』「06 BROTHER」より引用 ©ぴえろ・TooKyoGames/アクダマドライブ製作委員会

これまで専ら無機質だった風合いの作品中に効果的に仕込まれたエモーショナルな演出は,この作品の奥行きの深さを感じさせる。今クールも残すところ半分ほどとなったが,後半の展開にも大いに期待したいところだ。

 

『アクダマドライブ』は地上波放送の他,FODにて独占配信を行っている(2020年11月22日現在は期間限定無料配信)。

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「『美少女戦士セーラームーン』幾原邦彦演出回を観る」記事まとめ

 *このレビューはネタバレを含みます。

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

当ブログでは,幾原邦彦が演出/監督として携わった『美少女戦士セーラームーン』をレビューしてきたが,前回の『劇場版R』のレビューでその作業が完結したこともあり,以下にこれまでの記事をまとめておく。これから『セーラームーン』シリーズを再鑑賞する方の参考になれば幸いである。

 

『美少女戦士セーラームーン(無印)』(1992-1993年)

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美少女戦士セーラームーン Blu-ray COLLECTION VOL.1

美少女戦士セーラームーン Blu-ray COLLECTION VOL.1

  • 発売日: 2017/06/14
  • メディア: Blu-ray
 
美少女戦士セーラームーン Blu-ray COLLECTION VOL.2<完>

美少女戦士セーラームーン Blu-ray COLLECTION VOL.2<完>

  • 発売日: 2017/08/09
  • メディア: Blu-ray
 

 

 『美少女戦士セーラームーンR』(1993-1994年) 

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美少女戦士セーラームーンR Blu-ray COLLECTION VOL.1

美少女戦士セーラームーンR Blu-ray COLLECTION VOL.1

  • 発売日: 2017/10/04
  • メディア: Blu-ray
 
美少女戦士セーラームーンR Blu-ray COLLECTION VOL.2<完>
 

 

『美少女戦士セーラームーンS』(1994-1995年)  

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美少女戦士セーラームーンS Blu-ray COLLECTION VOL.1

美少女戦士セーラームーンS Blu-ray COLLECTION VOL.1

  • 発売日: 2018/11/14
  • メディア: Blu-ray
 
美少女戦士セーラームーンS Blu-ray COLLECTION VOL.2<完>
 

 

『美少女戦士セーラームーンSuperS』(1995-1996年)

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美少女戦士セーラームーンSuperS Blu-ray COLLECTION VOL.1

美少女戦士セーラームーンSuperS Blu-ray COLLECTION VOL.1

  • 発売日: 2019/05/08
  • メディア: Blu-ray
 
美少女戦士セーラームーンSuperS Blu-ray COLLECTION VOL.2<完>
 

 

『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』(1993年)

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劇場アニメ『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』(1993年)レビュー[考察・感想]:愛の花

*このレビューはネタバレを含みます。

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

シリーズ初の劇場版作品でありながら,興行的に大成功を収めた『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』(1993年)。監督はTV版『R』第60話よりシリーズディレクターを務めた幾原邦彦である。当ブログでは,これまでにもTVシリーズの『セーラームーン』幾原演出回を扱ってきたが,本記事ではその締めくくりとして,この劇場版『R』をレビューしたいと思う。

なお,TVシリーズの幾原演出回については以下の記事を参照して頂きたい。

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あらすじ

植物園を訪れたうさぎ一行の頭上に,突如ピンク色の花びらが舞い降り,フィオレという不思議な少年が姿を現す。彼は困惑する衛に「やっと君に喜んでもらえる花を見つけたんだ」と親しげに語りかけるが,衛を「彼氏」と呼ぶうさぎには明らかな敵対心を示すのだった。一方で,地球には謎の小惑星が接近しつつあり,街では人々が何者かにエナジーを奪い取られる事件が発生する。

 

花の記号性

「あたし,月野うさぎ!こう見えても正義の味方!」というお馴染みのセリフから始まる映画は,うさぎが4人のセーラー戦士を紹介し,「地球の平和も,あたしたちにノリノリでまっかせなさい!」と元気なかけ声を上げるカットまでは,TVシリーズと同じ普段通りのトーンで進行していく。

ところが,この後のカットから映像はわずかに転調する。5人の姿に代わって真っ赤なバラの花が大写しになり,花びらを散らせながら闇の中に消え去る。暗闇と無音の状態が数秒間続いた後,再び無数のバラの花の絵と共に,主題歌「ムーンライト伝説」のイントロが始まる。

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

幾原によれば,バラはセーラー戦士たちの「人間性」「人間的なつながり」を象徴しており,花が闇に消え去るカットは,映画がセーラー戦士たちにとって「シリアスなドラマ」になることを予兆しているのだという。また暗闇の間は,映画館という場の特性を活かし,観客に不安感を掻き立てる効果を狙ったものだ。*1 複数の記号と意味作用に満ちた印象的な導入部である。

バラと言えば,〈愛〉を象徴するのに使われる最も一般的なシンボルでもある。幼少の衛がフィオレにバラをプレゼントするシーンは,2人の関係性にボーイズ・ラブのテイストを加味し,うさぎとの間にユニークな三角関係を生み出す。これは,物語後半で明確になる〈愛による孤独の解消〉というテーマが,因習的なジェンダー規範に制約されない普遍的な理念であることを暗示しているように思える。幾原らしい問題設定と感性だ。

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

 

ギャップ生成装置としてのギャグ

ところで,幾原のセーラームーンと言えば,その独特の間合いで繰り出されるギャグシーンを忘れるわけにはいかない。本作でも,冒頭で衛からのキスを待ち受けるうさぎのアップ,気絶したうさぎの息を止めるちびうさ,「紳士服ヒグチ」の看板の中から登場するタキシード仮面,うさぎの額をオモチャのピストルで撃つちびうさと,随所にシュールなギャグシーンが盛り込まれている。

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

とりわけ,ちびうさが気絶したうさぎの目を覚まそうとするシーンでは,ちびうさがうさぎの口を塞いで息を止めるスチルカット(上図右上)が無音のまま18秒近くも使用されているのが驚きだ(ちなみにBlu-rayのチャプターリストでは,この箇所のインデックスが「口を押さえて18秒」となっている)。冒頭のバラが散った後の暗闇のカットとは別の意味で,当時の劇場の観客を騒つかせたことだろう。

うさぎを中心としたギャグシーンは,観客を飽きさせないためのエンタメスパイスであると同時に,観客にうさぎへの親近感を抱かせつつ,後半のシリアスシーンにおいてセレニティ姿になったセーラームーンとのギャップを創出するという効果もある。『セーラームーン』シリーズでは,三石琴乃の巧みな演じ分けとも相俟って,このギャップが物語に緩急をつける最大の効果となっているのだ。そしてまたこのギャップこそが,『セーラームーン』という物語の本質が〈変身〉であることをはっきりと示しているとも言える。『セーラームーン』の変身においては,外見的な変化よりも内面的な変容が重視される。ギャグとシリアスのコントラストは,この内面的変容を補強する装置としても機能しているのだ。

変身における〈内面的変容〉については,TVシリーズ『S』に関する以下の記事も参照頂きたい。

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〈愛の守護者〉としてのセーラームーン

本作最大の見どころは,四守護神およびタキシード仮面とセーラームーンとの間の〈保護/被保護〉の関係を転倒させ,「みんなを守る/誰も孤独にさせない」というセーラームーンの慈愛を強調した点だ。

フィオレが自分と衛の「孤独」をセーラームーンに語る背後で,マーキュリー,マーズ,ジュピター,ヴィーナスが,それぞれのイメージカラーを基調としたモノトーンの映像の中,かつて経験したそれぞれの「孤独」の場面を想起する。TVシリーズでは,地球への転生後,普通の中学生として日常に溶け込んでいるかのように思えた彼女たちが,実は深い孤独に苛まれていたことが明かされる衝撃的なシーンだ。それと同時に,あたかもフィオレがセーラー戦士たちの心情を代弁しているかのような錯覚を起こさせる演出にもなっている。フィオレの孤独とセーラー戦士の孤独が重ね合わせられることで,両者が単純な敵対関係にあるのではなく,共感する可能性があることを暗示した見事なシーンである。

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

セーラームーンを否定し止めを刺そうとするフィオレに対し,四守護神たちは,セーラームーンが「かけがえのないもの」 (マーキュリー)を与えてくれた人なのだと説く(この時,マーキュリーとマーズがセーラームーンを「うさぎ」と呼んでいることにも注目だ)。

そして終盤,セーラームーンの胸に輝く銀水晶に触れたフィオレは,彼女の記憶の中で,タキシード仮面のバラの起源がうさぎのバラだったことを知る。事故で両親を亡くし,友のフィオレとも引き離される衛の孤独を癒そうと,幼いうさぎが彼に一輪のバラを手渡したのだ。そして観客もまた,これまでセーラームーンたちの窮地を救ってきた彼のバラが,“攻撃”の手段ではなく,〈愛の返礼〉だったことを知るのである。

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

したがって,タキシード仮面が最後にフィオレの胸に放ったバラも,孤独に苛まれるフィオレを救う〈愛の贈り物〉だったに違いない。しかしフィオレは「だって衛くんが…僕に花を投げつけたんだよ…衛くんまで僕を独りにするなんて」と言い,衛のバラを敵対行為と解釈してしまう。このディスコミュニケーションが,物語終盤における最大の悲哀となっている。

この時,一面に咲いていたキセニアの花が一斉に枯れ,小惑星は落下を始める。画面には,徐々に離れていく地球と月の間に小惑星が割って入るようにしながら降下していく様が映し出される。幾原によれば,このカットにおける地球(衛)と月(うさぎ)の関係は「すべての人間関係の代表」であり,離れていく月と地球,および枯れゆく花には,「人どうしの繋がりっていうのは,あまり信じられないものなのかな,というちょっと暗いムード」を感じさせる意図があったのだという。*2 

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

 

 Moon Revenge

そして,亜美,レイ,まこと,美奈子,衛,フィオレと,その孤独とディスコミュニケーションを解消しみんなを守ろうとする〈愛の守護者〉うさぎの闘いを一気に盛り上げるのが,エンディング主題歌の「Moon Revenge」である。

しばし俯いていたうさぎが,決意したように顔を上げる。一度瞬きをした後,彼女は胸から遊離した銀水晶を高く掲げる。カメラがうさぎの周囲をぐるりと回りながら捉えると同時に,彼女はセレニティの姿に変身し,再び正面を向いたその額には月の文様が光り輝く。

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

続いて,四守護神たちがうさぎに「かけがえのないもの」を与えてもらった過去を回想する。各戦士の回想シーンと「Moon Revenge」のそれぞれのソロパートが重なる。〈孤独〉の回想とコントラストを成すように,このシーンは鮮やかなフルカラーで描写されている。

ここまで,うさぎと四守護神の表情や所作と「Moon Revenge」の楽曲が完璧なタイミングでシンクロナイズされており,シーンの感動を否応なく盛り上げる。クライマックスシーンにおける劇伴使用の中でも最も成功した例と言えるだろう。

銀水晶は砕け,うさぎは事切れてしまう。フィオレが衛の前に姿を現し,自分のエナジーを集めた「生命の花」を手渡す。衛がその蜜を口移しで与えると,うさぎは息を吹き返す。「言ったでしょう。全部,あたしが守ってみせるって」といううさぎのセリフの後,5人の姿を写したカメラはやにわにトラックバックし,黒い宇宙に浮かぶ地球と月を捉える。月は地球に寄り添うように大きく描かれ,その間には,〈つながり=愛〉の象徴である花びらがどこからともなく流れる本作におけるうさぎの慈愛,衛への想い,花の象徴性が端的に要約された素晴らしいラストカットだ。

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『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』より引用 ©︎武内直子・PNP・東映アニメーション ©︎東映・東映アニメーション 1993

“子ども向けアニメ”として制作されながら,とても子ども向けとは思えない記号と暗示に満ちた映画である。しかしだからこそ,どの年齢,どの世代がいつの時代に観ても,いくつもの意味を見出すことのできる普遍的な作品だ。 本記事を読まれた方には,『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』を改めてご覧になり,再評価してもらいたいと思う。

 

作品データ(リンクはWikipediaもしくは@wiki)

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:武内直子/監督:幾原邦彦/助監督:五十嵐卓哉/キャラクターデザイン・作画監督:只野和子/企画:東伊里弥/製作担当:樋口宗久/脚本:富田祐弘/音楽:有澤孝紀/撮影:𣘺/編集:吉川泰弘録音:立花康夫/美術監修:窪田忠雄/美術監督:谷口淳一色指定・検査:辻田邦夫 

原画:松下浩美山内則康黒沢守新井浩一柳沢正秀濱洲英喜青木康浩,蛭間大介,青山孝,梨澤孝司田中雄一志田直俊須賀重行長谷川眞也羽山淳一香川久伊藤郁子

【キャスト】
月野うさぎ:三石琴乃/火野レイ:富沢美智恵/水野亜美:久川綾/木野まこと:篠原恵美/愛野美奈子:深見梨加/ちびうさ:荒木香恵/ルナ:潘恵子/アルテミス:高戸靖広/地場衛:古谷徹緒方恵美(少年時代)フィオレ:緑川光丸尾知子(少年時代)キセニアン:冬馬由美/グリシナ:山崎和佳奈カンパニュラ:西川宏美

 

作品評価

キャラ モーション 美術・彩色 音響
5 3.5 4 5
CV ドラマ メッセージ 独自性
5 5 5 5
普遍性 考察 平均
5 5 4.8
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・「平均」は小数点第二位を四捨五入。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

www.otalog.jp

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商品情報

発売中の『美少女戦士セーラームーン THE MOVIE Blu-ray 1993-1995』には,『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』の他,『R』と同時上映された『メイクアップ!セーラー戦士』『劇場版 美少女戦士セーラームーンS』(1994年),『劇場版 美少女戦士セーラームーンSuperS セーラー9戦士集結!ブラック・ドリーム・ホールの奇跡』(1995年),『SuperS』と同時上映された『スペシャルプレゼント 亜美ちゃんの初恋 美少女戦士セーラームーンSuperS 外伝』が収められている。また,本記事でも言及した幾原邦彦のインタビューも収録されており(20代の幾原監督が『R』について熱く語る様は必見だ),ファンコレクションとして必携だ。

美少女戦士セーラームーンR

美少女戦士セーラームーンR

  • 発売日: 2016/09/12
  • メディア: Prime Video
 

*1:『美少女戦士セーラームーン THE MOVIE Blu-ray 1993-1995』特典「劇場セーラームーンの世界 スペシャルトーク 監督 幾原邦彦」

*2:同上。