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(更新: ORICON NEWS

「なぜTVerで配信しなきゃいけないの?」7年で各局のマインドに変化、視聴率に代わる新たな指標に

 2015年にサービス開始し、今夏、5000万ダウンロードを突破したTVer。最近では「リアルタイム配信」のみならず、地上波で番組放送中の「追っかけ再生」も可能で、特にテレビ離れが叫ばれる10代の利用が拡大している。ユーザー数は7年で15倍に成長し、いまや月間再生数は2.5億回におよぶ。“見逃し配信数”が視聴率に替わる新たな指標になりつつある今、TVer急成長の変遷と今後の展望を同社サービス事業本部の渡辺実氏に聞いた。

当初は海賊版・コピー防止でローンチ「YouTubeやVODを脅威と捉えてなかった」

 2016年時点のダウンロード数は500万だったが、2020年頃からコロナ禍を経て急成長を遂げているTVer。番組数は年間100のペースで増加し、現在はレギュラーだけで約600番組を配信。全国115放送局から日々寄せられている。

「そもそもは海賊版コンテンツ、不正コピーの防止など、YouTubeで流されてしまうのであれば、公式にきれいな画像で見せようなどの目的で立ち上げられたのですが、7年前のローンチ時は、各局まだYouTubeやVODを脅威と捉えておらず、“なんでTVerやらなければいけないの?”といったマインドでした。ですが最近は、局内でも“TVerで流さないと”、“見逃し配信で見てもらわないと”と言われるようになってきました」(渡辺氏/以下同)
 今期フジテレビ系で放送中のドラマ『silent』に関しては、見逃し配信が民放ドラマ歴代最高を記録し話題になった。制作陣もTVerを重視し始めた背景には、“配信再生数”という評価軸が生まれたことが大きい。また、広告収入によるマネタイズが整ってきたこともある。さらに、コネクテッドTVの普及により、VODサービスと並び、大きなテレビ画面でTVerを見られるようになったこともユーザー拡大に繋がった。

「現在のランキング上位はやはりドラマですね。10位中、8〜9番組を占めています。コンテンツ数で見ればバラエティが圧倒的に多いので、全体ではドラマとバラエティの視聴者が半々。バラエティにおいては『水曜日のダウンタウン』(TBS系)など、ダウンタウンさんの番組が抜けて人気がある傾向にあります」

消えた民放各局のライバル関係、「テレビ観ない」若年層増加で業界に生まれた“結束力”

 地上波よりも、視聴層が若いのも特徴だ。今年6月時点で、ティーン層の月間ユーザーは昨年比171%を記録した。TVerの若年層ユーザーが年々増えている理由について、渡辺さんは「無料で、いつでもどこでもスキマ時間に観られることに加えて、学校などで話題になったシーンや、好きなタレントの出演場面だけ後からいくらでも観られる。また倍速再生が可能など、時間的コスパを重視する今の若者の視聴方法に合っているのかもしれません」と分析する。
 テレビ東京系で日曜夜6時30分から放送している『家ついて行ってイイですか?』では、若者を意識した『カレ&カノジョの家、ついて行ってイイですか?』をTVer独占配信中だ。今月からは、千鳥MC『相席食堂』(朝日放送テレビ)のTVerオリジナルコンテンツ『キャンパス食堂』を配信中。これも同番組制作チームが手掛けているが、お笑いコンビ・ダイアンが大学のキャンパスへ行くなど、地上波より若い層にヒットしそうな内容だ。

 こうした幅広い世代を囲ったTVer定着の動きは、業界全体をも変化させた。現在、長澤まさみ主演ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)が放送中だが、これに合わせ、TVerでは『長澤まさみ特集』を展開。フジテレビ系だけでなく、他局も含めた長澤主演の過去ドラマを配信した。
「以前だったら、他局が“なぜ、フジテレビのドラマを応援する為にうちから番組を出さなきゃいけないんだ”という反応だったと思いますが、今は“5局で一丸となってテレビ界全体を盛り上げよう”という流れに変わって来ています。これまでは各局の競争でしたが、現在は黒船=VODの台頭で勢力図は大きく変化。2020年に弊社が『株式会社TVer』と名を変え、各局の出資率も上がり、TVerがテレビ業界存続・復興の使命を帯びていると、各局の意識が変わりつつあるのです」

地上波NGシーンや“消えた俳優”出演作も配信、日本ドラマ「名作継承」への想い

 だが「局によってカラーが違うため、それを集約する調整は大変な作業」と、苦労も多い。例えば、若者を取り込む意識が強いフジテレビは積極的。日本テレビは、目的点まできっちり決めて提案。TBSは、普段はマイペースだがエンジンかかるとすごい。テレビ朝日はチャレンジ精神旺盛で、誰かのアイデアを皆であたためていくという傾向にあると言う。そこまでの足並みは揃ってない為、配信日時にバラつきが起こることもある。
「同時に弊社では90年代、00年代の名作ドラマなど、今の地上波では放送できないような過激シーンがある作品、またスキャンダルを起こした俳優が出演した作品も配信しています。地上波ではクレーム対象ですが、TVerに苦情が来たことはありません」

 これは、視聴者が流れてくる作品を見るのではなく、自らが“取りに行く”感覚ゆえ、「観たくないものは再生しなければいい」という意識が定着しているからではないかと渡辺氏は推測している。コンプライアンスの強化により、地上波での表現がますます制限される中、若年層にもアプローチできるTVerで昭和・平成の名作ドラマを配信することは、世代を超えた“名作の継承”にも繋がる。
「やはりテレビ番組は、それ相応の金額をかけ、映像のプロ集団が作っているため、良コンテンツが多い。そうした名作を眠らせておきたくない。現在は海外ドラマなどに押されているとも言われています。ですが、世界のエンタメにも作品力で負けてないコンテンツは日本にもたくさんあると私は考えているのです」

 現在は、織田裕二主演『東京ラブストーリー』(1991)、篠原涼子主演『アンフェア』(2006)、山下智久主演『クロサギ』(2006)なども配信中。好きなものを、いつでも観に行ける場所であるというのは、VODサービスと同様だ。しかし、毎日大量のコンテンツが追加され、新作のみならず、過去の名作もリコメンドされる点は、TVer随一。テレビのように、“観に行ったら、気づいてない面白い作品や情報が得られた”という発見の場でもありたいと渡辺氏は語る。

「TwitterやYouTubeで、誰がいつ投稿したかわからない、情報が不確かなものが有象無象にある今こそ、正しい情報をリアルタイムで届けるというのもテレビの使命だと考えています。そうしたテレビ界と配信界はこれまで権利関係が別であり、バラエティの資料映像やVTRなどで、TVerでは“権利の関係で一部配信できません”と表示されていることがあります。そのあたりも、徐々に各局でTVerで流すことが前提の番組制作になりつつあるので、地上波と配信がつながり始め、クリアになっていくかと思います」
 権利関係に加え、見逃し配信期間の延長、生放送やオリジナルコンテンツも含めたさらなる配信番組の拡充が今後の課題だ。スポーツ分野においても、先月、SMBC日本シリーズ2022の全試合ライブ配信を実現。渡辺さんが「よりテレビと差異のないプラットホームにしていきたい」と意気込むTVerが、若者のテレビ離れの突破口となるのか、今後も注目だ。


(取材・文=衣輪晋一)
TVer独占『相席食堂』特別編「キャンパス相席」(外部サイト)

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