[ひろがる明日 SDGs]

 地域のかかりつけ医として慕われ、生活習慣病などの治療に取り組む那覇市の首里城下町クリニックは週2回、診療を終えた夜のフロアを「町の自習室」として地域の子どもたちに開放し、学習後は調理師が作る温かい夕食を提供している。田名毅院長と妻で統括マネージャーの彩子さんは「勉強しながら視野を広げ、子どもたちの未来が広がることを知るきっかけになってほしい」と見守る。

 「町の自習室」は、毎週月曜と水曜の午後6時~9時半、小学生から高校生の10~15人の子どもたちが訪れ、宿題や受験勉強に取り組んでいる。近所の子だけでなく、生活が苦しくて塾に行けない子や市社会福祉協議会から紹介を受けた子、患者の子などメンバーはさまざま。学びを支援しようと、琉大医学部の大学生らも学習ボランティアとして支え、子どもたちの質問に丁寧に答えている。

 彩子さんは「勉強だけでなく、大学生と触れ合うことで視野も広がっている様子だ」と目を細める。大学生とのおしゃべり会では、科目別の勉強方法や医学部を目指した理由などを子どもたちが熱心に聞く場面もあった。

 自習室は2019年9月から始めた。田名夫妻の長女が大学に進学し、子育てに一段落ついたことなどがきっかけだった。彩子さんは「娘を育てて、子どもたちが学ぶことの大切さを実感した。患者さんたちもいない夜間のクリニックを、学ぶ場に活用したいと思った」と振り返る。

 市社協を通して、賛同した企業や団体から食材や寄付金が寄せられている。子どもたちは寄付してくれた人々に感謝の思いを書いた手紙を送り、「初めて食べた牛丼は、ほっぺたが落ちそうだった」「温かい食事が勉強の励みになる」と喜んでいる。

 田名院長は「医療機関が地域の教育に関わるのは珍しいと思う。私たちの活動が社会の新しい動きにつながるかもしれないと期待している」と話した。